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熱帯では雨季でも晴れるところが多い。ただしくもりが続くところもある。

【この記事は まだ 書きかえることがあります。 どこをいつ書きかえたか、必ずしも示しません。】

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この記事は、気候・気象の専門家としての知識提供という趣旨がある。しかし残念ながらその目的での情報の質がじゅうぶんでない。内容のうちいちばん言いたい部分の根拠として、自分で客観性のあるデータ処理をしてみせることも、教科書や論文などの参考文献を示すことも、できていないのだ。自分の体験をきっかけとして(それだけでは例数が少ないので主張できないのはわかっているが)、それが多くの同僚研究者の話とつじつまがあっていることはおさえているつもりだ。そしてそれは世の人びとに役だつかもしれない知見だと思う。自分で研究するかしっかりした文献を見つけるまで書かないという態度をとると、いつまでも書けないかもしれない。これからも迷うと思うが、きょうは思いきって書いてみることにする。

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この件を今回思い出したきっかけは、太陽光発電の研究者である櫻井啓一郎さんがTwitterで(インドの同業者から聞いた話として)、インドでは太陽光発電がちかごろ急激にふえて主要な電力源となっている、そして、モンスーンのせいで太陽光がじゅうぶんでない地域はあるけれども、他の地域から補給することでまかなえている、という話をしていたことだった。

櫻井さんの伝聞の表現のままだとインドのうちでモンスーンの影響を受ける地域が小さい部分のように思われそうだったので (もとの発言者がそういうつもりでなかったことはほぼ確かだが)、次のように補足しておきたいと思った。

インドのおそらく全部の地域が、モンスーンの影響を受けている。(「モンスーン」ということばの意味は複雑だが、別記事[(1) 2014-07-07] [(2) 2017-10-31]参照)。インドの大部分の地域では「夏」の「モンスーン」の季節が雨季だ。しかし、雨季でも、一日じゅうくもっているのは、かぎられた地域だけなのだ。

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熱帯では、雨は、温帯よりも短い時間に集中してふる傾向がある。

わたしは、2004年に作成した教材ウェブページ[熱帯と温帯の雨のふりかたの特徴]で、その特徴を例示するグラフをつくってみた。

各地点の1時間降水量を階級わけして、年降水量のうちでそれぞれの階級がしめる割合を示したのだ。教材ページの図には、日本の北の端、中央、南の端と、タイのバンコクをあわせて4地点について示した[注]。このうちでは、南の地点ほど平均気温が高い。そして、南の地点ほど、降水量全体に大きく寄与する階級が1時間降水量の大きいほうに移っている。南北のちがいの要因には気温のほかに地球の自転のききかた(コリオリ パラメータ)のちがいがあることに注意が必要だが、温度が高いほど降水は集中する傾向があると言ってもよいと思う。

  • [注] これは、GAME (GEWEX Asian Monsoon Experiment)という国際共同研究プロジェクトに、タイ気象庁から、バンコクでの1時間ごとの降水量のデータが提供されたので、できたことだった。

熱帯のうち多くのところでは、温帯よりも全般に降水量が多いものの、短い時間に雨が集中するので、雨がふっている時間はむしろ短いのだ。

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熱帯のうちで、多くのところでは、雨は、雨季でも、一日のうちで決まった時間帯に集中してふる傾向がある。集中する時間帯は、地域ごとにさまざまではあるが、海岸線から 100 km 以内くらいのところでは、陸側で昼から夕方、海側で夜から朝に雨が多いことが多い。これは海陸風のしくみで説明できる。太陽放射が届く昼間に、陸面が海面より温度が高くなるので、陸上に上昇流、海上に下降流ができ、大気下層で海から陸へ「海風」がふく。(その上のどこかの高さに陸から海への反流があって循環が閉じる。) すると、島の上で海風どうしが収束したり、海風が山の斜面で押し上げられたりして、陸上で雲ができやすくなり雨がふりやすくなるのだ。(ただし、熱帯の各地域の降水量の日変化について研究すると、これ以外の要因が重要な場合もある。)

わたしは2007年2月に初めてインドネシアに行った。雨季のうちでもとくに激しい雨にぶつかってしまった。ただし、海岸にあるジャカルタ市内では激しい雨がふるのは明け方だった。50 kmほど南の内陸にあるボゴールでは夕方だった。

このときの大雨をもたらしたしくみについては、伍 培明(Wu Peiming)さんが中心となって研究した(論文 Wuほか 2007)。2010年に、DIAS (データ統合・解析システム)プロジェクトの一環としてつくられたサイトFIntAnの中に、その要点を解説するウェブページをつくったのだが、残念ながらプロジェクトが終わったあとサイトが維持されなくなった。しかしInternet Archiveにコピーが残っている。[明確な日周期をもつ東南アジアの大雨のメカニズムに迫る]

文献

  • Peiming Wu, Masayuki Hara, Hironori Fudeyasu, Manabu D. Yamanaka, Jun Matsumoto, Fadli Syamsudin, Reni Sulistyowati, Yusuf S. Djajadihardja, 2007: The impact of trans-equatorial monsoon flow on the formation of repeated torrential rains over Java Island. SOLA, 3: 93-96. http://doi.org/10.2151/sola.2007-024

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雨が降るか降らないかと、くもるか晴れるかは、同じことではないが、関連はある。熱帯では雨季でも1日のうちの時間帯によっては晴れていることが多いのだ。

2007年2月、わたしはスマトラ島の西側の赤道直下にある西スマトラ州で観測を実施している同僚に現場を見学させてもらった。このときジャカルタとちがってスマトラでは大雨ではなかった。

ある日の午前にはわたしたちは標高約1 kmのブキティンギ(Bukittinggi、固有名詞だが語源にしたがえばいわば「高岡」)付近にいた。晴れていた。午後には海岸のパダン(Padang、いわば「平野」)付近にいた。その場は晴れていた。ただしブキティンギ付近の高原を見るとそこには雲が立っていた。わたしの経験は特定の日の特定の場所でのことにすぎないが、観測を続けている人の話によれば、海岸と高原とで晴れ・くもりが逆になることは、この地域ではふつうのことらしい。

たまたま、インドネシアに行く前に、(その件とは関係のない)大学の教員をしている知り合いから、そこの学生による研究の話を聞いていた。太陽光利用について、電力を広域で融通することによって電力が得られる確実性を高めるという構想がある。それが現実的か、評価を試みた。対象地域は日本で、アメダスの日照時間の観測データを使った。結果を部分的に見せてもらったところでは、晴れるかくもるかは(日本の場合は)広域で同時に起きやすく、確実性を高めるには 200 km 以上の距離にわたる融通をする必要がありそうだった。

ところが、ブキティンギから海岸までの水平距離は 40 km ほどだ(パダンまでだと斜めになるので 70 km ぐらいになる)。この距離ならば融通はしやすいだろうと思った。この地域は山が海にせまっているという特殊性があるかもしれないが、おそらく熱帯の多くの地域で、雲の出かたの日変化特性を活用した太陽光利用が有用だと思う。

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熱帯では、雲の日変化がはっきりしていて、雨季でも晴れる時間帯がある地域のほうが、たぶん多数をしめると思う。しかし、すべてではない。モンスーンで降水のある地域のうちには、日本の冬の季節風時の日本海岸のように、昼夜を問わず雲が出るところもある。

わたしの知っているかぎりで、雲が持続しやすいところは、「冬のモンスーン」で降水がある地域に多い。しかしそのすべてではない。

たとえば、ベトナムの北部や中部(のうちダナンよりも北)では、1月・2月には低い雲が持続しやすく日照時間が短い。ただし降水は霧雨になりやすく降水量は多くない。他方、同じ地域の冬のモンスーン季のうちでも11月・12月は、積雲が出てときどき大雨がある反面、時間帯によっては晴れているのだと思う。(日照時間のデータを見れば確認できると思うが、まだしていなかった。)

「夏のモンスーン」でも、インドやミャンマーなどの、海からモンスーンの湿った風が吹きつける西海岸ぞいに、昼夜を問わず雲が出る地域があると、聞いた(あるいは読んだ)ような記憶がある。たぶん、櫻井さんの話に出てきた太陽光が不足する地域はそういうところなのだと思う。しかし残念ながら、わたしの記憶は漠然としたもので、文献にたどりつくことができず、どの地域のことかも、どのくらいの時空間的広がりで起こっている現象なのかも、述べることができない。

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地上に達する日射量を衛星観測から推定する技術はちかごろだいぶ進み、静止気象衛星 ひまわり の観測による推定値のデータセットもつくられているので、その視野内の地域ごとの太陽光資源を評価する研究はすぐできそうだ。わたしがすぐに作業する予定はないが、熱帯についてやってみたい人がいれば、できる範囲で協力したい。