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しろうと向けの本について、内容の専門家による書評を

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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2018年3月4日、Twitterで、Koji Yamamoto (@Koji_hist)さんのtweetをきっかけにして、歴史に関するしろうと向けの本について、歴史学者による書評がもっとほしいという意見や、それは困難だという意見がかわされた。それは Togetter の[『儲かる歴史学』関連ツイートまとめ]にまとめられている。

その話題には、歴史という分野特有のこともいくらかあったけれども、多くの問題点は、自然科学を含む多くの学術分野に共通だと、わたしは思った。(ただし対策は専門分野ごとにちがってくるかもしれない。)

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わたしなりに、やや一般化して、問題点を述べてみる。

  • ある専門分野(たとえば歴史)の知識を提供するしろうと向けの本のうち、その専門の勉強をしていない人(あるいは、むかし勉強したがそれから知識を更新していない人)が書いたものは、専門家から見て、まちがった(あるいは、正しいかどうか判断できない)内容を含んでいることがある。しかし、そういうものが、たとえば「金もうけの役にたつ」とか「現代人の必須の教養」とかいう宣伝文句が信じられてしまうと、よく売れて、しろうとの知識の形成に、専門家が書いたものよりも大きな影響を与えてしまうことがある。
  • 専門家は、専門の研究、教育、そのほか専門家としての業務で忙しい。専門家が同業者向けに書いた学術書を読むことや論評することは本業のうちだが、しろうと向けの本を読んで論評することにはあまり時間をさけない。とくに、まちがっている(あるいは、わけがわからない)と予想されるような本には、かかわりたくない。
  • もし、ある専門家が、世の中のために有意義だと考えて、しろうと向けの本を論評しようとしても、(商業メディアから書評を依頼される立場の人は別として)、専門家が書いて一般の人が読むようなメディアが見あたらない。(歴史学のうちの多くの分野の場合) 学会誌は学術書の書評をのせるけれども、しろうと向けの本(その著者が専門家であってもなくても)の書評はのせない方針になっていることが多い。
  • しろうと向けの本についての 内容の専門家による書評をのせるメディアがほしい。印刷物でなくウェブサイトでやることも考えられる(これはTwitterで見た意見)。個別学会よりも広い話題を扱う連合学会のようなものがあれば、そこの出版物にのせることも考えられると思う(これはわたしの意見)。

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わたしの身近な専門分野ではどうなっているだろうか。

気象の場合は、日本気象学会(http://www.metsoc.jp )の機関誌『天気』が使えそうだ。この雑誌は、原則として会員向け配布だが(図書館などのために会員にならずに購読する道もあるはずだが)、気象の研究者でなくても関心のある人が会員になることは歓迎される。(会員であるという自覚の薄い会員がふえると法人としての決議が必要なときに定足数を満たすのがたいへんだという難点はあるのだが、それでも会員がふえることが望ましいとされてきたと思う。) また、出版後約1か月遅れだが、ディジタル版(PDFファイル)は学会ウェブサイトから無料でオンライン公開されていてだれでも読める。

そして『天気』には「本だな」という記事分類がある。学会に送られてきた本について編集委員から会員に執筆依頼されることが多いようだが(近ごろわたしが書いたものはそうだった。[別ブログ2016-11-29の読書メモ]参照)、会員が自発的に投稿する場合もある。新書判などのしろうと向けの本が扱われることもある。ただし、「書評」と銘打った欄ではないので、本の紹介にとどまる記事が出ることもある。歴史学のような人文学とちがって、気象学のような自然科学では、書いた本が書評対象となることも、書評を書くことも、業績として重視されることはない。だから軽い本も扱えるのかもしれない。反面、書評としてみるならば質の低い記事がのってしまうこともあるかもしれない。

ともかく、書評を『天気』の「本だな」に投稿すれば、気象の研究者だけでなく、気象を継続的に趣味としているアマチュアや、気象の知識を応用したい人までは届くと思う。

気候の変動・変化となると、気象学の主題でもあるが、地理学、地質学などの主題でもあるから、それに関心のある人が気象学会の出版物を見てくれるとはかぎらない。地理や地学に関心がある人が見てくれるメディアも必要だ。

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地球科学の連合学会として、日本地球惑星科学連合(JpGU, http://www.jpgu.org )がある。日本地理学会も連合の構成学会になっており、自然地理学者だけでなく人文地理学者のうちにもJpGUでも活動する人はいる(あまり多数ではないと思うが)ので、地理もなんとかカバー可能だ。しかし、JpGUには今の話題に適切な媒体がない。日本語のニュースレターはあるが会員向けだ。英語の論文雑誌は研究者向けだ。ウェブサイトを拡充するのも、会費以外の収入源または労力提供がないとむずかしいだろう。

JpGUの構成学会でもある東京地学協会(http://www.geog.or.jp )は、『地学雑誌』という雑誌を出している。英語名はJournal of Geographyなのだ。内容も地学(地質学、地球物理学など)と地理にわたっている。査読済み学術論文のほかに解説記事などものる。会員配布のほか、数か月遅れだがディジタル版をJ-STAGEから無料公開もしている。この学会が組織としてその気になれば、地学・地理に関する書評機能を強化することができるかもしれない、と思う。

地理の分野の市販の雑誌として、古今書院(http://www.kokon.co.jp )が出している月刊誌『地理』がある。この雑誌の読者層としては、地理の、学者、学校教員、アマチュアがいずれも同程度に重要だろうと思う。そういう読者に届くメディアとしては使えると思う。

地学の分野の市販の雑誌としては、海洋出版(http://www.kaiyo-chikyu.com )が出している『月刊 地球』があるが、これは査読済み論文の雑誌ではないものの、各号が研究集会のproceedingsであることが多く、専門家の同業者間の情報交換メディアという性格が強い。

ここまでまとめると、書評のメディアの候補は『地理』(ただし地理の分野にかぎる)、『地学雑誌』、JpGUウェブサイト拡充だと思う。

どちらの運営にもかかわっていない立場から勝手なことをいえば、JpGUと東京地学協会の役割はかさなっているのだから、一体化してしまって、『地学雑誌』と地学協会ウェブサイトをJpGUのメディアとして活用していくのがよいと思っている。