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20世紀の地球温暖化をどう見るか

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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地球温暖化ということばには、[2015-11-09の記事]で述べたように、複数の意味がある。大きく分けて次の2つが重要だ。

  • (A) 温室効果の強化を原因として起こる気候の変化。
  • (B) 世界平均地表温度(地上気温または海面水温)の上昇。

この二つは別のことだが、もちろん、重なりあっている部分もある。

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世界平均地表温度の推計は複数のチームによって行なわれているが、そのひとつの日本の気象庁によるものは、気象庁ウェブサイトの「ホーム > 各種データ・資料 > 地球環境・気候 > 地球温暖化 > 気温・降水量の長期変化傾向 > 世界の年平均気温」のページ http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html にある。

その計算方法は、そこからリンクされたページ「世界の平均気温の偏差の算出方法」http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/clc_wld.html に説明されている。

「世界の年平均気温」のページの最初の図が「世界の年平均気温の偏差の経年変化(1891-2014年)」だ。これには、横軸に年、縦軸に毎年の温度の、1981--2010年の平均を基準とした偏差が黒の丸と折れ線で、その5年移動平均が青の折れ線で示され、さらに対象期間全体に1次関数をあてはめたものが赤の直線で示されている。そして「トレンド=0.70 (℃/100年)」とあるが、これは赤の直線の傾きに相当する。

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IPCC第5次報告書の第1部会の部(英語原本 http://www.ipcc.ch/report/ar5/wg1/ 、要約などの日本語訳 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ )では、20世紀の気候変化の「検出と原因特定」(detection and attribution)が、第10章で議論されている。とくに世界平均地表温度については、図10.1にまとめられており、その主要部分は「技術要約」(Technical Summary https://www.ipcc.ch/report/ar5/wg1/technical-summary/、日本語訳は気象庁サイトにある)の図TS.9 http://www.ipcc.ch/report/graphics/images/Assessment%20Reports/AR5%20-%20WG1/Technical%20Summary/FigTS-09.jpg
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/02/FigTS-09-4.jpg
にも再録されている [2018-12-11 リンク先変更]。

そこでは、ほぼ同じ条件でおこなった多数のシミュレーションの結果を、観測から推計された値とを比較している。グラフの横軸は年で、縦軸は温度を1880-1919年の平均を基準とした偏差の形で示したものだ。

図(b)の内側の図は、複数のチームによる観測からの推計どうしを比較している。

図(a)には自然と人為の両方の外因を与えた場合が示されている。多数の研究チームによるシミュレーション(薄い青と黄色)を平均したものが濃い青の線(CMIP3=旧版)と赤線(CMIP5=新版)で、年々変動を10年くらいでならして見ると、観測からの推計とだいたい合っている。(2000年ごろ以後のくいちがいが目だつかもしれない。これはいわゆるhiatus問題で、[2015-01-15の記事]参照。)

図(b)には自然(太陽、火山)の外因だけを与えた場合が示されている。報告書本文の表現によれば1951年ごろを境に、それ以前はだいたい合うが、以後は明らかに合わない。自然要因を与えた結果は、火山噴火後にときどき低温のスパイクが生じるほかは、ほぼ平らである。【報告書本文の表現はこの図だけではなく多数の同様な研究を総合した結果として選ばれたものだが、境の年代は1年きざみで決められるものではなく「1950年代」ぐらいが適切なのだろう。】

図(c)は人為の外因のうち温室効果気体濃度だけを与えた場合が示されている。こちらは、(図をわたしが見た印象で) 1965年ごろ以後、観測からの推計よりもだいぶ上に行ってしまう。

(a)に含まれていて(b)にも(c)にも含まれていないのは、人為起源のエーロゾルである。これが冷却効果をもち、温室効果気体による温暖化を部分的に打ち消していると考えられる。

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この結果をふまえて気象庁のグラフにもどると、赤の直線のうち、1950年ごろ以後の部分が、基本的に、人間活動起源の二酸化炭素などの増加による温室効果の強化を原因として起こったものと考えられる。【[2016-06-28補足] 気象庁あるいはグラフの作成者がそう言っているわけではなく、わたしがこのグラフをそのように解釈することを試みているだけである。】

この表現には、いくつか疑問を感じるだろう。それに答えることを試みてみる。表現の改良の余地がある点もあると思うが、今の学問的認識ではこれ以上わかりやすくなりそうもない点もある。

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なぜ直線なのか。

原理的に直線である必然性はない。2次以上の多項式、指数関数、対数関数などを使うことも考えられるが、いちばん単純な形として1次関数をあてはめただけだ。

ただし、二酸化炭素濃度の上昇が20世紀後半のあいだにしだいに急になっているのに対して、地表温度の上昇にそのような特徴が見られないことの説明は必要かもしれない。これには2つの別々の要因がある。

  • 二酸化炭素による赤外線吸収が徐々に飽和していくので、温室効果の強さは、二酸化炭素濃度に比例するのではなく、むしろその対数に比例する。(対数になる理屈があるわけではなく、詳しい理論計算の結果を近似するとそうなるのだ。)
  • 地表温度の上昇は海洋の深さ数百メートルまでの層がエネルギーをためこむことに伴って起こるので、温室効果の強化という強制に対して、温度上昇は遅れて起こる。仮にいま温室効果の強化が止まったとしても、これから温度上昇が続くはずである。

このさき、なん十年か期間をのばしていくと、おそらく、直線で近似するのが不適切になってくるだろう。

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なぜ期間をもっと細かく分けなかったのか。たとえば、1945年から1975年まで下降、1975年から2000年まで急な上昇、2000年以後停滞、といった見かたもできるのではないか。

大気中の二酸化炭素濃度の変動はひとつの時定数では書けないのだが、百年以上の時定数をもつ部分を含んでいる。それに伴う温度変化は、数十年以上の時間規模で見えてくると期待されるのだ。

これに対して、火山の影響は2年程度のスパイクになる。太陽の影響のもっともよく見える成分は約11年周期である。気候システム外からの強制がなくても起こると考えられる自然変動のうち、エルニーニョ・南方振動は、明確な周期をもつ現象ではないが、スペクトル解析すればおよそ2年から6年の周期帯をしめる。(A)の意味での地球温暖化を見ようとしたときは、これらが主となると期待される約20年以下の周期帯の変動はならしてしまったほうがよい、と判断されたのだ。

しかし、自然変動にも「太平洋十年規模変動(PDO)」や「大西洋数十年規模変動(AMO)」のような数十年の時間規模のものがある。火山の影響や太陽の変動の影響もこの周期帯の成分をもつかもしれない。

そこをよりわけるのは、世界平均地表温度のデータからの周期帯の分離ではなく、空間分布や季節性をもつ現象どうしの因果関係に立ち入った考察が必要になる。正直なところわたしは理屈を詳しく追いかけていないのだが、1950年代以後の地表温度が赤の直線からはずれる部分のうち、多くはPDOなどの自然変動によるものであり、1960年代ごろの下降は人為起源エーロゾルによる太陽放射反射の強化もきいていたと考えられている。

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ひとつの直線にのっているのに、なぜ前半と後半で原因が違うのか。

直線がそのまま続いていると、直観的に、原因も同じだろうと考えやすい。これは発見的思考法としてはよいのだ。しかし、理屈として、原因が同じでなければならないということはなく、偶然一致することもあるのだ。

20世紀前半には、人為起源の二酸化炭素はあったものの、その量が20世紀後半よりもだいぶ少ないので、それに対する応答はあまり大きくなりえない。
自然要因を見ると、20世紀前半には(19世紀や20世紀後半に比べて)成層圏にエーロゾルを送りこむような火山噴火が少なかった。1902年のSanta Maria (グアテマラ)と1912年のKatmai (アラスカ)くらいであり、Katmaiの影響は北半球にとどまった。【[2015-11-11の記事]でふれたGao et al. (2008)のデータセットには1925年にもKatmaiと同程度の北半球に限られた硫酸ピークがあるのだが、対応する大きな噴火は見あたらず、これはグリーンランド氷コアの地点に近い噴火が見かけの上で大きく見えたものだと思われる。】なお、太陽活動は前後の時期とあまり大きく違わなかったようだ。Katmai噴火の影響がおさまったあと、長期にわたって火山起源のエーロゾルが少なく太陽放射吸収が多めだったことが温度上昇をもたらしたと考えられるだろう。

もちろん、20世紀前半の気温変化にも、PDOなどの自然変動が含まれている。