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東アジア共通語として漢文を使う可能性があるか

[1月2日の記事]では、アジア共通語として英語をもとにした半人工言語を使うことを考えた。

共通語の候補としてはもう一つの考えがある。漢文である。

ただしこれはアジアのうちでも漢字文明圏にしか通用しない。東アジアと東南アジアを分けるとすれば、東アジア全体は含められるけれども、東南アジアではベトナムだけが含められる。(ベトナムでは現在実用には漢字が使われていないけれども、学術用語など多くの単語が漢語から構成されているし、漢字の知識は自国の歴史資料を読むにも有用だ。しかしその他の東南アジア諸国では、少数民族である華人だけがなじみがある手段を奨励するのはうまくないだろう。) 南アジア・西アジア・(中国国境外の)中央アジアではほとんどの人になじみのない言語だろう。

また、これを声に出す言語として採用すると、現在の漢字利用者のうちの相対多数が学んでいる近代北京音を標準にするしかないと思うが、それでは日本人にとって魅力が乏しい。話しことばのない書きことばだけの言語でコミュニケーションが成り立つかどうか。20世紀末までならば無理だと言ったところだろうが、キーボード入力で文字が表示される通信機器がこれだけ普及すると可能かもしれないという気がしてきた。

文法や語彙の標準も、現在の利用者数で決めれば現代北京語に近いものになってしまうかもしれないが、日本、朝鮮、ベトナムの言語文化への影響がいちばん強かったのは唐代だと思われるので、唐代の文章に模範を求めたいと思う。読みを重視しないのだから当然、韻文ではなく散文が基本となる。

すでに、Wikipediaには、「文言」の「維基大典」zh-classical.wikipedia.org が存在する。現代中国語(「中文」)の「維基百科」zh.wikipedia.org に比べるとささやかなものにすぎないが。これがどの時代の文章を模範としているか確認していないが、きょう(2013-01-20)現在の表紙には杜牧という唐の詩人に関する記事が出ている。

漢字の文字コードや表示をどうするかという問題もある。今のインターネットではUnicodeが事実上の標準だ。細かい指定をしなければ、中国語・韓国語・日本語の多くの文字は同一視されてしまう。今の場合それでよいと思うが、逆に区別される文字のほうでむずかしいことが起きる。日本語の書き手が日本語の漢字コードで入力して、中国語の読み手が日本語フォントのない環境で読むと、大部分は正しい漢文になっているがところどころ読めない字が混ざることになるだろう。漢文専用の入力方式を整備すればそのような事態は減らせるが、それに慣れる必要がある。

(日本語対応のFirefoxブラウザで見る限りでは)「文言」のWikipediaでは文字の表示は繁体字に統一されているようだ。他方、「中文」のWikipediaは、書かれた文字がそれぞれ簡体字繁体字かを記録しているらしく、表示は(便宜上日本語の漢字で写すと)「不転換」「大陸簡体」「馬新[マレーシア・シンガポール]簡体」「台湾正体」「港澳[ホンコン・マカオ]繁体」が選べるようになっている。すごいくふうだと思うが、日本語や韓国語の漢字が書きこまれることは想定外だろう。東アジアの人がよけいな苦痛なく漢文で情報交換できるためにはこれよりもう少し高度なプラットフォームを構築しなければならなくなりそうだ。

なお、漢語以外の言語からの外来語や固有名詞は、どこかの地方の発音に従って漢字で音訳するのではなく、ローマ字表記で混ぜるのが妥当だろう。漢文は縦書きしたい人もいるだろうが、その場合ローマ字は横倒しでがまんしてもらおう。