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初期値、初期値問題、initialization

時間の関数(あるいは時間と空間座標との関数)となる数量に関する微分方程式または差分方程式で表現される問題のうちには、ある時刻(便宜上 時間座標の原点 t = 0 とされることが多い)での条件が与えられるとそれ以後(t > 0)の値が決まるようなものがある。このとき、t = 0での条件を「初期条件」(英語ではinitial condition)といい、それを構成する数値を「初期値」(initial value(s))という。

日本語で「初期」というと、長い期間を分割したうちで初めのほうの部分をさし、時間方向に有限の広がりをもっているのがふつうだが、「初期条件」「初期値」の場合は、広がりをもたない1時刻での条件や値であるのがふつうだ。(差分方程式で t = 0 だけでなく t = Δt での値も与えるなど、複数の時刻での値を与えることもあるが。) 「初期」という用語の意味が分岐していると考えるべきだろう。

空間座標の関数である数量については、空間領域の境界での条件つまり「境界条件」(boundary condition)、それを構成する数値「境界値」(boundary value(s))を考える。時間と空間の両方の座標がある問題では、初期条件と境界条件の両方が必要であることが多い。

初期値問題」(initial value problem(s))ということばは、大きく分けて2つの違った意味で使われる。同じ専門分科に属している人の間でも違う意味で使っていて話がすれちがうことがあるので、注意が必要だ。

  • 1. 初期値が与えられれば解ける(与えられないと解けない)構造をしている(微分方程式や差分方程式の、つまり数学的な)問題をさす。
  • 2. 微分方程式や差分方程式に与えるべき初期値を知るという(その方程式に関する数学ではなく、それを応用する対象分野の)課題をさす。

考える対象となる時間区間の最後の時刻での値が問題になるとすれば、英語ではfinal value(s)というだろう。対応する日本語は決まっていないが「終端値」ということがあるようだ。わたしは「末期値」と言ってしまったことがあるが、これは通じなかった。

初期値を与える作業を英語で initialization と呼ぶことがある(initiationとは言わないようだ)。その用語が実際にどんな作業をさすかは、対象分野によってさまざまだ。

気象の数値予報では、観測値を空間内挿したものをそのまま予報モデルの初期値にすると計算結果があばれるので、ノイズとみなされるものの振幅を落とすようにあらかじめ修正してから初期値にする。この修正を initialization という習慣がある。初期値作成作業のうち、とくに初期値作成の目的のために開発された特定の部分をさしているのだ。日本語では「イニシャリゼーション」または「初期値化」だ。「初期化」と書かれることもあり、initializationからの直訳だと思えば理解できるが、実際やることから遠いと思う。(計算機プログラミングでは、そろばんの「ご破算」のように変数の値をゼロにしておく作業を「初期化」ということもあるが、それとこれとは別のことだ。)