2月11日に書いたIPCCの将来に関する個人的考え(その1)の続き。自分の能力の小ささをたなにあげて大言壮語する。
人間活動が環境に影響し人間社会の持続性をおびやかすという問題は、地球温暖化に限ったものではない。とくに、生態系・生物多様性への影響は、農業や都市化を含む土地利用改変や、漁業を含む水域資源利用からの直接の影響がまずあって、それに大気・海洋の物質組成の変化と気候変化が加わると考える必要があるだろう。それに対応する政策は、気候変化の軽減に限って最適化しても意味がない。
そこで、IPCC (気候変動に関する政府間パネル) は、人類社会の持続可能性に関する科学的知見を総合する組織に変わるべきだと思う。「政府間」であるべきかどうかはよくわからないが、ここでは仮にそれは変えないとして、Intergovernmental Panel for Sustainable Human Society (IPSHS、持続可能な人間社会のための政府間パネル)と仮称しておこう。現在のIPCCは、新パネルのひとつの部会に移行する。これを第1部会と呼んでおこう。実際にはIPCC第1部会の内容はここに残るが、第2・第3部会の内容の多くは新パネルの他の部会で扱われることになるだろう。他方、大気・海洋の物理・化学的環境に関するものは、地球温暖化に直接関係なくても新パネル第1部会の検討対象に含めるのが適当だろう。たとえばオゾン減損、酸性降水などの問題がそれにあたる。
生態系・生物多様性に関する要素を、仮に国連関係に限ってあげれば、ミレニアム生態系評価(Millennium Ecosystem Assessment)は2005年で終わってしまったけれども、これを更新していくような仕事が必要なはずだ。また、生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)は気候変動枠組み条約と同じような性格のものなので、それに対するIPCCのような仕事が求められるはずだ。これを合わせて第2部会としよう。
人間社会自体の要因も扱わなければならない。とくに、人が生きていくためにぜひ必要な食料、エネルギー資源、水資源の需要を見積もり、その供給を確実にするにはどうするかを考える必要がある。その際に政治や経済のしくみをどこまで問題にするべきかは、社会科学のしろうとのわたしにとってだけでなく、だれにとってもむずかしい問題だと思う。まず、どんな主題があり、そのうちどれをこのパネルで扱う必要があるかの検討が必要だ。少なくともミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)の達成度評価をし、目標再設定のために複数の案を検討するような活動は含まれるだろう。ともかくこれを第3部会としよう。
そして、気候、生物、人間社会の問題を見渡して、複数の政策を比較評価するのが、第4部会の仕事となる。
もちろんこのような大がかりな組織はすぐにできるものではない。
幸か不幸か、IPCCは2013〜14年に第5次評価報告書を出すという日程をすでに決めている。それを想定して、報告書に採用されることを(目的であるはずはないが)目標にして進められている各国の研究活動もいろいろある。その日程は基本的に変えないことにして、それがすみしだい新パネルに移行できるように、並行して準備を進めておくのが適切だと思う。
IPCCに参加しうる能力・適性をもった人の一部には新パネルの構想のために働いてもらわなければならないので、そういう人の全部を今のIPCCの体制に動員してはいけない。IPCCのような組織は仕事をふやしていく傾向があると思う。必ずしもあしき官僚組織の膨張ではなく、成功したと感じれば発展したくなるのも当然だし、批判を受ければそれにこたえる仕事がふえることもある。しかし、とくに今回は、実際に動ける人の使える時間の範囲で質のよい成果が出せるように、目標をしぼりこむことが大事だと思う。関係者にも、批判者にも、手を広げ(させ)ることに対する禁欲をお願いしたい。