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ロックダウン (lockdown)、外出禁止、都市封鎖

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたか、かならずしも しめしません。】

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2020年4月7日に、東京都をふくむ7つの都道府県について宣言された「緊急事態」は、「ロックダウン」なのか、そうでないのか、という議論がある。

わたしの理解では、「ロックダウン」(英語 lockdown)ということばの意味は厳密にきまっていないので、ここでおこることは、そうであるともないともいえる。広い意味のロックダウンではあるだろう。

どんな行動が抑制される事態なのかの実質について共通理解があればよい。それをロックダウンとよぶかどうかについての意見のちがいは たなあげにしよう。

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ロックダウンということばは、わたしは2020年3月下旬に、ヨーロッパやアメリカの都市でおきていることの説明として知った。英語では lockdown で、lock (錠) でありrock (岩)ではない、ということだった。

わたしが若いころにきいたことがあることばではなかった。英語のなかで新しいことばであるかどうか、Google N-gramでしらべてみると、実際、2000年ごろ以後に頻度がふえていることばなのだ。
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意味については、ひとまず、Wiktionary 日本語版の「lockdown」の項目から引用しておく。(「(米)」はアメリカ英語であることをしめす記号である。) (この項目は2020-03-26につくられたばかりだが、英語版の項目は2006年からある。)

  1. 人をある空間から出さないこと。
    1. 素行の悪い受刑者を房に閉じ込めること。
    2. 不審者が学校に侵入したときに、児童・生徒・学生を教室の外に出さないこと。
    3. 治安維持や感染症の感染拡大を防止するために、住民を家や町の外に出さないこと。
  2. (米) 筏(いかだ)で使われる丸太を互いに縛り付ける仕組み。

フランス語で対応することばは confinement だ。

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2020年3月にヨーロッパやアメリカの都市でおきていることの日本語での報道では「ロックダウン」という表現よりも「外出禁止令が出ている」という表現のほうをよく見かけた。そして両者はだいたい同じことをさしているようだった。

「外出禁止」というと、家の外に出ることが厳密に禁止されている事態、もし外にいることが見つかると逮捕される、あるいは射殺されるかもしれない、というような事態を想像してしまう。それは、テロリストと警察とか、ゲリラと政府軍とかの、武力衝突が予想されるような情勢でおこる。

感染症でも、野外に毒性のものすごくつよい病原体がいるような状況で、それにさらされるよりは食料不足のほうがまし、と判断されるならば、厳密な外出禁止がありうるかもしれない。

いまおきているのはそういう事態ではない。反面、月単位の時間つづくかもしれない事態だ。都市の家にはふつう籠城できるような食料備蓄はないから、食料を補給しなければならない。ロックダウンあるいは外出禁止のあいだも、食料を供給する経済活動はつづいている。個人がもよりの小売店に食料などを買いにいくことはみとめられているだろう。ただし、その時間や行動範囲などの制限があるかもしれない。医療と、食料をはじめとする生活物資の運送と、水道・ごみ回収をはじめとする社会インフラストラクチャー維持のために働く人の動きもある。

国によっては、「外出禁止令」が出ている状況での(許されるときめられた種類以外の)外出は違法とされ処罰される可能性があるような法律がある。日本にはそういう法律はないから、できることは「外出禁止」ではなくて「外出自粛要請」までだ、という話もある。「自粛」を「要請」するという表現が変なことは別として、法的には「外出をなるべくしないことが要請されている」という事態になるのだろう。しかし、外国で「ロックダウン」がおこなわれているところでも、法律にもとづいて外出が禁止されているところばかりでなく、要請でやっているところもあるそうだ。要請にしたがうことがその地の社会規範になっていれば、通俗的な意味で「外出禁止」と表現してもよいこともあると思う。(しかし、それでは実質的な禁止にならず、しかし実質的禁止が必要だ、国会か地方議会で外出を禁止する法律か条例をつくる必要がある、ということになるかもしれない。)

ロックダウンで、公権力が強制的に市民の行動の自由を制限するのならば、補償がともなわなければいけない、という意見を聞く。ひとまずそれをみとめるとして、補償をともなわない外出自粛要請は「悪いロックダウンである」というべきであって、「ロックダウンではない」とはいえないと思う。

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ロックダウンとまぎらわしいことばとして、ロックアウト(lockout)がある。これは「立ち入り禁止」にあたるだろう。

日本で外来語としてつかわれる「ロックアウト」は、労働争議に関する用語だ。「ストライキ」が労働者が団結しておこなう実力行使であるのに対して、「ロックアウト」は、雇用主が労働者を職場に入れないという実力行使だ。

大学が学生を立ち入り禁止にするのは、その目的をたなあげして形式でみるならば、ロックアウトといってもよいだろう。そして、その大学がある自治体のロックダウンがおこなわれれば、そのなかでの大学の行動として、この意味でのロックアウトがおこなわれるかもしれない (かならずおこるというわけではない)。

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2020年1月ごろに中国の武漢でおこっていたことについての日本での報道でよくみられたことばは「都市封鎖」だった。

これは、都市の内と外との間の人の出入りを禁止する、ということだ。出入りする人がウィルスをはこぶことをふせぐことが目的だった。

(上の2節にWiktionaryから引用したlockdownの意味説明文の1の3で「町」としたばあいが「都市封鎖」で、「家」としたばあいが「外出禁止」ということになる。)

戦争のなかでの都市封鎖ならば物資の出入りも禁止するかもしれないが、このばあいは、都市内に残った人が生きつづけるための食料などは供給される。外から物資をもってきた人は、都市の出入り口まで来て、物資を中の人にひきわたして帰ることになる。

中国の都市は、伝統的に城壁でかこまれた形で発達してきた。いまは城壁はないが、都市の境界で人の出入りをとりしまることはしやすい構造になっているのかもしれない。日本の都市は (かつての平安京は城壁でかこまれていたらしいが) 都市の境界は明確でなく、都市封鎖をしにくい構造になっている。しかし、長距離交通はだいたい鉄道と高速道路と飛行機だから、それを制限すれば、都市封鎖に近いことはできるかもしれない。

東京などの今回の事態では、都市間の交通を強制的にとめることは考えられていない。しかし、それをなるべく利用しないことが要請されるようになった。