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高校学習指導要領案 大気水圏科学について (1) 地学関係の概観

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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文部科学省が2018年2月14日に発表した学習指導要領から、地学と地理の部分を抜き出して見ている([別記事]参照)。

「地学基礎」と「地学」の科目の内容の項目名をひろってみると、次のようになる。

地学基礎

  • (1) 地球のすがた
    • (ア) 惑星としての地球
      • ○ア 地球の形と大きさ
      • ○イ 地球内部の層構造
    • (イ) 活動する地球
      • ○ア プレートの運動
      • ○イ 火山活動と地震
    • (ウ) 大気と海洋
      • ○ア 地球の熱収支
      • ○イ 大気と海水の運動
  • (2) 変動する地球
    • (ア) 地球の変遷
      • ○ア 宇宙,太陽系と地球の誕生
      • ○イ 古生物の変遷と地球環境
    • (イ) 地球の環境
      • ○ア 地球環境の科学
      • ○イ 日本の自然環境

地学

  • (1) 地球の概観
    • (ア) 地球の形状
      • ○ア 地球の形と重力
      • ○イ 地球の磁気
    • (イ) 地球の内部
      • ○ア 地球の内部構造
      • ○イ 地球内部の状態と物質
  • (2) 地球の活動と歴史
    • (ア) 地球の活動
      • ○ア プレートテクトニクス
      • ○イ 地震と地殻変動
      • ○ウ 火成活動
      • ○エ 変成作用と変成岩
    • (イ) 地球の歴史
      • ○ア 地表の変化
      • ○イ 地層の観察
      • ○ウ 地球環境の変遷
      • ○エ 日本列島の成り立ち
  • (3) 地球の大気と海洋
    • (ア) 大気の構造と運動
      • ○ア 大気の構造
      • ○イ 大気の運動と気象
    • (イ) 海洋と海水の運動
      • ○ア 海洋の構造
      • ○イ 海水の運動
  • (4) 宇宙の構造
    • (ア) 太陽系
      • ○ア 地球の自転と公転
      • ○イ 太陽系天体とその運動
      • ○ウ 太陽の活動
    • (イ) 恒星と銀河系
      • ○ア 恒星の性質と進化
      • ○イ 銀河系の構造
    • (ウ) 銀河と宇宙
      • ○ア 様々な銀河
      • ○イ 膨張する宇宙

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いずれも現行の指導要領にもある科目だから、現行の指導要領とくらべてどこが変わったかを論じたほうがよいのかもしれない。しかし、わたしは現行の指導要領が頭にはいっていないので、それを調べて比較するよりもさきに、今度の案を見て思ったことを書きとめておくことにする。

科学と社会とのかかわりが重視される時代になったが、「地学基礎」と「地学」の内容は、純粋な自然科学と思われるところが多い。地学と人間社会とのかかわりとしては、まず災害や環境問題などがあげられるが、「地学基礎」のほうでは、それは「(2)-(イ) 地球の環境」の部分に集中している。「地学」のほうでは、どの項目も、題目を見ても「内容」の記述を見ても自然科学的なもので、「内容の取扱い」のほうのあちこちに「なになに災害にも触れること」という注意書きがあるだけだ(その注意書きはいささかくどく感じられるほど現われるが)。

別に「科学と人間生活」という科目があるが、それと「地学」などの分化した科目との両方をとれる学校は少ないと思う。

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大気・水圏を扱うところは、「地学基礎」では「(1)-(ウ) 大気と海洋」と「2-(イ) 地球の環境」(全部ではないが)、「地学」では「(3) 地球の大気と海洋」だ。

内容を見ていくと、大気物理(=気象)と海洋物理のことがらはかなりしっかり扱われている。ただしそのうち「地学基礎」で扱う内容はグローバルな気候システムの話題に集中しており、そのほかの気象学の話題は、天気予報を理解するための基礎知識やローカルな気候も含めて、「地学」のほうに行っている。

大気・水圏をシステムとしてとらえるときには、物理的気候システムと生物地球化学サイクルの両面をあわせて考えるべきだと思うのだが、生物地球化学サイクルにかかわる大気化学、海洋化学、海洋生態学などの観点はあまりみられない。わたしはこれは残念だとも思うが、化学や生物学の知識を前提とできない条件で生物地球化学サイクルを扱うのはむずかしいとも思う。(物理をならっていない生徒に物理的気候システムを扱う場合にはいくらかの物理の知識も教えるしかないのだが、たとえば「エネルギー収支」を「熱収支」で近似してしまうなど、悪く言えばごまかして進めることになりそうだ。)

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「地学基礎」の「(2)-(イ)-○ア 地球環境の科学」の扱いに関する補足(3の(2)-イ)では、「地球温暖化,オゾン層破壊,エルニーニョ現象」が並列に例示されている。地球温暖化は基本的に人間活動起源の現象であり、エルニーニョ現象は(地球温暖化によって変調されるかもしれないが)基本的に自然変動なので、わたしは、単純に並列するのではなく、自然の環境変動と人間活動起源の環境変動があることを明示して議論を組み立ててほしいと思った。

地球温暖化については、「(1)-(ウ)-○ア 地球の熱収支」で地球の放射熱収支のつりあいを扱い、それに対する補足(3の(2)-ア)で「温室効果」も扱うことが明示されており、「(1)-(ウ)-○イ 大気と海水の運動」に対する補足(3の(2)-ア)で「海洋の層構造と深層に及ぶ循環にも触れること」とされているので、全球平均的な意味での地球温暖化のしくみを理解するうえでの材料はそろっていると思う。逆にいうと、地球温暖化を理解することを重視すれば、「大気と海洋」の題材はこのように選ぶべきだと思う。ただし、地球温暖化が人間社会に対して問題となるのは、ローカルな気候や海水準の変化を通じてだ。それに関する議論を大筋でも理解するには「地学基礎」で扱われる内容だけではたりず、「地学」で扱われる内容を必要とする。全体の時間がかぎられているうちでは、これはしかたないかと思う。

オゾン層破壊については、大気化学の予備知識を用意することはむずかしいが、成層圏があることや、そこで大気が(その成分であるオゾンの働きによって)太陽放射のうちの紫外線を吸収し、そのエネルギーが「熱に変わる」ことは、「(1)-(ウ)-○ア 地球の熱収支」のうちの「大気の構造の特徴」のところでふれておくことができ、オゾン層破壊の問題を扱うか扱わないかにかかわらず、ふれておいたほうがよいと思う。

エルニーニョ現象のしくみを理解するための予備知識を用意することはむずかしい。「地学基礎」の「(1)-(ウ)-○イ 大気と海水の運動」で扱う大気と海洋の循環は、「大循環」と言われる規模のものに限られ、赤道付近の大規模波動などを紹介する時間はないだろう。「地学」の「(3)-(イ)-○イ」で「海水の運動と循環及び海洋と大気の相互作用」を扱って、やっと理解に近づくことになるだろう。「地学基礎」履修者向けにできることは、予備として「地学」の教材を用意して、疑問を持った生徒に提供する、というところまでだろうか。