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科学技術イノベーション? (1) 第4期科学技術基本計画の素案から

現代の人間社会は科学技術を必要としている。【科学と技術は本来別々なものであり、おそらく19世紀なかばまでの人には「科学技術」という表現は意味をなさなかったと思うが、今の同時代人の間では大筋で共有可能な意味をもっていると思う。】 人間社会を持続させていくためには、なんらかの科学技術研究を進め、その成果が社会に広く普及されることが必要だと思う。どんな科学技術でもよいわけではなく、社会的目標に合ったものを推進することが必要だ。

(なお、現代の人間社会は科学技術に依存しすぎており、依存の必要性を減らしていくべきなのだと思うのだが、もはや人の生活に適しているが未開拓な土地が少なくなってしまった今、単純に科学技術を捨てるわけにはいかず、「人間社会の科学技術への依存性を減らす」という社会的目標に役立つ科学技術を選択的に推進する必要があるのだと思う。)

さて、現在の日本の体制のもとで、なんらかの科学技術研究に国の予算をつけてもらおうとすれば、それは国の科学技術基本計画に合っているものである必要がある。予定では昨年度中(今年3月まで)に第4期科学技術基本計画が決められ4月から実行にはいっているはずだったのだが、3月11日の震災を受けて見なおしが行われた。[7月31日の記事]でふれたように、7月29日の総合科学技術会議(CSTP)で「答申『科学技術に関する基本政策について』に関する意見具申」が出た。よほどのことがないかぎり、これに近いものが基本計画となりそうだ。

この「意見具申」の文章を見ると、「科学技術イノベーション政策」ということばが何度も出てくる。学校の国語の問題のように「この文章の主題は何か」と問えば、この語句が主題を示すというのが答えになるだろう。

つまり、これから5年ほどの間に、科学技術にかかわる何かを日本国の政策とすることを提案したい場合は、それを「科学技術イノベーション政策」の中に位置づける必要があることになる。しかし、用語だけ出されてもわけがわからない。

「意見具申」の「別紙」の「答申『科学技術に関する基本政策について』見直し案」は、実質的に科学技術基本計画の素案と言ってよさそうだ。

その「I. 基本課題」の「2. 科学技術基本計画の位置づけ」の中に

科学技術政策とイノベーション政策を一体的にとらえ

という語句が出てくる。そして「4. 第4期科学技術基本計画の理念」の「(2)今後の科学技術政策の基本方針」の中に、次のように書かれている。

...科学技術政策に加えて、関連するイノベーション政策も幅広く対象に含めて、その一体的な推進を図っていくことが不可欠である。...これを「科学技術イノベーション政策」と位置付け、強力に展開する。

これだけならば、「科学技術イノベーション政策」とは「{『科学技術』および『(科学技術に関連する)イノベーション』}についての政策」であると理解できる。

ところが、「II. 将来にわたる持続的な成長と社会の発展の実現」の5節の表題は「科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革」とあるので、「科学技術イノベーション」という概念も理解しなければならない。「I.」の「科学技術イノベーション政策」が出てきたところにもどってみると脚注がついている。

科学技術イノベーションとは、「科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて経済的、社会的・公共的価値の創造に結びつける革新」と定義する。

この文の意味は、「価値」という語の意味づけによって、だいぶ変わってきそうだ。しかしおそらくCSTPでは「価値」の意味の統一はしていないだろう。「経済的」がはいっているので金銭に換算可能なものも含まれるが、「公共的」がはいっているのでそれ以外のものも含まれるということは言えそうだ。