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バイオCCSのテクノロジーアセスメントが急務だ

大気中の二酸化炭素濃度が400 ppmを越えたという報道を聞いた。ローカルな人間活動の影響が小さい個別の地点での観測値だそうだが、全球平均値で越える日も近いだろう。

温暖化をくいとめるために、二酸化炭素濃度はこのくらいのレベルにとどめたい。もっと低く、たとえば350 ppmでなければならないという人もいる。しかし、化石燃料消費はそう簡単にはやめられない。自然の二酸化炭素吸収もあるとはいえ、21世紀末までに今のレベルにもどすためには、人工的に大気中の二酸化炭素を吸収してどこか(たぶん地下)に隔離するしかなさそうだ。

工業的な大気二酸化炭素回収技術も世界ではいくつか試みられているが、まだ実用になるかどうかわからない。定性的には確実なのは生物の力を借りる広い意味の「バイオCCS」だ。(CCSは「二酸化炭素回収隔離貯留」。) これは次のように分かれる。

  • 狭い意味のバイオCCS。バイオマスを燃料として使い、そのとき出る二酸化炭素を回収して隔離貯留する。
  • 炭(すみ)による隔離。バイオマスの一部を燃料として使うのをあきらめて炭にして地中に埋める。(一部は炭をつくる際の燃料として消費され、おそらく二酸化炭素を大気中に排出するが、いわゆるカーボン・ニュートラル資源の消費となる。)
  • 生物遺体埋没による隔離。野外の環境で生物体が堆積物中に埋没するのを、人為的に促進する。

いずれにしても、次のような限界がある。

  • すでに人間は、食料や木材などの資源を得るために、地球上の生物の光合成能力のおよそ半分を使ってしまっている。さらに多くの割合を人間の目的に役立つようにしむけても、地球の生物圏は健全さを保っていけるのか。
  • とくに、二酸化炭素収支にとっての「自然の吸収源」はこの自然の生物圏の能力に期待したものだ。バイオCCSのために土地利用を変更した結果、自然の吸収源がそこなわれるならば、バイオCCSの効果はそれだけさしひかなければならない。
  • 隔離は持続しなければ意味がない。放射性廃物の場合のように厳重でなくてよく、少しずつもれるのは(直接の害がなければ)かまわないが、大部分がおよそ千年の桁の時間にわたって隔離され続けてほしい。この条件を満たす土地を確保することは簡単ではない。

このように考えると、まず、現在の化石燃料消費をそのままにして、その二酸化炭素をバイオCCSで吸収しようというのは無理な注文にちがいない。それでは、どれぐらいまで減らせば引き受けられるのか。まず見積もって見ることが必要だ。

そう言いながらも、自分がその研究にとりかかる決意はできていない。(今の能力ではできず、能力を身につけることを他の仕事よりも優先する決意ができていない。) しかし、そのような研究がされているという情報を集め、それぞれの主張の裏づけがしっかりしているかを考えるところまでは、やりたいと思う。

【[2018-04-14補足] この記事で「バイオCCS」と書いたことがらは、「バイオマスを利用してその過程で出る二酸化炭素あるいは炭素を閉じこめる」ことで、いま(2018年)では BECCS と呼ばれることが多くなっています。これは英語のBiomass Energy Carbon dioxide Capture & Sequestration (SがStorageであることなど、部分的にちがうこともある)の略です。狭い意味の BECCS では、バイオ燃料の生産または燃焼で出る二酸化炭素を人工的に地下に導いて閉じこめます。

他方、「バイオCCS」ということばは、地下の生物に頼って、二酸化炭素に由来する炭素を含む物質を地下で動きにくい形にすることをさすこともあります。2012年にこの記事を書いてから1年くらいのうちに、そちらの話も聞いたのですが、別の話題なので記事に書きこみませんでした。同じ用語がちがう意味に使われるという点では注意が必要だと思うので、補足しておきます。】