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いろいろな解析、分析、analysis

気象学では「解析」ということばが複数の意味で使われる。さらに、日本語では「分析」だが、英語では同じanalysisになるものもある。これだけの意味を使いわけて、まちがいがあまり起こらないのがふしぎなほどだ。まちがいを防ぐために、問い返すこともけっこうあると思う。
【気象学を専門とする人のあいだでも、「解析」と聞いてどれを最初に思いうかべるかはまちまちだと思う。わたしの場合は、まず「データ解析」だが。】

解析解
数学の分野としての解析(学)は、微分積分のことだ。気象学では、この意味で単に「解析」ということは少ないが、微分方程式について「解析解」ということばはよく使う。これは、実数や複素数の変数の式のまま、微分積分などの操作によって得られた解のことをいう。これに対するのは「数値解」で、有限整数個の有限桁数の数値による計算で得られた、解の近似値だ。なお、解析解を得る過程で、 たとえば「解析接続」などの用語が出てくることもある。これは解析学の用語である。

数値解析
応用数学の一分野。実数や複素数の変数の、微分積分線形代数(たとえば連立一次方程式をとくこと)などを、有限整数個の有限桁数の数値による計算で近似すること。数値解析の本には、近似方法を開発したり評価したりする立場のものと、それを使って具体的な問題を解く立場のものがある。
気象学の話題では、「数値解析」ということばは、この意味に使われることが多いと思うが、あとで述べる「データ解析」や「客観解析」の意味で使われていることもあるかもしれない。

データ解析
観測データ(や、シミュレーション結果など)に潜在的に含まれている情報を取り出して認識すること。そのための、とても多様な作業を含む。少し限定した意味では、統計(学)的データ処理とほぼ同じ。データの可視化・図示に重点があることもある。

EOF解析
データ解析に使われる手法のひとつ。理屈はともかく操作としては同じことなのだが、「主成分分析」 (principal component analysis)という人(地理育ちの人に多い)と、経験的直交関数(empirical orthogonal function = EOF)展開、あるいは「EOF解析」という人(地球物理育ちの人に多い)がいる。
余談: ある世代の人にとって、EOFは計算機操作で出てくるend of fileなのだが、その意味のほうが先にすたれて、経験的直交関数のほうが残った。

天気図解析
観測データをもとに天気図をかくこと。手がきの天気図の等圧線をひくことは、観測点での気圧という数値から等値線をひくだけの仕事ではなく、たくさんの天気図を見てきた経験をもとに、温帯低気圧や前線などの構造を認識して、それにふさわしい線をひくことだった。

客観解析 (objective analysis)
もともとは、計算機のプログラムによって、天気図解析と(ある意味で)同等のことをすること。手がきの天気図が、同じ観測データに基づいても作業者の主観による違いをもつのに対して、プログラムによって作られる図は、同じプログラムならばだれが作業しても同じ結果になるので「客観」という。(プログラムが違えば結果は違うのだが。)
実際の客観解析プログラムの仕事は、気圧、気温、風向風速などの数量を、観測点から、緯度経度または地図上の座標で規則正しく配置された格子点に、空間内挿することが主である。作図は、格子点値を利用した別の作業となる。
客観解析は、数値天気予報の初期値をつくるのに使われる。その際には、観測値に加えて、前回の客観解析に基づく予報値も使われる。
考えかたを変えると、数値予報が継続しているところにときどき観測値をさしこんで修正する、ととらえることもできる。そのようにとらえた手順を「データ同化」(data assimilation)という。
今では「データ同化」のほうがふつうで、「客観解析」という表現はほとんど使われなくなった。ただし、データ同化の過程で、予報値と対比して、観測値の情報を取りこんだ格子点値を「解析値」ということは今でもある。

流跡線 (trajectory) 解析
気象だけというわけではないが流体関係の分野特有のデータ解析技法のひとつ。流体の運動によって流される物体を考え(流体の一部を仮想的にとりあげることもある)、その運動を順方向または逆方向にたどった経路を求める。ふつう(データ同化などによって作られた格子点データを使って)数値計算で行なわれる。

分析
大気成分や大気中のエーロゾルの成分の検出や定量は、どちらかというと大気化学の仕事だが、気象学者を自認する人がすることもある。この場合、化学の用語として確立している「分析」という表現が使われ、「解析」とは言わない。