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科学技術イノベーション? (3) 成長戦略から脱成長戦略へ

イノベーション」ということばが題名にはいった本をさがすと、その大部分は企業の経営者か技術開発担当者向けのようだ。Schumpeterのいう「企業家」となって「新結合」を実行するにはどうしたらよいか、という話なのだろう。

国の政策としてのイノベーションについては、まだ体系的な理屈が書かれたものに出会っていない。

断片から理屈を推測すると、大目標は、GDPの増加で代表される経済成長か、自国の産業の国際競争力の向上であるようだ。そして、国際競争力向上の必要性は経済成長の手段として説明できる。自国の富をふやすには、国内の市場でも外国の市場でも、自国の企業が外国の企業との競争に勝つ必要があるのだ。

そのためのひとつの道は、同じ商品を生産するうえでの生産性をあげる(同じ量の商品を生産するのに必要な労働や資源を減らす)ことだ。それはイノベーションと言えない細かい改善によって少しずつ進み、限界にぶつかることが多い。もし画期的に生産性をあげることができるとしたら、それは生産方法に関する「新結合」が成功した場合だ。

もうひとつの道は、まったく新しい種類の商品をつくり、旧商品の需要を吸収してしまうか、あるいはこれまでに供給者がいなかったため満たされていなかった潜在的需要に対応することだ。これは製品に関する「新結合」だ。

そして、科学技術政策がイノベーションをめざすべきだというときは、このどちらかの意味での産業のイノベーションに使うことができる技術を提供することを目的にすることが多いようだ。産業としてはもともと製造業が想定されていたが、医療や報道のようなサービス提供についても製造業との類推によって同様な理屈がたてられているようだ。

しかし、[8月1日の記事]で述べたように、経済成長はもはや適切な目標ではない。

経済成長をめざすことを目標とした社会のしくみを、持続可能性を確保することを目標とする社会に変えていくためには、確かに「新結合」を必要とする。そのために技術が必要になるだろう。それは必ずしも市場経済にまかせておけば出てくる技術ではないので、政府などの公共部門からの働きかけが必要だろう。確かに「科学技術イノベーション政策」があるべきなのだ。しかし、これまでこの用語で推進されようとしているものの延長上に答えがあるとは思えない。

環境に関する科学技術振興の目標は、今後日本のGDP増加を支える主役となることが期待される環境産業のために特許をたくさん作ること、ではないのだ。