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学年は 世界の どこで なん月に はじまるか

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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学校の学年のはじめを9月にかえようという提案が報道された。

きっかけは いくつも あった と おもう が、2027年4月27日に、宮城県の村井知事が記者会見でのべたことが報道でよくひろまった。たとえば、つぎの新聞記事があった。

https://mainichi.jp/articles/20200427/k00/00m/040/211000c
「学校再開、全国一律で9月に」 宮城知事、知事会通じ政府に提案へ
毎日新聞2020年4月27日 19時40分(最終更新 4月28日 06時59分)

これは、今年度について、学校が多くの都道府県で3月から休校になっており、4月からの2020年度が正常にはじまっていない状況をどうするかという課題へのこたえとしての提案だ。9月からは学校に生徒をあつめて授業ができるようにすることをめざして準備するのは、もっともな提案だとおもう。ただし、感染症がどうなるかはとても不確かだから、9月の時点でなお生徒をあつめることができないばあいに、どのように教育をするかも、並行してかんがえる必要があるとおもう。

ところが、記事を読みすすめると、村井知事は、学校の学年をつねに9月はじめにするべきだという持論をもっていて、この機会にそれを推進しようとしていることがわかる。その後の報道によれば、ほかの知事や国の内閣関係者のうちにもそのようなかんがえをもつ人がいるらしい。

(都道府県は感染症対策についてはよくがんばっているとおもうけれども) 感染症という災害への対応として学校がふだんとはちがう行動をとる必要が生じたことと、おおくの人が感染症への対応でいそがしいので教育政策をじっくり考えるひまがないことを利用して、学年の体制を変えてしまおうという政治家の態度は、「火事場どろぼう」のようなものだとおもう。報道機関は、これを既定方針であるかのようにつたえるのではなく、問題点のあらいだしをしてほしい。

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日本の学校の年度は4月から3月までで、会計年度と一致している。

会計年度について、ひとまず Wikipedia 日本語版 [ [ 会計年度 ] ] (2020-05-01 に見た) によれば、つぎのとおりだ。

明治17年(1884年)10月に「4月 - 3月制」の導入が決定され、明治19年(1886年)4月から実施された。

学校にとって、学年と会計年度が一致しているのは、いいこともわるいこともあるのだが、ともかく、学校の教職員はそれが一致している状態に適応してしごとをしてきた。これが一致しない状態に適応するのには努力が必要だ。感染症対策におわれているなかでそれもやるのはつらい。

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学年の話になると、「学年が9月からはじまるのが世界標準だ」という もの言いがよくきかれる。

わたしはそうはおもわない。学年のはじまりが、韓国では3月、タイでは5月であることを知っている。学年のきめかたは、それぞれの国ごとの事情によってまちまちなのだ。

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学年のはじまりが世界の国ごとにどうちがうのか、見わたしてみたくなった。

ウェブ検索をしてみると、たくさんの国を一覧にしたような記事としては、おもにWikipediaのものがみつかる。

School year を検索したら、Wikipedia 英語版の [ [ Academic year ] ] という記事に誘導された。国ごとの記述があるのだが、夏休みや冬休みなどがいつあるかの記述がおもで、学年のはじまりについては国によって書かれていることもあるが書かれていないことがおおい。この記事は [ [ School holiday ] ] の記事だったものが題目だけ変更されたものだろうと推測する。

英語版に [ [ First day of school ] ] という記事がある。こちらには、それぞれの国の学年のはじまりの記述がある。そこからリンクされた日本語版の [ [ 始業日 ] ] には、英語版にあるものからよりぬかれた情報があるだけだが、中文版の [ [ 開学日 ] ] は、一覧表の形になっていて、英語版にない情報もある。 (ただし、それぞれの情報の出典はかならずしもしめされていない。国の数がおおく、いちいち出典をしめすと記事自体よりも長くなるだろうから、省略されるのも無理もないとおもうのだが。)

なお、5月1日に Twitter で同様な情報をしめしていたかたは、Wikipedia英語版の [ [ Academic term ] ] の記事を参照していた。情報のある国の数は [ [ 開学日 ] ] よりもすくないが、おぎないあうような情報がある。

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さらにウェブ検索をすると、日本の外務省のウェブサイトのページに出あった。

「諸外国・地域の学校情報」の下の、

アジア | 大洋州|北米|中南米|欧州(NIS諸国を含む)|中東|アフリカ

と「大州」別にわかれているページだ。たとえば、アジアは https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/world_school/01asia/index01.html だ。「大州」別のページをひらくと、国別のリストがある。国ごとの「(国・地域情報)」のリンクさきをひらくと、「現地の教育の概要と特色」の下に「学校年度」と「学期制」がある。この情報を読みとった。(なお、アメリカ合衆国(USA)、カナダ、オーストラリアについては、国のなかの州にわけた説明があるのだが、わたしはそこをくわしく読まず、おおまかに、USAとカナダは9月、オーストラリアは2月とみなしてしまった。)

(なお、「諸外国・地域の学校情報」の「トップ」は、個別の学校の情報をあつめた国ごとのExcelファイルがリンクされたページで、そこに行ってしまうと、国ごとの学年制度の情報にたどりつかない。)

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この外務省サイトの情報を世界地図上に表示してみた。

ただし、月ごとにまとめた。学年のはじめが月末ごろにあたるばあいは、つぎの月にまとめたばあいもある。(このあつかいは、わたしの主観で処理してしまったので、かならずしも首尾一貫していない。8月27日は9月としたが、9月23日 (イランのばあいで、おそらく秋分にあわせている) も9月とした。) 国のうちの学年のはじまりが複数あるときは、外務省サイトの記事を書いた人が重視しているものを優先し、学校の種類によってちがうばあいは小学校を優先した。

【ここにしめすのは、わたしが、谷 謙二 さんによる「MANDARA 10」ソフトウェアをつかって作図し、その出力画像をGIMPですこし加工したものである。へたなところがあることは自覚しており、改良できたらさしかえたい。】

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結果をみると、ヨーロッパ、旧ソ連の地域、中国、北アメリカで 9月 はじまりなので、9月が世界の「多数派」であることはいなめない。

( こまかくいうと、北ヨーロッパ諸国では 8 月に はじまっている。これは気温の条件から夏休みよりも冬休みを長くとりたいからだろう。なお、ドイツ、オランダ、スイスもこのデータでは「8月」となっているが、いずれも学年が「8月から7月」であるという記述なので、夏休みあけの新学期はわたしの基準では「9月」である可能性があるとおもう。)

しかし、南半球のほとんどの国では、学年のはじめは、1月、2月、3月なのだ。9月であることが世界の常識ではない。南半球の温帯に関するかぎり、3月は秋だから、北半球のおおくの国と「学校は秋にはじまる」という原則が共通しているとはいえる。南半球の熱帯のおおくの国では、1月から3月は雨季だが、学校を雨季に はじめる意図があってこうなったのかはわたしにはわからない。(なお、エクアドルについては、外務省のページに、海岸地方では5月はじまりであることが書かれている。また、ブラジルについては、外務省の情報では「2月」だけなのだが、Wikipediaの情報によると、赤道にちかい熱帯地方では学年はじまりの時期がちがうそうだ。)

アジアはまちまちだ。中国 (台湾をふくむ)、モンゴル、ベトナム、ラオスは9月だが、バングラデシュ、マレーシア、シンガポール、スリランカは1月、韓国は3月、パキスタン、インド[注]、ネパール、日本は4月、タイは5月、ミャンマー、フィリピンは6月、インドネシアは7月、カンボジアは10月なのだ。

[注] インドについては、この外務省のページでは4月としているが、Wikipedia 情報では、4月、6月、7月などいろいろな記述がある。国全体で統一されているのではなく、地方ごと、あるいは学校の種別ごとにちがうらしい。

タイの5月は、国の中央部での雨季のはじめにあわせたものだ。乾季のおわりごろ(3-4月)はあまりに暑いので小学校1年生を学校にかよわせるのにむかないとかんがえられた、と聞いたことがある。ミャンマー、フィリピンの6月も同様だろう。マレーシア、スリランカの1月は北東モンスーンで雨がふる地方の雨季にあわせているのかもしれない。バングラデシュの1月、インドネシアの7月は、乾季のうちであまり暑くない時期をえらんだのだとおもう。北半球側の熱帯アフリカの9月~10月は、雨季から乾季にかわるところにあたる。ここでは暑さよりも雨のほうが、学校に子どもをあつめることがむずかしくなる要因だったのだろうか。(ここでは自然要因だけをあげたが、社会要因もあるとおもう。)