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著作権に関する審議会への意見 : 学術文献のダウンロード処罰に反対

政府の意見募集のうちに、「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめに関する意見募集の実施について」http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001021&Mode=0 がある。しめきりは2019年1月6日だ。

「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」について、学術文献 (「中間まとめ」文書中の表現は「学術論文」)のことにしぼって、つぎのような意見を書いた。

(意見提出のフォームが Excel のワークシートで、2000字以内の文書をひとつのセルに入れるようになっている。これは文章を書いてもらうにはうまくないやりかただと思う。わたしはこの長さの文章ならば段落にわけたいのだが、この形式だとできない。下に示すのは、段落をわけた点では、提出したものとちがっている。)

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「学術論文」を含む学術文献のダウンロードについては、学術文献のオープンアクセスを重視する学術政策関係者をメンバーに加えて議論をたてなおすか、あるいは、今回の対象から除外するかしていただきたいです。(「賛成/反対」は単純に言えませんが、議論の流れに大きな変更を求めるという趣旨なので「反対」にしておきました。)

学術は成果を論文で発表し批判しあうことで発達してきました。成果は全世界の人びとに共有されるべきものです。とくに最近、学術政策の立場から、公的資金による研究の成果や、政策決定の材料になる知見は、オープンアクセスにするべきだといわれるようになりました。(たとえば国会図書館のこの記事から参照された国立情報学研究所ニュースレターの記事 http://current.ndl.go.jp/node/37307 参照)。

他の人の研究成果を利用したり批判したりするには、学術文献を読む必要があります。その権利は、人権の平等の面からも、学術の発展の面からも、万人がもつべきものです。従来、学術文献の多くは紙の雑誌や図書として出版されており、それが著作権で保護されるものであっても、図書館で(その規定の範囲で)複写してもらうことができました。近ごろは学術雑誌のうちにディジタル版だけのものもふえ、紙版と並行して出ていても図書館で紙版を購読するところが減ってしまいました。ディジタル出版物と紙の出版物では、著作権法制上の複製のあつかいや出版社のつけるライセンス条件がちがうので、購読している機関に所属していない人が文献の本文を読める機会が減ってしまいました。

もちろん文献の出版の費用がまかなわれる必要はあり、そのひとつの方式として、ダウンロードを有料にすることは正当です。その対象について無料の「海賊版」を提供することは業務妨害であり犯罪だとされるのはよいでしょう。しかし、利用者は、オープンアクセス対象と誤認して海賊版に手を出してしまうこともあり、図書館での複写に相当するディジタル版へのアクセス手段が整備されていないのでやむにやまれず権利者かどうかよくわからない提供者に頼ることもあります。文化政策としては、ダウンロードを処罰対象にするよりもまえに、利用者むけの条件整備を考えていただきたいです。