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Trans-Pacific Partnership (TPP)というのならば

米本昌平さんの新しい著書「地球変動のポリティクス」を読んだ[わたしの読書メモ]。主題は地球温暖化に関する国際政治なのだが、東日本大震災を経験した日本の立場から、地震津波などの災害に対する安全保障のための、気候変動枠組み条約と同様な国際的体制を作るべきだろうと提案されている。

しかし、地震などの問題に関しては、世界でもその場の自然条件によって人々の感覚の鋭さに大きな違いがある。西ヨーロッパ(イタリアなどを除く)や北アメリカ東部などでは地震はふだん意識される脅威ではない。(北アメリカ東部では今年8月にマグニチュード5.8か5.9の地震があって久しぶりに関心を呼んだが。)

巨大地震が起こりやすいところは、アラスカ、カムチャツカ、日本、台湾、フィリピン、インドネシアニュージーランド、チリなど、太平洋のまわりに集中している。この環太平洋地震帯は、火山帯も伴っている(火山はここに限られたものではないが)。そして、2004年12月のスマトラ沖地震(これ自体はスマトラ島の西のインド洋内で起きたものだが)以来、自然現象としての地震津波が前より活発化したかどうかははっきりとは言えないと思うが、大きい被害をもたらした地震津波がいくつも起きている。

防災のための世界全体の政府間の枠組みは、国際連合 国際防災戦略 (UN ISDR, http://www.unisdr.org ) [Wikipedia日本語版]などがある。

とくに津波の通報については、UNESCOの政府間海洋学委員会(Intergovernmental Oceanographic Commission, IOC)のもとに「太平洋津波警戒・減災システムのための政府間調整グループ」(Intergovernmental Coordination Group for the Pacific Tsunami Warning and Mitigation System, ICG/PTWS)という組織がある。実務的にはハワイにあるアメリカ合衆国海洋大気庁(NOAA)の太平洋津波警報センター(Pacific Tsunami Warning Center, PTWC, http://ptwc.weather.gov ) [Wikipedia日本語版]を中心とした国際協力体制ができている。さらに、このような通報を役立てる防災知識を広めるために、UNESCO IOCのもとに国際津波情報センター(International Tsunami Information Center, ITIC, http://itic.ioc-unesco.org )という組織も作られている(この事務所もハワイにある)。

だから、これに加えて何が必要か、また可能かが問題で、わたしはそこまで調べたわけではないのだが、たぶん、環太平洋諸国が自然災害からの回復力を高めるために共同でやれること、やるべきことはもっともっとあると思う。

(アメリカ合衆国からは、科学的観測・警報の面では、津波はNOAA、地震・火山はUSGS (地質調査所)などの連邦政府機関に出てきてもらう必要があるが、防災行政の面ではむしろ、ハワイ、アラスカ、カリフォルニアをはじめとする州政府の参加に期待したいと思う。)

環太平洋といえば英語ではcircum-Pacificなのだが、津波地震波が太平洋を横断するように伝わり、海のまん中にある島や船などにも影響を与えることを考えると、trans-Pacificのほうがふさわしいように感じられる。

TPPがTrans-Pacific Partnershipならば、その第一の目的は地震津波・火山防災に関する協力であるべきではないだろうか。