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二酸化炭素を出さずに海をわたる手段をもとめることの意味

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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地球温暖化の対策にとりくむよう世界にうったえる、スウェーデンの高校生 Greta Thunberg (グレタ トゥンベリ) さんの活動が話題になった。Gretaさんの行動をけなす発言のおおくは、地球温暖化問題を重視しない観点にもとづくもののようだ。しかし、地球温暖化は重要だが、未成年者に政治活動をさせるべきではない、という意見もみられる。他方、地球温暖化は今後なん十年もさきに重大になる問題だから、若い世代におおきな発言権をもたせるべきだ、という意見もみられる。わたしはGretaさんの発言をくわしくおいかけていないが、おおまかに知る範囲では、IPCC報告書をはじめとする科学者たちの共通認識を重視せよということと、二酸化炭素の排出をへらす政策をとれということを、総論的に主張しているようだ。それならば、支持できると思う。しかし(Gretaさんにかぎらずにいえば)、若者代表あるいはしろうと代表とみなされがちな人が、特定のオピニオンリーダーの主張を増幅して、政策を変なほうにひっぱってしまう危険はあり、そうならないように注意する必要はあると思っている。

- 2 - 【この節が、この記事でわたしがいいたいことの主要部分である。】
Gretaさんは、アメリカ合衆国のニューヨークで開かれた国連の会議に出席するために、大西洋をわたった。それから、気候変動枠組み条約締約国会議(COP)が開かれるチリまで陸路で移動する予定だったらしいが、チリが政治的紛争で会議を主催できない状況になったので、COPの場所がスペインに変更になり、(当初の帰国予定よりもはやく) また大西洋をわたる必要が生じている。

Gretaさんは、二酸化炭素を排出しない移動手段を求めた。行きは、モナコの王族がかかわっているヨットクラブが、帆走と太陽光発電を併用するヨットで運んでくれた。帰りは、(スペイン政府が手段を考えてくれるという話もあったが) オーストラリアの個人のヨットにのせてもらうことになったそうだ[この部分、2019-11-13改訂]。

この行動についての批判がいくつかある。そもそも、専門家でもない個人が大西洋をわたること自体が資源のむだではないかというもの。それから、もし移動することが前提ならば、一個人が飛行機で移動することによる二酸化炭素排出をへらしたところで人類全体の排出にとってはわずかすぎて意味がないというもの。また、飛行機の定期便ならば一定の人数の乗務員が一定の人数の旅客をさばけるが、船ではこのごろ定期便がなくなっており、ひとりのためでも特別に船を出しておおぜいの人に同行してもらう必要があり、(本人の負担はともかく社会全体としての)費用はかさむし、へたをすると二酸化炭素排出量も飛行機のばあいより大きくなってしまうかもしれない、というもの。

このような批判のうちには、二酸化炭素排出削減の必要性を感じていない人が必要性を主張する人の内部矛盾をつくためのものが多かったと思うが、排出削減はするべきだとみとめたうえでのまじめな批判もあったかもしれない。わたしも、ふつうの個人の話ならば、行くのをやめて通信ネットでの参加にするか、がまんして飛行機をつかうべきだ、というかもしれない。しかし、(有名になるべきだったかどうかは別として、すでに) 有名人であり、しかし自まえで船を用意するだけの政治力や経済力をもたないことがあきらかな Greta さんのばあいならば、ここで二酸化炭素を排出しない移動手段をもとめる声をあげることが、世界に変化をもたらしうる運動の適切なかたちなのだと思う。

飛行機については、化石燃料をつかわない技術の基礎研究はされているものの、将来も実用になるかどうか確実ではない。船ならば、帆走と、太陽光・風力・水力などで充電して電力でうごかすことで、二酸化炭素を排出しないことは技術的には可能だ。二酸化炭素排出が規制または課税され、蓄電池や燃料電池の技術が進んで単価が安くなれば、それが実用になるだろう。また、現状では船は重油などの化石燃料をつかっているが、それでも、まとまった人数をはこべば、ひとりあたりの二酸化炭素排出を飛行機よりもすくなくできる。いま船がおおぜいの人の移動手段になっていないのは、その手段をもとめる旅客がすくないからだ。Gretaさんの発言のようなニュースがきっかけになって、移動はしたいが二酸化炭素排出をしたくない旅客が(日数がかかっても)船をえらぼうという動機と、交通手段を提供する会社が船の定期便を運用しようという動機が、たかまるかもしれない (そうなるとよいと、わたしは思っている)。

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【余談。わたしは人物について話題にするつもりはあまりないのだが、たまたま情報をおいかけてしまったので知りえたことを書きとめておく。ただし本気で調査したわけではないので、資料としての価値はないと思ってほしい。】

Gretaさんは、地球温暖化についての認識の発達の歴史ではかかせない、Svante Arrhenius (1859 - 1927) の親戚なのだそうだ。Svante Arrhenius の母親の旧姓は Thunberg だ。Gretaさんのお父さんもその親族で、Svante Arrhenius にちなんで Svante と名づけられたそうだ。ただし(1969年の命名ならば当然ながら)地球温暖化を意識したものではないそうだ。

Thunberg といえば、日本では「ツンベルグ」として知られているスウェーデン人の植物学者 Carl Peter Thunberg (1743 - 1828)が出てくる。生物分類体系をつくったリンネに学び、生物の学名の命名者としては「Thunb.」と書かれる。オランダ商館の医師として1775-1776年に日本に来て植物を調査し、日本の蘭学に影響をあたえた。リンネのあとのウプサラ大学教授になった。Gretaさんがこの人の親戚であるという話はない (もしそうだったらおもしろいと話題にする人はいるが)。