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社会主義の失敗と、脱社会主義の失敗

わたしは、1970年代の学生のころから、非マルクス・反レーニン社会主義者だ。資本主義は、富の不平等を拡大し、また天然資源の消耗を速めるので、人類社会が長期持続するためにはいずれ廃止されるべき制度だと思っている。しかし、言論の自由が制限されたソ連社会主義の国に移りたいとも思わなかった。そのうえ、1970年代にはわからなかったが、ソ連社会主義も資源浪費型であり、環境汚染に関しては資本主義国よりもひどいことになっていた。したがって手本はないのだが、望ましい方向は、私有財産を否定するわけではないものの、社会を成り立たせるために必要な物は共有財とするべきだという意味では、社会主義だと思っている。

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さて、1月1日から3日まで、テレビ(BSジャパン)で「池上彰の現代史講義」がまとめて放送された。信州大学での2011年夏の講義で、9月に放送されたものの再放送らしい。わたしは1日と2日の午後、ソ連北朝鮮カンボジア、中国(国共内戦から文化大革命まで)と台湾の部分をきいた。

池上さんは世界情勢のややこしい話題をわかりやすく話す名人だと思うが、「わかりやすすぎる」という感じもした。しかし、自分の専門の話をする場合を考えてみても、単純ではない現実を限られた時間で説明するには単純化は避けられない。

わたしが聞いた部分が、台湾の話を除いてみな共産党支配体制の国の話だったので(そして台湾の件は分裂国家の特殊事情がテーマだったので)、池上さんが資本主義国の政治についてどのような態度で論じているのかがよくわからない。共産党支配体制については、「失敗だった」という観点が一貫しているように思われた。ただし、貧富の差をなくすという理念はよかったということも何度も述べていた。したがって(池上さんの用語ではなかったかもしれないが)「失敗」という評価が適当だという気がしたのだ。とは言っても、どうすれば「成功」できるかのよい例はない。

共産党支配体制の国々で、国民がおおぜい餓死するような状況や、おおぜいが「反革命」的態度をとがめられて殺されたり行動の自由を奪われたりするような状況が、たびたび起きたのはなぜか。事例のおりにふれて池上さんが述べた理由の説明を、わたしなりに整理しなおして、社会主義だから起きたのか、一党独裁だから起きたのか、あるいはどんな政治体制でもありうることなのかを考えてみたい。ただし答えを出そうというつもりはなく、少し考えてみるだけだ。

  • どんな体制でもありがちな問題。
    • 政治体制(共産党など)とそれを維持するしくみの自己目的化。
    • 政治指導者個人の権力欲。 (例、中国の文化大革命の動機は毛沢東が正統な共産党体制から権力を奪おうとしたことだったと考えられる。)
  • 産業の集団化。
    • 分配が平等だと、ノルマを越えて働いたりくふうしたりする意欲がわかない。
    • 食事が共同で個人にとって無料だと、消費に歯止めがない。(中国の人民公社の場合。)
  • 権力者の絶対化(個人崇拝) + 地方は中央から与えられた目標を達成することで評価される + 国の情報が外に出ない → 失敗を成功ととりつくろう。失敗の発見が遅れ、対策が遅れる。後発国が失敗を知らずにまねる。(ソ連の農業集団化、毛沢東の「大躍進」、ポルポト体制、北朝鮮体制。)
  • 閉じた集団の危険性。とくに個人の命よりも重要と認識されがちな理想がある場合、ささいな意見の違いが殺しあいに至りやすい (例、日本の「連合赤軍」、中国文化大革命紅衛兵うしの対立)。密告制度があると、あらぬ疑いをかけることがある。
  • 革命の過程による問題。
    • 旧体制がこわれたあとも、旧体制の特権階級とみなされた人が敵視される。(とくに中国・北朝鮮では子孫におよぶ身分制度化し、北朝鮮では今も実質残っている。)
    • 能力のある人を弾圧したため生産性が低くなった。(ソ連の農業経営能力が高かった人が「富農」とされて排除された。文化大革命ポルポト体制も。)

権力者の絶対化の危険は社会主義国に限ったことではないのだが、計画経済(指令経済)なので市場から生産目標へのフィードバックがなかったことが問題を悪化させたと言えそうだ。

労働意欲や新しい方法を試みる意欲が出ない体制は確かにまずいが、意欲を出させる動機はお金をもうけることばかりではないはずだ。出口は資本主義のほかにもあるのではないか。この時代のこの国をまねればよいという手本は見あたらないが。

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農業の集団化については、逆向きに考えさせられたこともあった。

年末にNHK BSで、旧ソ連の社会に関するドキュメンタリーをいくつも続けてやっていた。あまり注意しないで聞いていたので、番組名も、NHK制作か外国から買ったものかも、確認していない。

その中に、モルドバの農村を扱ったものがあった。モルドバは高齢者をのぞくおとなの大部分が出かせぎに行くようになってしまったそうだ。その村はソ連時代にはワインの生産で栄えていたのだが、ソ連崩壊後にワイン生産も崩壊してしまった。その理由として、集団農場が廃止されたことがあげられていたと思う。

わたしが常識的に考えてみると、モルドバの農業が崩壊したおもな原因はソ連体制の解体だろう。ソ連時代の計画経済の中でモルドバはブドウなどを生産する役割を割り当てられ、生産物は連邦内の他共和国で消費されていたはずだ。ところが、ソ連解体後は、ロシアやウクライナから見ればモルドバは多数の外国のひとつにすぎないので、モルドバの製品は激しい市場競争で勝たなければ売れない。

しかし、ドキュメンタリーのいう集団農場解体も原因のひとつだったかもしれないと思う。新しい経済環境の中で、ソ連型の集団農場のままでは生き残れないだろう。しかし、小規模な自作農がよいとも限らない。自作農を基本とするが多くの機能を協同組合にもたせる形もありうるだろう。事実関係を確認していないが、ソ連解体直後の政治家が、望ましい生産組織を設計せず、性急に旧体制の解体だけを進めてしまったのだろうと思う。これも、社会主義から資本主義への向きだが、革命の失敗だろうか。