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気候変動の話題が地球温暖化にしぼられるわけ

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも明示しません。】

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「地球温暖化」ということばは、文字どおり温度があがることをさすこともあるが、ここでは、人間活動による二酸化炭素などの温室効果気体の排出を原因とする気候の変化をさしてつかうことにする。

気候の「変動」と「変化」を区別することもあるが、ここでは区別しないことにする。

気候の変化は、もちろん、「地球温暖化」だけではない。しかし、世界の人間社会にとっての課題として、また、政策の課題としてとりあげられるとき、「気候変動」がここでいう「地球温暖化」にかぎった意味でつかわれていることがある。わたしはそういう表現に賛同しない。

しかし、気候の変動・変化のうちで「地球温暖化」だけが政策の課題にとりあげられるのは理由がある。それをわたしなりに説明してみよう。

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気候は変化する。人間の生活は気候の影響をうけるから、われわれは気候の変化の因果関係を知りたいし、できれば予測したい。しかし、気候の変化はさまざまなものごとの影響をうけていて、われわれがそのすべての因果関係を知ることや予測することは不可能だろう。

しかし、因果関係にせまる手がかりはある。それは物理法則、とくにエネルギー保存の法則だ。ある「系」(ひとまず、箱のようなものを考えてほしい) のエネルギーのたまりの量の時間変化は、その系のエネルギーの収支 (収入 ひく 支出) にひとしい。「系」として地球の大気・水圏のローカルな部分を考えることも可能ではあるが、そのエネルギー収支はややこしい問題になる。「系」として地球の大気・水圏全体を考えると、エネルギーの収入は太陽からくる放射(可視光や近赤外線)のうち地球が吸収する部分、支出は地球が宇宙空間に出す放射(熱赤外線)がほとんどだから、話が単純になる。そして、大気・水圏のエネルギーのたまりの大部分は内部エネルギーで、温度に比例する部分と、水の相変化による部分(同じ温度で、氷よりも液体の水、液体の水よりも水蒸気のほうが、内部エネルギーが大きい)からなるが、おおまかにまとめれば、エネルギーのたまりが大きいほど、平均温度が高いことになりそうだ。エネルギーの収支が収入過剰になれば (世界平均の意味で) 温暖化、支出過剰になれば寒冷化がおきると言ってよさそうだ。

気候の変化のうちで、大気・水圏全体のエネルギー収支を変えるような原因による気候の変化にかぎれば、因果関係の議論ができるだろう。

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大気・水圏のエネルギー収支を変える原因のうち、収入である太陽放射吸収を変える原因としては、太陽が出すエネルギーの流れの量の変化と、地球が太陽放射を吸収するわりあいの変化がある。(吸収率は 1 から反射率をひいたものである。反射率のほうを話題にすることが多い。) 支出である地球放射射出を変える原因としては、大気中で赤外線を吸収したり射出する物質の変化がある。

大気中で赤外線を吸収したり射出したりする物質の効果が「温室効果」とよばれる。赤外線を吸収する物質は射出する物質でもある。地表面温度が同じと仮定してくらべると、大気中に赤外線を吸収したり射出したりする物質が多いほど、宇宙空間に出ていく電磁波のエネルギーは少ない。実際には、地表面温度は、エネルギーの収入と支出が近似的につりあうようにきまるから、大気中に赤外線を吸収したり射出したりする物質が多いほど、地表面温度が高くなるのだ。

雪・氷はそれがない地面や海面よりも光をよく反射するので、地球が太陽放射を吸収するわりあいを変える。水蒸気は赤外線を吸収したり射出したりする。雲は、太陽放射を反射するし、赤外線を吸収したり射出したりもする。ただし、雪・氷は温度が低いときに生じやすい。水蒸気は (海があるもとでは) 温度が高いほど多くなる。雲は温度に応じて複雑に変化する。だから、水の相変化によるこのような現象は、大気・水圏のエネルギー収支の変化にとって、原因でもあれば結果でもあり、フィードバックを構成するものになる。

気候の変化にとって、外から強制としてはたらく要因としては、太陽が出すエネルギーの流れの変動、大気中の水蒸気以外の赤外線を吸収・射出する成分の変動、それに雲以外のエーロゾル (液体・固体の微粒子) の変動をとりあげればよいだろう。エーロゾルは、太陽放射の反射・吸収にもはたらくし、赤外線の吸収・射出にもはたらくが、どちらかというと太陽放射とのかかわりが重要だろう。

エーロゾルのうちで、ここで重要なのは、全地球規模にひろがるエーロゾルだ。そのようなものとしてまずあげられるのが、火山が噴火したときに出てくる火山ガスに含まれる二酸化イオウ (SO2) が大気中で酸素および水と反応してできる硫酸液滴だ。火山ガスが成層圏に達すると、硫酸液滴は全世界にひろがり、2年ほどの時間とどまることがある。人間活動によっても、いろいろなエーロゾルが出てくるが、そのうちで相対的に重要なのは、イオウ (S) 分をふくむ石炭や石油をもやすところから出てきた二酸化イオウからできた硫酸液滴らしい。大気中に硫酸液滴があると、太陽放射の反射がふえるので、大気・水圏のエネルギーの収入をへらすようにはたらく。

大気中で赤外線を吸収・射出する物質のうち、水蒸気のつぎに重要なのは二酸化炭素だ。そして、人間活動は、石炭や石油をもやすことによって、大気中に二酸化炭素を出してきた。その約半分は海と陸に行っているが、半分は大気中にとどまってきた。大気中の二酸化炭素濃度は、1958年以来、あきらかにふえつづけている。

ここまでの議論をまとめて、気候にとって外から強制としてはたらく要因のうち主要とおもわれるものを列挙すると、つぎのようになる。(変化の時間スケールは数十年から百年を想定している。) (赤外線を吸収・射出する物質は二酸化炭素だけではないが、二酸化炭素が主要であるとはいえる。)

  • 自然起源の要因
    • 太陽の変動
    • 火山起源のエーロゾル
  • 人間活動起源の要因
    • 二酸化炭素
    • 人間活動起源のエーロゾル

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気候にとって強制としてはたらく要因のうち、自然起源の要因は、人間が制御することはできない。しかも、太陽の変動や、火山の噴火は、まえもって予測することもむずかしい。不確実な変化がありうることを覚悟してそなえるしかない。

しかし、人間活動起源の要因は、制御できるかもしれない。気候の変化が人間社会にとってのぞましくない結果をもたらしそうならば、原因のほうを小さくすることによって、気候の変化を小さくとどめることができる可能性がある。

人間活動起源の要因のうち、定量的な意味で、二酸化炭素のほうがエーロゾルよりも大きくきくことがわかってきた。

しかも、燃焼起源の二酸化イオウの排出は、気候のためではなく大気汚染の健康被害をへらすために、規制されるようになった。したがって、人間活動起源の硫酸エーロゾルはへってきた。これはいくらか、これまでの気温の上昇に寄与しているだろう。だからといって、大気汚染をのばなしにしたほうがよかったとは言えないだろう。

そこで、人間社会にとっての課題は、二酸化炭素の排出をへらすことと、気候の温暖化に適応することとの重みづけになるのだ。