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地球温暖化と台風との関係

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台風19号が災害をもたらした。被災者のほかにも影響をうけた人は多い。(わたしのばあいは、授業をしている大学のもよりの鉄道がとまってしまったので、授業日程がかわる、という影響があった。)

「台風を機会に、気候についての関心がたかまった」という発言をみかけた。「気候」がその一般的な意味ならば、台風がくることも日本の気候の特徴のひとつだから、関連づけるのはもっともだと思う。「気候変動について」だとしても、「変動」もその一般的な意味ならば、日本にくる台風が多かったり少なかったりすることも気候の変動だから(去年とことしの比較などは、気候が変わるというよりも、ひとつの気候のうちにふくまれる年々変動というべきだろうが)、もっともだと思う。

しかし、「気候変動」ということばは、英語の climate change に対応するものとしてつかわれることがあり、ちかごろそれは、人間活動による温室効果気体排出による気候の変化をさすことが多くなってきた。日本語圏では、まだ「地球温暖化」という表現のほうが通じやすいと思う。ここでは、世界平均気温があがることだけをさしているわけではない、という注意つきで、「地球温暖化」のほうをつかうことにする。台風と地球温暖化は、無関係ではないが、直結しているわけでもない。【定常状態の平均場とそれからの ずれ (摂動) という考えかたをすると、台風、地球温暖化のそれぞれが近似的には独立な ずれ だと考えることができ、ずれどうしの相互作用を考えにいれるとき はじめて両者の関係が見えてくるのだ。】 あらっぽく同一視しないように注意することも必要だと思った。

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「台風」という用語は、熱帯低気圧とよばれる現象のうち、北西太平洋で発生し、強さがある基準以上のものをさす。ここでは地域を限定せずに強い熱帯低気圧を「台風」とよぶことにする。人間が化石燃料をつかうようになるまえから、台風は発生し、(たとえば)日本に災害をもたらしてきた。

地球温暖化のしくみは、大気・海洋などからなる気候システムのエネルギー収支にもとづいている。そのうち基本となるのは、光や赤外線の吸収・射出をふくむ「放射伝達」だ。現実におこる温度変化の値を知るには、放射伝達にくわえて、大気の運動によってエネルギーがはこばれること(広い意味の「対流」)も重要だ。その大気の運動のかたちのうちには台風もふくまれるのだが、地球温暖化のしくみにとっては、大気の運動の一部が台風というかたちをとることは重要ではない。

地球温暖化がすすむと、あとでのべるように、台風の強さなどの定量的変化が予想されるけれども、台風ができるしくみが根本的にかわるわけではない。地球温暖化があろうとなかろうと、(たとえば)日本にすむ人は台風にそなえる必要がある。

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台風は、海面水温の高い海上で発生する。地球温暖化がすすめば海面水温があがるから、すなおに考えると、台風が発生する数がふえることになりそうだ。

地球温暖化の予測型シミュレーションの結果はそれほど単純ではない。弱いものをふくめた熱帯低気圧の発生数は、むしろ減るという結果になっている。温度の高い海面では、積雲(上下にのびる雲)は活発になるのだが、それがかならずしも熱帯低気圧というかたちをとらないのだ。しかし、強い台風にかぎると、温暖化にともなってますます強くなるという結果になることが多い。理論的には、台風は熱機関のようなもので、その高温側である海面水温があがって、低温側である大気が宇宙空間に赤外線を出すところの気温は変わらないか下がる(二酸化炭素の増加による気候変化のばあいは成層圏の気温は下がる)ので、温度差が大きくなり、取り出せる仕事が大きくなる、という理屈がある。

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世界全体ではなく日本に注目すると、地球温暖化にともなって、強い台風がふえる、とみてよいと思う。台風の発生位置や経路は、地球温暖化にともなってすこしはかわるだろうが、根本的にはかわらないと予想される。日本付近の夏・秋の海面水温は、台風のエネルギー源となる水蒸気を供給することによって台風を維持できる温度の限界に近い。海面水温がすこしあがれば、日本に達する台風が強いままであることが多くなるだろう。

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台風は、雨、風、高潮によって、災害をもたらす。地球温暖化がなくても、洪水や強風による被害をへらすための対策は必要なのだが、地球温暖化によって強い台風がくることがふえるとすれば、その対策をこれまでよりも強めることが必要になるだろう。この強化の部分を、気候変動政策のたちばからは「適応策」の一部としてとらえることができる。対策のうちには、頑丈な構造物をつくることもふくまれるが、資源の制約も考えると、むしろ、洪水がおきても被害がちいさくなるような、地形に適応した土地利用をすすめる政策が重要になってくる(と、わたしは思う)。

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「地球温暖化にともなって強い台風がふえ、その被害がふえる、あるいは、その対策にかかる費用がふえる」という見とおしは、「地球温暖化をちいさくくいとめたい、そのために二酸化炭素の排出をへらそう」という、気候変動政策の用語でいう「緩和策」の必要性を強めることにもなる。

しかし、地球温暖化と台風との関連には不たしかさが大きい。「台風の被害をふやさないために化石燃料消費をへらそう」という政策提言をしても多くの人の支持をあつめるのはむずかしいと思う。地球温暖化「緩和策」の必要性は、まず、二酸化炭素がふえれば(定量的不たしかさはあるが)確実におこると予測されている温度上昇と海面上昇(と半乾燥地域の乾燥化)で根拠づけておいて、台風はそれにつけくわえられる材料としてあつかうべきだと思う。(地球温暖化の日本社会への影響は、日本の気候の変化の影響よりもむしろ、貿易や人の移動でむすびついた世界各地の気候の変化の影響のほうが大きいかもしれない、ということも考えにいれてほしい。)