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要素を兼用した複合語 -- 気もちわるく感じるもの、そうでもないもの

【まだ書きかえます。いつどこを書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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日本語の中の、漢語起源の要素からなる熟語で おなじ要素をふくむものを くっつけてひとつのことばにしてしまうとき、おなじ要素をひとつだけにしてしまう、というかたちでつくられた複合語を、ときどき みかける。「A X」と「B X」をあわせて「A B X」にしてしまう、というかたちのものがおおい。

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わたしは、そういう用語で、まだ世の中全体ではあまり見ないものを、役所用語でよく みかける、という印象をもっている。

研究職にいたわたしも、「統融合」とか「利活用」とかいうことばが、国の事業の研究プロジェクト名や 達成すべき目標にかかげられていると、つかわないわけにいかなかった。自分で読み書きしながら、気もちがわるかった。プロジェクトのしごとをするのが(ちょっと)いやになる方向に はたらく要因になった。

(学者がみんなこのような複合語をいやがるとはかぎらず、かまわずにつかう人もいるようだ。)

わたしは、なぜ、気もちがわるいと感じたのだろうか? プロジェクトの企画から実行への意思決定の流れがうまくないと感じたことが、表現への不満にのりうつってしまったという面はあると思う。しかし、表現への不満もある。

「統合」と「融合」は、同意語ではないが、かならず別々の対象をあらわすわけでもなく、対象がかさなっている。もし同意語ならば一方でよいので、たぶん、わざわざ複合語をつくらないだろう。他方、あきらかに別々のものならば、合併集合であることがあきらかなので、気もちわるくはない。どちらでもないと、合併集合のようでもあり、共通集合のようでもあって、意味のひろがりがあいまいなので、気もちがわるい、という説明ができると思う。

(「統融合」と「統合 and/or 融合」という表現とは、意味のひろがりが近いと思う。「and/or」も、ほかにうまく表現できなくてつかうこともあるが、論理的にあいまいなので、わたしはなるべくさけたい表現だ。)

わたしは、自由にことばをえらべるときには、このようなことばをつかわない。一方の用語で代表させて、ここでは他方もふくむと注釈することですませたい。明確に両方の意味をふくめたいときは、長くなっても「統合・融合」のようにかく。

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このように、複数のことばから複合語をつくるとき、かさなる部分をつめてしまったものを、「かばん語」という、と、どこかで見たおぼえがある。英語かなにかの外国語でつかわれている表現の直訳らしい。しかし、わたしは、どんな本にかいてあったのか、おぼえておらず、さかのぼれる手がかりもない。

「かばん語」の例としてしめされていたのは、「A B」と「B C」をあわせて「A B C」にしてしまうようなものだったのかもしれない。そうだとすると、「A X」と「B X」をあわせて「A B X」にするのは、ちがうのだろうか?

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「蒸発散」ということばがある。これは水文学[すいもんがく]の学術用語として確立している。「蒸発」と「蒸散」をまとめたものだ。英語でも、語をくみたてる要素はちがうが、 evaporation と transpiration をあわせて evapotranspiration なのだ。

わたしは、「蒸発」がさす対象は「蒸散」がさす対象をふくむと考えているので、「蒸発」といえばよく、「蒸発散」ということばは不要だと思っている。

しかし、もし「蒸発」と「蒸散」の対象は かさならない、つまり、植物の葉の気孔から水蒸気が出てくるのは「蒸発」ではないと約束するのならば、「蒸発および蒸散」を「蒸発散」とする複合語のくみたてかたは、もっともだと思う。

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わたしは、「気水象」と「気水圏」ということばをつかってしまった ([2018-01-30の記事]参照)。

「気水圏」は、「気圏」と「水圏」をまとめたものだ。「気圏」は、英語では atmosphere で、「大気圏」と言っても「大気」と言ってもおなじだ (区別してつかうことはできないだろう)。「水圏」は hydrosphere で、おもに海洋をさすことが多いが、陸域の水をもさす。

「気水圏」ということばは、(いつごろからつかいはじめられたかは知らないが) 1980年代に、日本の極地研究者がつかっていた。国立極地研究所が「気水圏シンポジウム」をひらいていた (いまは極域科学シンポジウムの部分になっている)。ただし、英語名では polar meteorology and glaciology となっており、おもな対象は大気(ただし気象学であつかうような下層・中層の大気)と雪氷だった。

わたしは、極地研での つかわれかたにこだわらず、大気圏と水圏を包括的にふくむ用語として「気水圏」をつかいたいとおもっている。この場合、気圏と水圏のかさなりがちいさい (両方にふくまれる可能性があるのは大気中の水蒸気や雲ぐらいだろう) ので、わたしには わりあい なっとくがいく複合語なのだ。

「気水象」は わたしが はじめてではないと思うが、どこでつかわれていたか思いだせる先例はない。わたしは「気水圏でおこる現象」として導入したつもりだ。しかし「気象」と「水象」をあわせたものと考えることもできる。「気象」は定着したことばだ。「水象」はなじみがないが、「水圏でおこる現象」と考えることができるだろう。

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「学協会」ということばをきくことがある。

学術会議関係でつかわれていることばだと思ったので、学術会議ウェブサイトを見ると (2018-11-25現在)、「日本学術会議 協力学術研究団体」というページ http://www.scj.go.jp/ja/group/dantai/index.html がある。日本学術会議の会則 第36条できめられていることの紹介で、そこでつかわれていることばは「学術研究団体」だ。

しかし、学術会議ウェブサイトの別のページには「学協会」がでてくるところもある。「科学者委員会 学協会連携分科会」http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/renkei/index.html という内部組織のページなどだ。

かつて「学協会」とよんでいたものを、会則を改正した2005年(平成17年)に「学術研究団体」にかえたが、まえからの用語をつかいつづけている部分も のこっているのだろう、と推測した。しかし、これは誤解かもしれない。いずれ、学術会議の関係者にたしかめて、それにあわせてこの記事をかきかえたい。

「学協会」とよばれているものを、おおくの学者が日常には、「学会」とよんでいると思う。その分類にふくまれる団体の固有名の多くは「○○学会」だろう。「○○学協会」であるものもあるが、それは「○○学」にかかわる「協会」だと認識されているだろう。

「学協会」は「学会」と「協会」の、かさなる要素をまとめた複合語なのか?
別の解釈としては、つぎのようにも考えられる。

  • 「学会」ということばは、期間が数日程度の会合をさすことと、数年以上持続する団体をさすことがある。ここでは団体であることを明確にしたい。
  • 「学会」は趣味(あるいは宗教の教義)を学ぶ同好会でもありうる。ここでは学術研究団体であることを明確にしたかった。それならば「学術研究団体」と言ったほうがよいということになって、「学協会」という表現は すたれてきた。

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「史資料」ということばを見かける。

これは役所用語か、学者がつかっているのか、わたしはまだよくわかっていない。

どのような意味でつかわれているかも、まだ確認していないのだが、つぎのどちらかだと思う。

  • 「歴史資料」と同じなのか?
  • 歴史資料だけでなくその他の資料もふくむが、歴史資料に重点があり、単に「資料」というときよりは範囲が限定されている、ということなのか?

「史料」と「資料」は、きいて区別がつかないので、おなじ文脈に出てきてはまずいことばであり、もしおなじ文脈で両方の概念をつかいわける必要があるのならば、どちらかの表現をかえるべきだと思う。わたしは、自分でことばをえらべるときは「史料」と書かず「歴史資料」と書く。(ただし、「歴史資料」にも、「歴史の記述や研究にとって意義のある資料」というような意味と、「作成時代が(なんらかの基準年代よりも)古い資料」というような意味がありうる、と思う。)

そして、おなじ発音の語どうしの複合語は、わたしには気もちわるく感じる。

「史資料」とかかれているところも、「歴史資料」でよいのではないか、と思うのだが、わたしはまだ実際につかわれている文脈がわかっていないので、この判断はまちがっているかもしれない。

- 8 [2018-11-29 追加] -
産業の分類をあらわすことばも、この「A B X」型になっていることに気がついた。

たとえば「農林水産業」という。現実には分類困難な業種もあるけれども、「農業」「林業」「水産業」がかさなりがないように分類できているというたてまえで、そのさすものの合併集合をさしていることばなのだと思う。たぶん「農林漁業」のほうがさきにあって、「漁業」を、対象範囲をもっと正確にあらわす「水産業」におきかえたのだと思う。(たとえばノリ養殖は水産業であることはたしかだが漁業とはいいがたい。しかし古い役所用語では漁業にふくまれていただろう。)

それから「鉱工業」がある。「鉱業」と「工業」は発音がおなじで、おなじ文脈に出てくることがあるからこまったことばだ。実際には、「工業」については、厳密におなじ意味ではないかもしれないが、「製造業」がつかわれることがおおい。しかし、「鉱製造業」とはいわない (もし言ったとしたら、「鉱」というものを製造する特殊な業種だと思われるだろう)。「鉱工業」はすてられそうもない。

そして「商業・サービス業」をまとめることがおおいのだけれど、このような列挙型の表現になり、「商サービス業」のようにはいわない。