Albedo は英語では「アルビードウ」のように発音されることが多いようだが、日本語でふつうの「アルベド」という表記はラテン語に忠実なようだ。もともとラテン語で「白さ」のような意味の語らしい(が、「alb-」が「白い」に関連することだけしか確認していない)。現代の学術用語としては、なんらかの物体(固体または液体を想定する)が、そこに達した可視光のうちで、あるいは近赤外域(赤外線のうち可視光に近い波長域)をも含めた太陽放射のうちで、どれだけを反射するかを示す数値の名まえだ。理想的に白いもののアルベドが 1 (あるいは100%)、理想的に黒いもののアルベドが0なのだ。「反射率」ということばがあれば、別に「アルベド」ということばを使いわける必要はないはずなのだが、現実にはどちらも使われる。
気象学で使われる「アルベド」の意味は、大まかには共通なのだが、次のように分かれる。
1. 「地表面アルベド (surface albedo)」。地面や水面が、そこに達する太陽放射のうちどれだけを反射するか。
数値は、地表面を構成する物質、その相(固体か液体か)、表面の形(でこぼこ)のほかに、直達放射か散乱放射か、直達放射の場合の入射角などによっても変わってくる。対象と空間スケールの例として、森林や草原の100メートル四方の領域の平均の地表面アルベドを、高さ100メートルを飛んだ飛行機による観測に基づいて論じることができる。それをさらに、植物体のアルベドと土のアルベドに分けて両者の寄与を考えることがあるかもしれない。
2.「惑星アルベド (planetary albedo)」。地球(あるいは他の惑星)の「大気上端」に入射する太陽放射に対する、反射して「大気上端」から出ていく太陽放射の波長域の放射の割合。「惑星アルベド」という表現は、原則的には、地球全体の平均値をさすものだとわたしは認識している。ただし、次の3の意味で使われるのを見ることもある。【なお、ここで使った「大気上端」という用語は気象学の文脈での常識的な意味で使っている。その意味の検討は別の機会にしたい。】
3. (仮称)「大気上端で見たローカルなアルベド」あるいは「ローカルな気候システムアルベド」。大気上端での入射に対する反射の割合だが、2で全球平均を考えたのとは違って、地球上の狭い領域について考えたもの。これには、その領域の地表面アルベドのほか、そこに存在する雲やエーロゾルの量とそのアルベドが寄与する。
衛星観測独特の用法
さらに、衛星による地球観測の文脈で、「アルベド」ということばが、上記のものと関連はあるが違う意味で使われることもあるので注意が必要だ。(これはいわば「衛星地球観測むらの方言」で、気象学者は意外な使われかたに驚く異邦人である。)
それは、衛星センサーで観測されたデータを、「なま」に近い、センサーの機器較正だけをした形で提供する際の変数名に現われる。
まず、対象となる電磁波の波長域が、可視光あるいは太陽放射の全波長域ではなく、注目しているセンサーの注目しているバンド(チャネル)に限られる。(これはバンドをもつセンサーのデータでは当然のことであり、意外ではない。)
そして、アルベドは、反射放射照度の入射放射照度に対する割合であり、反射放射照度のところには実際に衛星で観測された信号を較正した結果がはいる。
ここで気象学者ならば、入射放射照度として、その観測時刻に地球上のその地点に(一般には斜めに)はいってきた太陽放射を水平面で受けた量を、衛星の軌道情報を使って計算し、上記の 3 のアルベドを求めるところだ。
ところが、(今もそういう表現をしているか確かめていないが、わたしが1990年ごろに扱ったいくつかの衛星データでは)、入射放射照度のところに太陽放射が真上から来る場合を想定した一定値を入れて計算したものを「アルベド」と称することがある。つまりこの「アルベド」は無次元化されているが反射放射照度のシグナルそのものなのだ。(「白さ」にさかのぼれば正しいとも言えるが、夜にはゼロになるような白さなのだ。)
【[2024-10-07] わたしはこれを「アルベド」とはいわず、「無次元化された反射放射照度」という。不正確でも簡単な表現にしたいときは (「反射率」ではなく) 単に「反射」「反射の強さ」ということにした。】
衛星観測から気象学でいう意味のアルベドを求めることもあるので、衛星観測の文脈で「アルベド」ということばが出てきたら、どちらであるか、注意が必要だ。