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warming, heating, cooling

【まだ書きかえます。いつどこを書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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イギリスの新聞 Guardian (ガーディアン) にのった「『global warming (地球温暖化)』でなく『global heating』というべきだ」という話を、Twitter で (「気候変動の向こう側 @Beyond_Climate」というアカウントのtweetで) 知った。

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世の中の多くの人は、これを、「いまおきていることは『温暖化』などというなまやさしいものではない」という主張としてうけとめただろう、と、わたしは推測する。ひとつには、どちらも同じ傾向を示しているが、warming はゆるやかだが、heating は急だ、というふうに、現象のつよさがちがう、と感じられるだろう。関連はあるがもうひとつには、warming には(人びとへの)恩恵があるとも思われるが、heating だと害のほうが意識されるだろう。この意味での「global heating」にあたる日本語表現は、ぴったりくるものはないと思うが、漢語からあらたに組み立ててもよいとすれば、「地球暑熱化」だろうか。

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しかし、わたし自身の用語としては、heating はそのような意味ではない。(「あつい (熱い、暑い)」ということにむすびつく「語感」はある。しかし、わたしにとって「heating」は「あつくなること」ではないのだ。)

わたしは、大学院の修士課程1年生のときから、気象学 (「大気物理学」といってもよい、物理の概念をつかって大気でおこる現象を考える専門分野)の、英語の文献(専門教科書や古典的となった研究論文)を、かなり大量に読めという教育を受けてきた。それ以外で英語をつかうことはすくなかった。だから、わたしの英語の語感は、日常生活の英語よりも、気象学の英語によって育った。わたしは(日本語でもそうだがとくに英語では)「気象むらの方言」の話し手なのだ。【「諸行無常、是生滅法」をわたしの知っている英語に訳すと、[Everything is transient. That's the law of generation and dissipation.]になる。】

ところで、Guardian の記事で取材にこたえた専門家 Richard Betts さんは、イギリスの気象庁(Met Office)の気象研究所にあたるHadley Centreの研究職の人で、その紹介ページ https://www.metoffice.gov.uk/research/people/richard-betts をみると、物理で学士をとったあと大学院で気象学を専攻した人だ。そして記事の中で、地球温暖化(彼のいうglobal heating)は「地球という惑星のエネルギー収支の変化 (changes in the energy balance of the planet) の話なのだ」と言っている。それをふまえると、わたしは、Bettsさんも、heating ということばを、わたしがこれからのべる意味で つかったのではないか、と思う。(これはわたしの推測にすぎず、Bettsさんの真意だと主張するつもりはないが。)

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気象学では、対象物として大気をあつかってきた。また、(いわゆる)地球温暖化の話題では、対象物として、世界の大気・海洋・雪氷などの全体を「気候システム」としてとらえることが多い。

気象学の文献での表現では、warming は対象物の温度があがること(昇温)をさす。これを heating とは(いくら急に大きく温度があがっても) 言わない。

Heatingは、基本的には、「熱(heat)を与えること」だが、大気などの対象物のたちばで考えるときは、受け身の「熱を与えられること」になっている (わざわざ being heated とは言わない)。

エネルギー保存の法則がなりたっているから、ある対象物がたくわえているエネルギーの総量の変化は、その対象物に出入りするエネルギーの流れの、はいるほうを正、出るほうを負とした合計にひとしい。「エネルギー収支」は、出入りの差でもあるし、たまっている量の変化でもあるのだ。

ひとまず単純に、たまっているエネルギーは内部エネルギーであり、温度に比例するとしてみる。また、エネルギーを変化させる作用は、対象物の境界をとおる熱の出入りだけであるとする。【[注] ここで「作用」ということばは、力学の学術用語ではなく、日常的な意味で つかっている。】 対象物は、その外の物体から、さまざまな「熱」をもらう。これが heating だ。(対象物からその外にエネルギーが動くばあいは「熱をうばわれる」と表現するのが適切かもしれないが、ひとまずここでは、負の heating としてふくめておく。) たとえば、熱伝導による heating、対流による heating、放射による heating があるかもしれない。そして、その合計の heating を考えることができる。ところが、この単純化した設定では、温度の変化はたくわえられているエネルギーの変化に比例し、それは合計の heating だけによるから、合計のheatingと、温度の変化(warming)とは、(適切な換算をすれば)同一視することができるだろう。しかし heating のうちわけの各成分は warmingとはいわない。ここでいう heating に対応する日本語表現の代表的なものは「加熱」だ。そのつかわれかたは、うちわけの各成分をさすばあいと、合計をさすばあいの両方がある。

(なお、単位時間あたりの加熱が heating rate だ。日本語では rate を「率」という方針にしたがって「加熱率」ということがある。)

実際には、エネルギーを変化させる作用には、熱のほかに仕事もある。これを省略した表現が有効なのはどんな事情によるのかも論じるべきなのだが、わたしの準備ができていないので省略する。

そして、大気は気体なので、温度を変化させる作用として、内部エネルギーの変化のほかに、空気の一部分が鉛直に移動し圧力が変わることも重要だ。これは断熱変化として近似される。空気の一部分が押し下げられれば圧力が高まるのにともなって温度があがる。これは断熱昇温(adiabatic warming)だ。【ただし、エネルギー保存の式は「熱容量かける温度」の時間変化の形で書かれることが多く、その文脈で、断熱昇温の項を断熱加熱(adiabatic heating)と言ってしまうことがある。これは熱力学用語のつかいかたとしてはまちがいだと思うが、気象学用語としては許容される。そして、区別のため、本来の加熱を「非断熱加熱」(non-adiabatic heatingあるいはdiabatic heating)ということがある。】

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Warming も heating も、負のあたいをもとりうるとした つかいかたもある。しかし、正のばあいにかぎり、負のばあいは別のことばをもちだす つかいかたもある。

ところが、warming の反対も、heating の反対も、cooling なのだ。Coolingと書かれていたとき、それが温度がさがることなのか、熱がうばわれることなのかは、文脈で判断しなければならない。(日本語の「冷却」は、熱がうばわれるほうである可能性が高いが、温度がさがる場合にもつかわれるかもしれない。「昇温」と対になるのは「降温」だが、これは聞いて「高温」と区別できないことばであり、実際あまりつかわれない。)

動詞の cool は、どちらかといえば熱をうばうことをさすが、温度がさがることをさすかもしれない。なお、気象学の文脈で cool は形容詞としてはつかわれない。温度が低いことをさす形容詞は、cold だ。(だから、[2013-03-23の記事]に書いたように、「Cool Japan」と聞けば「日本をひやせ」だと思うのだ。)

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最初の話題にもどると、気象学をまなんだわたしの用語感覚では、 warming は温度があがること(昇温)、heating は加熱である。その用語は、正負をとわずにつかうばあいと、正のばあいにかぎるばあいがある。正のほうにかぎった意味で heating があるということは、温度をあげる向きに はたらく作用があることだが、ほかの作用も同時に はたらいていれば、結果として温度があがるとはかぎらない。

日本語の「温暖化」「寒冷化」は、「温度があがること」「温度がさがること」をさすのがふつうだと思う。しかし、「温度をあげる作用があること」「温度をさげる作用があること」という意味にもなりうる。

わたしは、「地球温暖化」の場合には、「温度をあげる作用があること」のほうだと主張したい。

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世界平均地表温度の上昇が、1998年ごろから2014年ごろまで停滞した。これを「地球温暖化はとまった」という人もいた。専門家のうち一部分の人がこれを「(温度上昇の) hiatus [ハイエイタス]」 と表現した。しかし、深いところまでふくめた海洋がたくわえているエネルギーの増加はにぶっていなかった。この件は[2015-01-15の記事]でのべた。

もし、4節、6節のような用語づかいをみとめてもらえれば、global warming が世界平均地表温度があがること、global heating が温室効果強化による気候システムへの加熱がおきていることだとして、「global warming が停滞していたあいだも global heating は にぶらず つづいていたのだ」という表現ができる。ただし、この前提をうけいれてもらうのがむずかしそうなので、わたしはこの表現を積極的につかうつもりはない。

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わたしは、地球温暖化の話題では、「温度上昇よりも温度をあげる作用に注目してほしい」とは言うけれども、「地球温暖化」や「global warming」の表現をかえようという主張には (いまの時点では) 賛同しない。