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いわゆる「AI」と「AI chat bot」について、ひとりの大学教員の暫定的判断

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】

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わたしはいわゆる「人工知能」「AI」の流行にながされたくない。それは25年まえに「人工知能」とよばれたものとほとんどかさなっていないので、おそらく25年後には重要ではなくなるだろうと予想されるからだ。ほかに勉強しなければならないことがたくさんあるので、それを勉強する時間さえ おしい。

しかし、大学教員をやっていると、よくわからないものごとについても、ともかく判断しなければならないことがある。このブログ記事では、つぎの 2節 と 3節で、2つの課題についてのわたしのいまの時点での判断をのべる。【そのあと、2節と3節の説明不足をおぎなう記述や、関連して考えていることを、別記事 [2023-04-24 「いわゆる「AI」と「AI chat bot」について、ひとりの大学教員の暫定的判断」に関連するメモ] に書いた。】

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わたしは大学で「データサイエンス」についての教育を奨励するのはよいことだと思う。その初歩の部分を全学生に必修にしようという提案には、くわしい内容しだいではあるが、たぶん賛成する。

しかし、「人工知能」あるいは「AI」の初歩を必修にしようという提案には反対したい。とくに、「AI」が事実上「機械学習」を意味するのならば、選択科目として開講することには賛成するが、必修にするのには、あるいはそれを履修しない学生が不利になる位置づけにするのには、反対である。

【いまの天気予報のうらには、大量の観測データをあつめて「同化」して数値シミュレーションをおこない、その結果を解釈して配信する技術がある。それは「データサイエンス」の応用の代表例ともいえると思う。しかしそこで「機械学習」とよばれる技術は、ちかごろとりいれられてはいるものの、末梢的部分でつかわれているだけだ。天気予報の基盤技術を「機械学習」の入門知識だけで解釈するとたぶんまちがった解釈になる。「データサイエンス」の基礎概念をおしえたうえで、「機械学習」はそこからの発展のひとつという位置づけにしてほしいのだ。】

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雑な表現で「AI chat bot」といわれるものが、ちかごろ急に (わたしの記憶によれば2023年2月以後、というのは先学期の期末レポートをしめきった1月末にはまだ話題になっていなかったから)、よく話題になっている。

これは、いわゆる人工知能技術にふくまれる、LLM (large language model) という技術の応用だそうだ。

人間のことばの文字列のかたちで質問をあたえると、人間のことばの文字列 (質問内容によってはプログラム言語や画像のこともある) で答えがかえってくる。的確なこたえのこともあるが、人名をあたえた質問でまったく別人の情報をかえしてくることもあるし、文献をたずねるとありそうだが実在しない文献名をこたえてくることもある。

ふつうの質問でえられた chat bot の出力はふつうの文章で、chat bot の出力であるというしるしはついていない。「人工知能」技術で判定させるこころみもあるが、それもまちがえることがある。【LLMは「機械学習」型の技術なので、同じ chat bot に同じ問いをあたえても、かえってくるこたえが同じとはかぎらない。この再現性のなさのせいで、chat bot の出力であるかどうかの判定が決定論的にできず、確率的にしかできないのだ。】

わたしは授業の期末試験のかわりにレポート提出をもとめている。計算機をつかう計算の問題をふくめたいからだ。しかし計算問題のほかに論述問題もある。その答えが chat bot 出力をそのままつかったものだったとしても、内容がただしければ、よい点数をつけることになる。それはあますぎる採点になると思う。

しかし、学生に日常から chat bot 利用を禁止するのもうまくないと思う。レポートに直接とりこむことにかぎって禁止することにしようかと考えている。(禁止したとしても違反を判定して処罰することは困難なので、この禁止は規範の宣言にすぎないのだが。) 別案として、chat bot を利用した部分はそのことを明記せよ、とすることも考えている。