わたしは、人間社会を持続可能なものにしていくために、ある種の政策が必要だと思っている。それは科学技術イノベーション政策と言ってもよさそうだが、今どきの科学技術政策家が科学技術イノベーション政策と言うとき想定されているものとは、ずれているようだ。それを説明するためには、まだわたしのイノベーションについての理解が充分でない。少しずつ勉強しながら考えていきたい。(この主題の連載はゆっくり不定期に続けるつもりだ。)
そもそも「イノベーション」とはどういう意味なのか。
詫間(2010, 26ページ)は次のように述べている。
「イノベーション」の概念を初めて提唱したのは、オーストリアの経済学者シュンペーター(Joseph A. Schumpeter)でした。1912年の著書『経済発展の理論』(Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung)で、経済発展を説明する重要な概念として登場しました。「新結合の遂行」(Durchsetzung Neuer Kombinationen)というのがそれです。これが後に、英語の経済学用語として「innovation」と訳されたのです。1937年に『経済発展の理論』の日本語版が刊行されましたが、シュンペーター自身が寄せた英語序文で、「innovation」という英語が「新結合の遂行」の意味で使われています。
シュンペーターによると、生産という行為は、利用可能なさまざまな物や力(生産要素)を組み合せることに他なりません。「新結合の遂行」とは、従来の組合せをいったん解き、新しい組み合わせを実現するということです。これが、イノベーションのもともとの定義です。
シュンペーターは、新結合として、次の5つの場合を挙げています。
- 新しい財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産 (Product Innovation)
- 新しい生産方法の導入 (Process Innovation)
- 新しい販路の開拓 (Market Innovation)
- 原料あるいは半製品の新しい供給源の維持 (Material Innovation)
- 新しい組織の実現 (Institutional Innovation)
[masudako注: 英語の表現は詫間氏の原文では次の段落にあるが、各項目に移した。]
日本語では「技術革新」ということばがinnovationの訳語に使われることが多いが、詫間氏(25ページ+このブログへのコメント)によればこれの始まりは19581956年の『経済白書』と、同じ年に出た星野(1958)の本だそうだ。
「技術革新」という表現では、シュンペーターのイノベーションの意味を覆いきれない。しかし、科学技術が関与するイノベーションに限るならば、まずまずよい表現ではないかとわたしは思う。ただし、(企業経営の文脈でなく政策の文脈ならば)この「革新」は、何かが国民経済にとって無視できない規模に広がることをさしている。(そこで、熟さない表現だが、わたしは[昨年7月27日の記事]では「技術革新普及」と書いてみた。) この「何か」の発端は、新しい技術が作られること(発明, invention)であってもよいのだが、昔からあったがあまり知られていなかった方法・材料などを新しい文脈で使うことでもよいのだと思う。
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