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サービス科学(市民によって評価される科学)

科学のありかたには、同じ分野の専門家どうしの間で評価されるアカデミズム科学、企業や官僚機構の目的のために雇われた人が働く産業化科学のほかに、市民によって評価される科学があるべきではないか。それを中山(1979, 1980)は「サービス科学」と名づけている。【わたしは「転換期の科学観」の本を1980年に新刊で読んだ。】

中山氏はこの議論を英語でも1981年に発表した。その論文は2009年に出版された論文集に収録されている。

別のところ(増田, 2004)でも述べたように、Gibbonsほか(1994)のいう「モード2の科学」はさまざまなものを含んでいる。その中に「産業化科学」と「サービス科学」という対立の軸を考えることができる。現実にはこの理念型の中間のいろいろな段階があるのかもしれないが、この軸を考えておくことは意義があると思う。

11月19日の講演会[別記事参照]で中山氏に質問する機会があったので、この概念を今どう考えているかたずねてみた。

公有物の私有化が進む時代にどう考えるかは、問いの形で聞き手に返されてしまったが、わたしとしては、意義はあるととらえておきたい。

用語については、1980年代当時、英語圏でも「service science」で意味は通じたそうだ。大学のありかたについて「service university」ということばを使った人もいたそうだ。アカデミックな研究よりも市民へのサービスを中心とするという意味らしい。

このごろは別の意味、おそらく経済学用語の「財とサービス」のサービスに関する科学という意味で「サービス科学」ということばが使われることがあるので、わたしとしては用語をどうするか迷っているのだが、ともかく中山氏のいう「サービス科学」にあたるものを推進していくべきだと考えている。

文献

  • M. Gibbons (ギボンズ)ほか著, 1994; 小林 信一 監訳 (1997): 現代社会と知の創造 -- モード論とは何か. 丸善, 293 pp.
  • 増田 耕一, 2004: 科学はどう変わったらよいか? 水文・水資源学会誌, 17, 220. [本文HTML版]
  • 中山 茂, 1979: 研究の未来像。IDE 現代の高等教育 (民主教育協会), 1979年6月号。[わたしは見ていない。]
  • 中山 茂, 1980: サービス科学の提唱。転換期の科学観, 日本経済新聞社, 175-200.
  • Shigeru NAKAYAMA, 1981: The future of research — A call for 'Service Science'. Fundamenta Scientiae, 2(1):85-97. [わたしは見ていない。]
  • Shigeru NAKAYAMA, 2009: The Orientation of Science and Technology: A Japanese View. Kent UK: Global Oriental, 390 pp. ISBN 978-1-905246-72-4. [読書メモ]