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(勧めたくない用語) 層厚(thickness)、文字表現はあるが音声表現があやしい語

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

文字表現はあるが音声表現があやしい語について[ひとつ前の記事]で述べた。そういうものは、気象の専門用語にもいくつもあると思うが、まずひとつ思いあたった例について述べる。

気象学会の研究発表を聞いていたら「そうあつ」ということばが出てきた。気圧に関連のある話だったから「-あつ」は「-圧」だと思ったのだが、「そう」が何かわからなかった。スクリーンに図などを示しながらのプレゼンテーションだったので、どんな数量を論じているのかはわかった。2つの等圧面の高度の差、つまり、等圧面にはさまれた層の厚さなのだ。それを「層厚」と書くことがある。

「層厚」を漢字熟語としてすなおに読めば「そうこう」だろう。しかし「そうこう」と聞いたら、意味がわからないか、「走向」と思ってしまうだろう。「走向」は気象学では(地質学の場合とはちがって)専門用語としての意味は与えられていないが、気象の話題でも何かの線状構造がのびている方向をさして使われることのある語だ。

この「層厚」も、ひとつ前の記事で述べた「今夕」と同じように、まず文字表現があって、音声表現があとで考えられたが必ずしも定まっていない語なのだろう。

英語では thickness という。自分の経験をふりかえってみると、大学院のセミナーや学術的内容の日常会話では、日本語で話していても、英語の thickness をそのまま使っていた。

ただし文字にすると「シックネス」でも「スィックネス」でも意味がうかびにくいし sickness だと思ってしまうかもしれない。日本語の書きことばで、英語の単語をまじえることを許されない編集態度の媒体にのせるときには、日本語らしいと感じられる文字表現がほしくなる。

英語の thickness も、文脈によって「等圧面ではさまれた層の」という意味が補われているのだから、日本語でも同様に「厚さ」か「厚み」にそのような意味をもたせてしまえばよかったのかもしれない。しかし「厚さ」には、そう書かれたものを読んで音声にしたとき「暑さ・熱さ」とまぎらわしいという難点がある。「-み」のほうは定量的な数量と結びつきにくいという難点がある。

わたし自身は、thickness を使うことは少なく、使うとしたら数値データ処理の中間段階の説明に出てくるだけなので、長めの「等圧面ではさまれた層の厚さ」または「...hPa面と...hPa面の高度の差」という表現をしようと思っている。

どうしてもこの概念を短いことばで表現したい人に、どういう表現を勧めたらよいかは、よくわからない。