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モンスーン、monsoon、季節風 (5) 季節平均の海面気圧とOLRの分布から

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「モンスーン、monsoon、季節風[(4) 2018-06-20]の話題のつづき。

わたしは、大学の地球科学に関する科目で、世界の気候について講義するとき、東西方向は一様とみなした南北・鉛直の構造で話をすすめたあと、地図で地理的分布を見せながら海陸分布の影響について話す。[教材ページ「季節平均の大気の状態」]参照(この題名はつけなおすかもしれない)。

そこでまず重点をおくのは、中学・高校の教科書用地図帳にものっている、1月・7月(またはDJF・JJA [2012-11-10の記事]参照)の平均、しかも累年平均の海面更正気圧([2012-04-26の記事]参照)の分布図だ。

まず、緯度帯ごとの特徴に注意する。このところわたしは準備が悪くて見せていないが(およその形を手がきしておぎなうこともあるが)、海面気圧の緯度ごとの平均値の南北分布のグラフをあわせて見たほうがよいと思う。南北半球で数値はだいぶちがうのだが(とくに温帯低気圧帯は南半球のほうが気圧が低い)、両半球とも、赤道付近の低気圧帯(ハドレー循環の上昇域)、亜熱帯高気圧帯(ハドレー循環の下降域)、温帯(温帯低気圧の活動域)の高緯度側あるいは亜寒帯の低気圧帯が認識できる。温帯で気圧が低いのが、温帯低気圧が動いているところのうちでは高緯度側の端に近いことは、低気圧はたいてい発達しながら高緯度側に動き、発達しきってもしばらくは中心気圧が低いままだから、と説明できると思う。

ところが、地図上の分布は、東西一様ではない。「海と陸とのちがい」という観点で、ユーラシアにも北アメリカにも共通の特徴に注目することもできると思う。しかし、わたしが気圧分布図を見ると、ユーラシアが特別なように感じられる。

北半球の冬(1月またはDJF)には、亜寒帯は低気圧帯であるにもかかわらず、ユーラシア亜寒帯には、高気圧 (シベリア高気圧)がある。

あわせて地上の風をみると、シベリア高気圧からふきだす日本付近の北西季節風がある。(その緯度帯の風は基本的に偏西風だから、北風成分だけが特徴となる。東南アジアの北東季節風もその続きなのだが、緯度帯に共通な北東貿易風があるもとに追加されるものだから、風向だけでは注目される特徴にならない。)

北半球の夏(7月またはJJA)には、亜熱帯は高気圧帯であるにもかかわらず、インド付近には低圧部がある。(これは、気象学の文献では、monsoon trough (モンスーン トラフ)とよばれている。)

地上の風をみると、北半球熱帯の基本は北東貿易風であるにもかかわらず、インド洋には、南西季節風(風としてのモンスーン)がふいている。

つぎに、熱帯にかぎって、夏と冬それぞれ平均の雲または雨の分布をとりあげる。衛星観測によるOLR (outgoing longwave radiation)の分布図を見せることが多い。これは本来、大気上端から出ていく地球放射のエネルギーフラックス密度(の推定値)なのだが、熱帯に関するかぎり、(熱帯であるにもかかわらず)この数値が小さいところは、背の高い(雲頂が対流圏の上端付近に達する)雲が出る頻度が高いところなのだ。

北半球の夏には、気圧でみたモンスーントラフに近いところに、背の高い雲が多いことがわかる。そこで、熱帯モンスーンの確立後の熱源は、高温の陸面ではなく、積雲対流である、という話題につなげる。

南半球の夏(北半球の冬)には、背の高い雲の出やすいところは、赤道よりも南半球側にあり、おもに(少なくとも面積でみると)海上よりも陸上の、インドネシアからオーストラリア北部、南アメリカアマゾン川流域とその付近、アフリカのコンゴ川流域とその付近にひろがっている。

このうちインドネシアからオーストラリア北部のものは、気象学的な解説をみれば、風向の季節変化(ほぼ逆転)もあり、雨季の急激な始まりもあって、熱帯モンスーンの構造をもつことがわかるのだが、月平均の気圧場ではその特徴はつかめないし、風の場でも一見ですぐわかるようになっていない。

また、アマゾンとコンゴのものは、風向の逆転はないし、雨は、南半球の夏のほうが相対的に多い傾向はあるものの、冬もまったくふらないわけではないから、熱帯モンスーン地帯とはいいがたい。むしろ、東西平均しても見られるような大気大循環の南北シフトが、海と陸との熱的特性のちがいによって少し変調されたもの、というふうにとらえるのがよいと思う。季節風やモンスーンからははずれるが、季節変化と海陸分布がからんだ気候の特徴にはちがいない。