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「Lucky Day to Start a Trip」と「Goodbye, Pleiades」

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】
【雑談です。なにかを主張する文ではなく、専門知識の提供でもありません。】

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2020年7月のきょうは、人が移動するという意味での旅をはじめるのに適した日ではない。しかし、遠くのことを思うことも (広い意味の) 旅だとすれば、それをはじめる日であってもよいだろう。

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東海道・山陽新幹線の電車に片道5時間ぐらいの往復 乗ったときだったから、2009年の秋、福岡で学会があって東京から往復したときだったと思う。

新幹線の車内アナウンスのまえに流れるメロディーが、「いい日 旅立ち」だった。(その最初の部分と、いわば「さわり」の部分とが、それぞれつかわれていた。) この歌は当初から (JR になるまえの) 国鉄の宣伝でつかわれた歌だから、車内アナウンスでつかわれるのは (「鉄道唱歌」と同じくらい ) あたりまえなのだけれど、わたしの意識には、その歌詞が思いうかんで、消えなかった。

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そのころわたしは、自分はアジアのどこかの国で英語をつかって仕事をすることになるだろう、と思っていた。ただし、具体的なあてはなかった。

英語で仕事をするなかまといっしょに歌える歌があるといい、と思った。日本にいい歌があれば、それを紹介したいと思った。アジアの国には、日本の歌を日本語で歌ってしまう人もいた。しかし、ふだん日本語を話さない国の中で日本語の歌をおぼえてしまう人は、日本の歌を、いわば趣味の対象とする人だろう。そういう人にかぎらず、科学・技術の仕事ができる程度に英語をつかえる人がいっしょにうたうには、英語の歌詞がほしい。

自分が訳すならば、なるべく意味を変えないで訳したいと思った。ただし、英語では、同じ音節数だと日本語よりも情報量が多くなってしまうので、ことばをふやさないといけないかもしれない。そこで無理のないふやしかたをしたいと思った。

「いい日 旅立ち」は、わたしにとって、英語にしてみたい歌のひとつだった。しかし、商業音楽は、権利問題がやっかいだ。かってに翻訳してひろめるわけにはいかないだろう。谷村新司さんは中国でも仕事をしている(のをわたしは日本のテレビで見た)から、作者公認の英語や中国語の歌詞があるかもしれないと思った。しかし、わたしがウェブ検索できるかぎりでは、見あたらなかった。わたしの中国語やそのほかの言語での検索能力がとぼしいからかもしれないが。

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翻訳をしようと決意したわけではないのだが、新幹線のなかで、なんども「さわり」の部分がきこえてきたとき、わたしには、

There must be some place in the world
where someone is waiting for me....

ということばがうかんで、それ以来、そのふしは、そのことばとともにきこえるようになってしまった。「日本」を「the world」にしてしまったところだけは、忠実な翻訳ではなくて、当時のわたしの思いの表現なのだった。

つぎにそのふしをきいたとき、日本語の歌詞では「ああ」となっているところを、「I believe」とうたいあげるのがよいと思った。母音「イー」をひびかせなければならないという問題はあるけれど。

そのつぎの、歌の題になっていることばは、すぐに出てきた。

It's a lucky day to start a trip....

「いい日 旅立ち」という語句で言いたいことは「旅をはじめるのにいい日だ」にちがいないと思った。「いい」は「happy」などいろいろ考えられるけれど「lucky」がいちばんよくあうと思った。「旅」が journey でも travel でもなく trip なのは音節数と強弱のつごうだ。もし trip ということばで、麻薬との連想がはたらいたり、「失敗」のような意味にとられたりするとまずいのだけれど、すなおな意味にとってくれればいいと思う。

(仕事なかまの人が あるものごとにTRIPという頭文字略語をつけていた。わたしはそのTRIPの利用者でもあったから、わたしが研究集会の懇親会でこの歌をうたったら、そのTRIPの宣伝と思われるかもしれないが、それでもよいと思った。)

もとの曲に音のないところに「It's a」をはめこんでしまったので息つぎがくるしい、という問題はあるが、「me」をのばさなければいいだろう。

そのつづきは、「to look for beautiful sunset glow.」となった。すなおに訳すと音があまってしまうのだけれど、beautiful をはめてみたら、それ以外は考えられなくなった。

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往復の新幹線のなかで、パソコンに入れてあった英和辞典に検索をかけながら、英語の表現を考えた。1番をだいたい全部英語にしてみたのだが、完成したとはいえない。不満なところがのこっていた。いまは全部は思いだせず、メモも出てこないのだけれど、またやってみることはできる。

うたいだしはこうなる。韻をふむことはあきらめたが、強い音のところにだいじなことばがくるように、ということは意識している。

Facing the sky over the northern land,
where winter snowpacks are about to melt,

むずかしいところのうちには、生物の種類の名まえのあつかいがある。2番だが、「ススキ」では、まよった。生物学の話題だったら、miscanthus だ。生物の知識がとぼしいわたしがそれを知っていたのは、バイオマスエネルギー作物としてススキをつかう構想を、日本語と英語の両方で読んだことがあったからだった。しかし、これを歌のもんくにつかって、聞き手につうじるだろうか。辞書などを探索しているうちに、「pampas grass」ということばを見た。ススキそのものではないが形のにたところがあるイネ科の多年草の英語名だ。アルゼンチンのパンパといわれる草原ではありふれた草で、ほかのところでも栽培されているそうだ。しかし、日本の東北地方北部の風景とおもわれるものを、アルゼンチンの草原の風景におきかえてしまうのもよくないだろう。単なる grass にしておいたほうがよいだろうか。そうすると音があまるが、どういう形容詞をはめようか、などと考えたのだった。

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英語にしてみたい歌には「昴 [すばる]」もあった。(アジアの同業者が研究集会の懇親会で日本語で歌ったのを聞いたのは、たしか、これだった。) おぼえていない部分の歌詞を確認しようとして本を見て、これも同じ谷村新司さんの作品だと気づいたのだった。

最後はもちろん、「Goodbye, Pleiades.」だ。Fairwell ではないと思う。

そのまえは、「I will go forward.」としてみた。will か shall かはまよった。forward は、当然あるべきことばだと思った。

「青白き頬」は、星の光をうけ反射しているという解釈にして

with my cheeks still shining in blue and white,

としてみた。

「...星たちよ」のところは、「ああ」のところで「Oh, stars!」とよびかけてしまえばよいのだと気づいた。それから辞書をひいてみつけた smithereens ということばでおわるような文をくみたててみた。

こうして、1番をひととおり英語にしてみたのだけれど、これも、不満がのこって、完成とはいえなかったし、記録をきちんとのこしておらず、思いだせないところもある。