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暑さ寒さの体感と からだの熱収支についての暫定的 おぼえがき (2) 「不快指数」

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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暑さ・寒さについての人の感覚や人の健康への影響を、気温をはじめとする気象要素とどのように関係づけるかについて、わたしは、
[2018-11-11 暑さ寒さの体感と からだの熱収支についての暫定的 おぼえがき] (ここでは「第1部」とよぶ) を書いた。わたしの、人体のエネルギー収支 (熱収支) を基本とするべきだという考えはそのときからかわっていない。他方、残念ながら、その件についてのわたしの専門的知識はあまり更新されていない。

しかし、たまたまネット上で「不快指数」ということばがつかわれているのを見かけて、その用語について確認しておきたくなって、Wikipedia 日本語版 [ [不快指数] ] (2022-08-15 現在) を手がかりとしていくつかの資料を見た。それでわかった断片的な知識を、第1部を補足する別記事として書きとめておく。

「不快指数」は、いまの気象学の専門家のあいだで通用する学術用語ではなく、むしろ報道でつかわれがちなことばだが、気象用語と思われることがおおいだろうから、記事カテゴリー「気象むらの方言」にもいれておく。

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「不快指数」のもとは、アメリカ合衆国 気象局 (U.S. Weather Bureau) の職員だった Thom が 1959 年の雑誌記事で説明した "discomfort index" である。(そのまえの 1957年に Weather Bureau 内の技術報告があるらしい。)

ただし、日本で「不快指数」といわれるものは、Thom の discomfort index とは数値がちがっている。アメリカでは温度の単位に ファーレンハイト (華氏) 度 をつかうが日本ではセルシウス (摂氏) 度をつかうことから生じたちがいらしい。

【わたしは子どものころ (1960年代) に「不快指数」ということばをたびたび見たおぼえがある。ただし、その当時のテレビや新聞の報道にたびたび出てきたわけではなく、科学あるいは健康についての読みものの本で読んだ。計算式に奇妙な係数がついていたというおぼろげな記憶があり、もしかすると摂氏温度から Thom の discomfort index をもとめるものだったのではないかと思うのだが、たしかめることができない。】

いずれにしても、要するに、気温 (乾球温度) と 湿球温度 との平均 (を 1次式で変換して尺度と原点をかえたもの) である。暑さの体感は、湿球温度に対応することもあるが、むしろ気温自体に対応することもあるので、両者をまぜたくなるのはわかる (重みが 1対1になるのは必然ではないが)。なお、Thom (1959) の文章は有料なのでわたしは全体を読んでいないが、序論部分をみると、背景に空調の需要をみつもる問題があったようだ。空気中の水蒸気をへらすことと、気温をさげることとを、必要な動力 (電力) によって統一的に評価するという発想がすでにあったのかもしれない。

湿球温度は気温と相対湿度がわかればわかる。したがって、discomfort index あるいは「不快指数」を気温と相対湿度から計算することができる。Wikipedia の記事にのっている式は、気温と相対湿度の積の項、気温の1次の項、相対湿度の1次の項、定数項からなる多項式だ。「不快指数」の定義のうちの湿球温度を湿球の原理からもとめる式を基本として、実際につかわれる (と予想された) 温度・湿度範囲でその近似となる わりあい簡単な形の式をつくったのだろう。

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Wikipedia の [ [不快指数] ] の記事の参考文献のうちに、やくにたちそうなものがあった。わたしはすぐに読む時間をとれないが、ひとまず文献としてあげておく。読むことができたら、この記事に加筆するか、あるいはあたらしい記事をたてるかもしれない。

ひとつは、木内 (2001) の論文だ。Wikipedia の記事が参照しているのは気温と相対湿度から不快指数を求める式だが、これは論文では付録に式だけあらわれるだけで根拠の説明はない (したがってこの件の参考文献としてはうまくないと思う)。しかしこの論文の著者自身の研究は、人体の熱収支をまじめに検討したものだ。そして、「温冷感指数 TSI」という指標を提案している。わたしにはこの論文の重要性はよくわからないが、参考になる一例ではあると思う。

また、Wikipedia 記事には著者名が出ていなくてわかりにくいが、Epstein & Moran (2006) のレビュー論文へのリンクもある。これはいろいろな暑さの指標を論評したものだ。

文献

  • Yoram Epstein & Daniel S. Moran, 2006: [Review Article] Thermal comfort and the heat stress indices. Industrial Health, 44: 388–398. https://doi.org/10.2486/indhealth.44.388 [PDF は J-Stage にあり、無料]
  • 木内 豪 [Tsuyoshi Kinouchi], 2001: 屋外空間における温冷感指標に関する研究。『天気』, 48: 661-671. [PDF は http://www.metsoc.jp/tenki/ から検索して取得可能 (無料)]
  • E. C. Thom, 1959: The discomfort index. Weatherwise, 12(2): 57-61. https://doi.org/10.1080/00431672.1959.9926960 [最初のページはオンラインで読めるがそのさきは有料]