WikiといえばWikipediaと思う人が多いが、wikiというのはソフトウェア技術の名前で、Wikipediaはその技術を使って実現した百科事典(というインターネット上のサービス、というべきか?)だ。Wikiの語源はハワイ語のwiki-wikiで、英語のquickに近い意味だそうだ。
ひとまず百科事典という応用にとってWikiという技術のもつ意味を考えてみる。たとえば15000ページ(500ページ×30巻)の本になる百科事典の全面改訂の間隔は10年以上になるだろう。しかし5年もすると情報が古くて使えない部分も出てくるだろう。これでは、紙を消費して本の形で出版してはもったいない。著者が1年に1回くらい原稿を見なおす気になるとすれば、そのとき出版社や印刷会社の人をわずらわせなくても著者自身が改訂できるしかけを用意しておけば、1年に1回の頻度で改訂ができる。このような編集の加速は、情報の質をよくするのに望ましい。
ところが、いつでも改訂ができるWiki技術があって、改訂する権限を持っている人もおおぜいいて、その人たちが、入れかわりにせよ毎日改訂しようとするような状況になると、とても忙しくなる。文章を改訂しないのが望ましいと思っている人も、望まない改訂をされたらもとにもどしたり、改訂をしようとしている人を説得したり、忙しく努力しないと、希望が達成できないのだ。
Wiki-wikiが行き過ぎているので、その反対の要素を適量混ぜる必要があるのだと思う。
Wiki-wikiの反対の要素にふさわしい名前として(べつにハワイの裏側をねらったわけではないのだが、ふと)思いあたったのは「ポレポレ」(pole-pole)だ。 東アフリカでよく使われることばで、スワヒリ語で「ゆっくり」というような意味だと聞いている。ただし、わたしはスワヒリ語は、この単語と、あとは「スワヒリ語」がkiswahiliであることしか知らない。くりかえさないpoleがどういう意味なのかも知らない。だからポレなんとかという造語を提案はしない。
Wikiを少しゆっくりさせる方法は自明ではない。いったん改訂したら何日かは改訂できないといった制限をおくのは簡単だが、それでは誤字もすぐには訂正できなくなるから不便だろう。正式版をすぐ書きかえてしまうのではなく、複数の変更案を見比べ、さらにそれにコメントをつけ、討論結果をふまえて変更を実行する、といった手順がわかりやすくできる機能があるとよいと思うのだが、ためしに使ってみながらの開発が必要かもしれない。
ソフトウェア技術としてのblogも、人が文章をウェブに出すのを助けるしかけであり、コメント機能を使って意見交換をすることもできる。しかし、毎日新しい記事が出る活発なブログだと、1週間前の記事はもう1ページめに出てこないのがふつうだ。わたしは、1週間くらい考えてからコメントしたくなることが多く、それはその記事に対する最後のコメントになってしまうことが多い。もとの記事の筆者は見てくれたと思うのだが、他の読者との議論の共有にならないのだ。Blogは変化が速すぎると感じる。
Blogがいつも速すぎるわけではない。新しい記事やコメントをたまにしか書かない気の長い人ばかりならば、なんか月もかけてゆっくりした会話をするのに使うこともできる。しかし、同じ場で気の早い人がどんどん新しい記事やコメントを書いているときに、気の長い人の書いた記事は埋もれがちであり、気の長いコメンテーターは気おくれすると思う。ここでもポレポレ的要素をくふうできないだろうか。