macroscope

( はてなダイアリーから移動しました)

ツイッター空間での怒りの連鎖反応を減速しよう

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

- 1 -
わたしはTwitterをよく見ている。世界とのかかわりのうちでTwitterとのかかわりに時間をかけすぎかもしれない。

Twitterでは、メンバー間の賛同がおきやすいグループ(「クラスター」)が持続することがあり、グループ内で賛同されてくりかえし出てくる意見のうちに、他のグループに関する敵視が含まれることがある。[2017-07-22「敵・みかた」型の言説について思うこと]の記事で書いたような、「陣営間の対立」のような構造が、Twitterでは簡単に形成されてしまう。

わたしは、この傾向をいくらか抑制するしくみをつくったほうがよいと思う。

- 2 -
話がちょっとややこしくなるが、このことを考えたきっかけは、いわゆる「ヘイトスピーチ」(hate speech)をやめさせたい、と考えたことだった。

ここでいう「ヘイトスピーチ」は、そのことばどおりの意味である「憎しみを含む発言」とは別の意味になっている。

(わたしの認識はおおざっぱだと思うが) ヘイトスピーチとは、差別行為になってしまうような発言だ。ここでいう差別とは、人種・民族差別、性差別、障害者差別など、人の属性、特に、本人の意志で離れることができないような属性による差別だ。

メディアがヘイトスピーチを伝えると、さらに激しい差別を誘発するおそれがある。

Twitterでもヘイトスピーチの規制は必要と考えられるようになった。Twitterの運営側でできる規制措置は、あるアカウントからの発言をだれの目にもふれなくすること、アカウントの凍結・廃止などだ。しかし、(英語圏のことはよく知らないが) 日本語圏では、他の利用者から見て無害と思われるアカウントが凍結される反面、あきらかにヘイトスピーチをしているアカウントが規制されない、といった不満があらわれている。

どんなものが規制されるべきか、きちんと利用規約で決めたうえで、それにあてはまるかどうか、判断能力のある人がよく考えて審査し、執行すべきだと思う。異議申し立てへの対応も必要かもしれない。(発言がヘイトスピーチかどうかを機械で判定することはできないし、熟練していない職員が判定したのではまちがいも多いだろう。措置への不満のほうが炎上するおそれもある。)

ヘイトスピーチとして規制される対象は、わりあい少数になると思う。

補助的に、ヘイトスピーチであるかどうかの判定をバイパスして、ヘイトスピーチに使われやすい用語を含む発言を、ゆるく規制することが考えられると思う。ゆるい規制として、あとの節で「憎しみを含む発言の抑制」について述べるのと同様に、「リツイートの対象にならなくする」ということが考えられると思う。(そのような規制がありうることを利用規約に含めておくことを前提としている。)

- 3 -
まぎらわしいのだが、ここからは、ヘイトスピーチではなく、「憎しみを含む発言」を抑制することについて考える。

怒りを共有することは、社会をよりよくしていくために必要な機能なのだと思う。しかし、その機能をむやみに促進すると、共存せざるをえないあいてとの敵対を強めてしまう。

Twitterには、リツイート(retweet、RT)というしくみがある。発言をまるごと、そのオリジナルの発言者を明示した形で、コピーして広めることができるのだ。このしくみは、利用者が重要と思った情報をさらにおおぜいに伝え、しかもオリジナルの発言者を尊重するために、よくできたものだと思う。それぞれの利用者の発言を見てくれる人は多くないのだが、RTの連鎖にのれば、世界じゅうの人に見てもらえる可能性もあるのだ。

しかし、この効率のよいしくみに、怒りや憎しみを含む発言が乗ってしまうと、憎しみの連鎖を効率よくつくってしまうことになる。

ここで直接に考えている連鎖は、たとえば、「Aによる、Xを憎む発言」がRTされることによって、おおぜいの人がXへの憎しみを含む発言を目にする、ということだ。それを見た結果、発言に共感してXを憎む人がふえる可能性もあるし、発言に反発して発言者Aを憎む人がふえる可能性もあるが。

ツイッターのRTは、ひとつの動作でできるので、効率がよすぎるのだと思う。もしRTができなくても、もとのツイートへのリンクを含めることや、発言文を発信アカウント名とともに引用することでも、オリジナルを尊重した紹介はできる。ただし、多少てまがふえる。

ことば使いに関する機械的なフィルターで「読者の憎しみを誘発しそうだ」と判定された発言は、「RT不可」にすればよいと思う。もちろん、あらかじめそのような抑制をすることを全利用者に周知してもらったうえでだ。アカウントやツイートを無効にするのではないので、言論や表現の自由の制限ではないと言えるだろう。

「RT不可」の規制を、発言(ツイート)ごとにするか、利用者(アカウント)ごとにするかは、一長一短あって、むずかしいところだと思う。機械的にできるのは人格の評価ではなくて発言の評価だという意味では、ツイートごとにするべきだと思う。しかし、ツイートごとでは情報量が少ないので、フィルターがまちがった判定をするおそれも大きい。

どんな発言を抑制の対象にするかも、よく考えておかなければならない。わたしが思いつくままにあげてみると、「Xへの憎しみを含む発言」には次のような類型がありそうだ。

  • Xに向けた、敵視や軽蔑を伴う発言。罵倒。
  • 三者に向けた発言(あるいは公開ひとりごと)中で、Xの形容に敵視や軽蔑を含む表現。
  • 発言者の意志として、Xに対する悪意、殺意があらわれたもの (「ギロチンにかけろ」のたぐい。たいていは実際の犯行予告や教唆ではなく比喩だろうが)
  • Xの言動を(悪意によらない解釈もありうるのに)悪意によるものだと決めつける主張

具体的なそれぞれの表現について考えてみると、また迷うところがある。たとえば、「バカ」「アホ」のたぐいは軽蔑表現とみなすべきだろうか? 「ヒステリー」「ヒステリック」は、まじめな批判的形容とみなすか、軽蔑を含む形容とみなすか、比喩に使われた病気に対する偏見とみなすか?

日本語のツイートは文(センテンス)を2つくらい書けるので、客観的と感じられる論述も含むが、それに続いて敵視・軽蔑・悪意の疑いなどをぶちまけるものもよく見る。前半部分への賛同でRTされて、後半の感情が拡散するおそれがあるので、こういうものは注意して抑制するべきだと思う。

ツイート全体で ていねい(いんぎん)な表現ながら、怒りをまきおこす発言は、このような機械的な方法では抑制できない。これはしかたがないと思う。

ここで考えているのはヘイトスピーチの抑制ではないのだが、ヘイトスピーチには憎しみの表現を含むことが多いから、憎しみを含む発言の抑制は、間接的にはいくらか、ヘイトスピーチを抑制する効果があると思う。

- 4 -
「連鎖反応を抑制・減速する」と考えてみたとき、あるものごとを連想した。

それに思いあたったのが、たまたま8月6日だったので、その日には書くのが気がひけてしまったのだが、その日だったから思いあたったわけではない。1960-70年代の子どもとして、原子爆弾と原子炉のしくみの入門的(専門的でない)解説は何十とおりも見たので(本の名まえも著者の名まえも覚えていないが)、いつでも思いあたるようになっている。

ウラン235プルトニウム239などの核種の核分裂は、中性子とぶつかることによって誘発されるのだが、複数の中性子を出す。出てきた中性子が他の核の分裂に使われるとすれば、短い時間のうちに、核分裂の件数が等比数列的(ほぼ指数関数的)にふえる。爆発になる。

持続的に核分裂を続けさせようとすれば、時間あたりの核分裂の件数を制御する必要がある。原子炉では、核分裂で出た中性子の多くを途中で吸収してしまう物質を置き、適切な個数だけがウラン235(など)に届くようにする。

これを一般的な意味で「連鎖反応の減速」ということもできると思う。しかし、原子炉の話題では「減速」は「中性子の減速」をさす。中性子が高速すぎると核分裂に使われにくいので、減速して使われやすくするのだ。この件を持ち出すと、「怒りの連鎖反応の減速」への比喩はかえってわかりにくくなってしまう。