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高速道路料金の件はこう考えるべきだと思う

お盆前の帰省で高速道路が混雑していることがテレビのニュースで報道されていた。料金が値下げされた結果、渋滞がひどくなったところがあるという話があった。(おそらく場所によっては実際にそうであり、場所によってはそうでなかったのだと思うが、因果関係を確実に推測できるような調査がされたかどうかは知らない。) また、解説者が「民主党は公約だった高速道路無料化にこだわっているが、もうひとつの公約のCO2排出量削減と矛盾する」と批判していた。解説者のいうことはもっともだと思う。論理的矛盾ではなく現実問題として両立しがたいという意味だが。

もう少し理屈を考えてみる。基本は(2008年初めに書いて2009年11月19日にこのブログに移した)ガソリン税に関する意見と同様だ。わたしはこの件はまったく専門でないうえに、運転免許を持っておらずふだんバス以外の自動車のことを考えていないので、見当はずれのこともありそうだが。

高速道路は、当初のふれこみでは、利用者負担で建設費用を回収できたあとは無料とされるはずだったらしい(わたしは確認していない)。しかし現実には、次々に新しい路線が建設され、しだいに採算がとりにくいものがふえた。そして採算は路線ごとではなく道路公団がもっていた全路線をまとめて考えることとされたので、初期にできた路線も無料化できる見通しはなくなった。全国の路線をまとめて採算を考えることは、地方交付税と同様に豊かな地域から貧しい地域への国内援助政策だと考えれば、もっともだとも言える。しかし、全体としても完全独立採算ではなかったから、結果として不足分を税金で埋める必要が生じることに対して、歯止めがなかった。道路行政は、長く建設省の担当だったせいもあると思うが、道路を建設することが善とされがちだった。道路を使う人の立場から見なおすべきなのは当然だ。(道路行政は手段として建設業務を含むが目標は運輸行政の一部として設定されるべきだ。) そして、道路を使う人に希望をたずねれば「無料化するべきだ」となるのは当然かもしれない。

もし無料化あるいは値下げをしても混雑が生じないのならば、道路利用者にとって、効用は変わらず負担は減るのでよいことだ。しかし価格のしくみに頼る以上、安くなれば需要がふえるのも当然だ。交通量がふえて混雑がふえれば、たとえ移動はできても時間がかかるぶん、効用が減ることになる。

さらに、社会全体として化石燃料の消費を節約することが望ましいという要請がある。温暖化を防ぐべきだという要請もこれに加わる。しかし仮に温暖化が重要でなかったとしても大きな方向は変わらない。石油とガス以外のエネルギー源で自動車を動かすことはまだとうぶんむずかしく、石油とガスの資源は世界規模で限りが見えているのだ。この要請にこたえるには、複数の方法を組み合わせる必要がある。第1に人が移動したり物を輸送したりする需要を減らすこと(運輸行政は運輸の限りない成長をめざしてはいけない)、第2に燃料消費の少ない移動・輸送手段を選ぶこと、第3に同じ手段を使う場合でも燃料を節約できる運転方法をとることがあげられる。

鉄道輸送が持続的に成り立ちうる条件では、鉄道のほうが自動車よりも燃料が節約できることが多い。しかし利用者の負担金額は自動車のほうが安いことが多い。鉄道線路の維持が原則として鉄道利用者の負担であるのに対して、道路の維持には(高速道路の料金分以外は)税金が投入されており、結果として自動車の利用を奨励する政策になっているのだ。ここでただ自動車利用者の負担金額を減らせば、鉄道はますます不利になってしまう。高速道路の無料化や値下げをしてもよいが、そのぶん別の形で自動車利用者の負担をふやすか鉄道などの利用者の負担を減らす策と組み合わせるべきだ。

高速道路無料化の根拠としてよく言われるのは、一般道路が渋滞していて高速道路がすいているならば、交通を高速道路のほうに誘導すれば、渋滞が解消して快適になるうえに燃料消費の節約にもなるということだ。これはもっともだが、高速道路がもともと混雑している場合には成り立たない。また、あまり高速になると燃料消費がふえるはずだ。したがって、高速道路の交通量の目標を最適な速さで連続運転ができるように設定し、その目標を越えないための調節手段のひとつとして料金設定を利用するべきだろう。たとえば、お盆休みや連休に混雑が予測される路線では料金を時期限定で高めに設定して、移動時期をずらすことができる利用者にずらしてもらうように誘導するべきだ。

なお、渋滞とは別に、平面交差の道路よりも立体交差の道路のほうが事故のおそれが少ないというメリットもあると思う。他方、たとえば高速道路が高架で一般道路がその下の地上の場合、自動車の騒音がまわりに迷惑をかける度合いは高速道路のほうが大きいかもしれない(道路の構造や防音壁などの設備にもよるのでいつもそうとは限らないが)。高速道路の利用を積極的に勧めるかむしろ抑制するか、また、利用を夜にシフトすることを勧めるか抑制するかは、混雑と燃料節約のほかに、このような沿線各地の人々への影響も考えて各路線ごとにきめ細かく決める必要がありそうだ。