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暑さ寒さの体感と からだの熱収支についての暫定的 おぼえがき

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「体感温度」ということばがある。これは、人の暑さ寒さの感覚が、だいたい温度に対応しているが、それだけではないので、感覚にあうように温度を修正したい、という考えによる用語なのだと思う。実際にそれを計算する提案は、いくつかあるが、決定版はない。危険な暑さ、危険な寒さ、快適さなどについて、別々の指標を考えたほうがよさそうなのだ。

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人の暑さ寒さへの適応を考えるときには、からだの熱収支を考えるのが、基本だと思う。

基本はエネルギー保存の法則だ。

ただし、運動エネルギーは、運動自体を考えるときは重要なのだが、たいてい内部エネルギーにくらべて小さいので、省略して考える。

また、化学物質の原子間結合のエネルギー(「化学エネルギー」)は、対象システムの外とみなすことにして、内部エネルギーだけを考えることにする。近似なのだが、内部エネルギーは、温度に比例する部分と、水の相変化による部分とからなる、とみてよい。不正確な表現だが、内部エネルギーのことを、あるいは内部エネルギーに体積変化にともなう仕事の寄与をくわえたエンタルピーのことを、「熱」と言ってしまうことがある。ヒトを含む、酸素を利用する生物は、有機物の酸化でエネルギーを得るが、このプロセスは、化学エネルギーを(部分的には運動エネルギーを経由して) 「熱」に変えていることになるので、からだの熱収支にとっては熱源となる。

エネルギー保存の法則から、からだのもつ内部エネルギーが時間とともにどれだけ変化するかは、からだの表面でのエネルギーの正味の出入り(はいるほうが正)と、体内の熱源との合計にひとしい。

からだの温度がどんどん上がったりどんどん下がったりしないで、準定常状態にたもたれるためには、体内の熱源とだいたい同じだけの量のエネルギーが正味で表面から出ていけばよい。

このような熱の流れが無理なくできるときが快適で、温度変化がさけられないか、熱の流れを制御するために特別なはたらきをしなければならないばあいには、不快になり、さらにひどければ熱中症や凍傷などの病気になる、といえると思う。

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からだの表面の熱収支は、地表面熱収支 ([ 2012-07-05 地表面のエネルギー収支と水収支][教材ページ「地表面のエネルギー収支」][教材ページ「地表面エネルギー収支各項とそれに関連する気象変数」] 参照) と基本的に同じように考えることができるだろう。

表面でのエネルギー交換は、大きくわけて、乱流輸送と放射がある。

からだとそれに接した空気のあいだでは熱伝導がおこり、高温側から低温側に、温度差に比例して熱(次の水蒸気にともなうものと区別して「顕熱」という)がつたわるはずだ。しかし、顕熱の流れの強さは、からだに接した空気がどのくらい速く入れかわるか、つまり、からだのまわりの空気の細かい動き(乱流)の活発さにも依存する。乱流が風によってつくられるとすれば、まわりの平均的な風が強いほど乱流も強いだろう。

水蒸気は同じ温度の液体の水よりも大きな内部エネルギーをもっている。ひとまず液体の水のエネルギーレベルを基準に考えると、からだから水が蒸発して水蒸気として出ていくときには、水蒸気にともなう「潜熱」のエネルギーが出ていくことになる。潜熱の流量は、からだの表面の飽和比湿とまわりの空気の比湿との差に比例すると考えられる。ただし比例係数は乱流の強さに依存し、平均的な風が強いほど乱流も強いだろう。

太陽放射が表面にあたれば、からだは不透明なので、吸収されるか反射されるかである。吸収されるぶんが、からだのエネルギー収入となる。

他方、熱赤外の波長帯では、からだ自体も放射を出しているが、大気からの放射を吸収もする。実際は熱赤外のうちでも波長によって大気の射出率・吸収率がちがうので複雑なのだが、おもいきって単純化していえば、熱赤外放射の正味のやりとりは高温側から低温側にむかい、温度差が大きいほど大きいと考えてよいだろう。すると、非常に大まかには、顕熱輸送と同様になる。ただし風速にはよらない。

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体感温度や暑さ寒さの指標には、気温のほかに、湿度、風速、日射量などをくみあわせたものがある。

ひとまず、Wikipedia 日本語版の「体感温度」の記事(2018-11-11現在) に出てくる指標について、わたしなりの理解をのべておく。理解が正確でないかもしれない。指標の計算式は、ここでは省略するが、Wikipedia記事中にあったり、そこからのリンク先にあったりする。

湿度の表現には、相対湿度、水蒸気圧、比湿(空気のうちの水蒸気の質量比)、露点温度、湿球温度などがあるが、このうちひとつと気温がわかっていれば他のものは計算できるので (気圧も必要なことがあるがそれは地点ごとに一定値で近似してもよいので)、「湿度」とまとめておく。

湿度は、潜熱の乱流輸送にかかわる。からだの表面に接した空気はしめっている。理想化した状況として、からだの表面の温度で水蒸気で飽和していると考えよう。まわりの空気の比湿が大きいほど、表面に接した空気との比湿差は小さくなるから、潜熱の流れが弱くなる。まわりの比湿が大きいと、からだから熱が出ていきにくくなるので、同じ温度でも「暑い」と感じやすくなるのだ。

気温と湿度で構成された暑さの体感の指標としては、ミスナール(Missenard, 1937年)の体感温度、「不快指数」、アメリカ合衆国の気象庁(National Weather Service)で使われているheat index、カナダの気象庁で使われているhumidex などがあり、また湿球温度をそのまま使う場合もあるが、これはこのように理解できる。

風速が強いことは、乱流を強めるので、外が低温の場合は、からだをひやすのを強めることになる。これは寒さの体感にとって重要だ。アメリカ合衆国、カナダの気象庁がそれぞれすこしちがった定義で使っている wind chill index はこのように理解できる。(なお、外が高温の場合は、風速が強いことは、からだを加熱するのを強めることになる。これを考慮した暑さの指標は、まだないかもしれない。)

日射があたることは、からだに対する加熱になる。オーストラリアの気象庁で使っているapparent temperatureは、気温、湿度、風速のほか、日射量を考慮にいれて、温度の形にまとめたものである。(Wikipediaは「日光の放射照度」と書いているが、たぶん気象学用語の「全天日射量」でよいと思う。ただし確認していない。)

「湿球黒球温度」(wet bulb globe temperature, WBGT)というものも暑さの指標として使われる。これは、湿球温度、ふつうの気温(乾球温度)にくわえて、黒い(太陽放射をよく吸収する)球の中ではかった「黒球温度」を組み合わせて計算される。日本の環境省の「熱中症予防情報サイト」が使っている「暑さ指数」はこの湿球黒球温度である ( 「暑さ指数」のページ http://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php )。そこでは、実際に湿球・黒球温度計を使った実測値のほかに、気温、相対湿度、全天日射量、平均風速から推定する方法が紹介されている。

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暑さ寒さの体感については、医学・保健、被服、住居・建築、体育・スポーツなど、いろいろな方面の研究者があつかっていて、おそらく分野ごとで基礎知識は共有されているのだと思う。しかし、わたしはよく知らない。しかも、本屋や図書館で背表紙を見て関係ありそうな本を手にとるようなかたちでは、適切な本にめぐりあいそうもない。なにかきっかけがあったら勉強しようと思うが、それまでは、わたしとしてはここまででたなあげにすることになりそうだ。