macroscope

( はてなダイアリーから移動しました)

Anthropocene (人類世、人新世) (4) Lewis & Maslin (2018) "The Human Planet"

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

この主題については、[(1) 2016-02-06][(2) 2016-02-07][(3) 2017-01-17]の記事でふれてきた。

Lewis & Maslin (2018)の本を読んだ。

この著者たちは、いまの地質時代区分のきめかたがかならずしもよいと思っていないが、それを変えようとするのではなく、いまの制度のもとで Anthropoceneをみとめさせようと考えている。それには、時代がちがうといえるほどの大きな変化が生じることのほかに、時代画期が模式地となるところの堆積物で明確にみとめられなければならない。ただし、時代画期を明確にしめす指標の変化は、時代のちがいの本体となる環境変化そのものでなくても、それに関連したものであればよいと考えている。

そのたちばで、著者たちは4つの時代画期の案をあげる。

  • 11700年まえ。完新世のはじめと同じ (つまり完新世全体をAnthropoceneとする)。
  • 5020年まえ(ただし起点は西暦1950年)。ある氷床コアによる大気中のメタン濃度の極小。農業が温室効果気体濃度をつうじて気候に有意な影響をおよぼしたというRuddimanの説 ([Ruddiman (2005)の本の読書ノート]参照)にしたがったもの。
  • 西暦1610年。南極Law Dome氷床コアによる大気中の二酸化炭素濃度の極小。この極小は、それまでの百年ぐらいのあいだに南北アメリカの人口が減り農地が森林にもどった結果と解釈されている。時代のちがいとして重視されている変化は、コロンブス以来の人間による植物・動物の輸送が大陸間の生物種組成をまぜてしまったこと。
  • 西暦1964年。年輪に見られる大気中炭素14濃度の極大。この極大は大気圏内核実験の結果である。時代のちがいとして重視されているのは、化石燃料の消費、人工窒素固定、石油化学製品の生産などが、1950-60年代から急にふえていること。

【もしこの4つに候補をしぼることができたとして、そのうちどれが時代のかわりめにふさわしいかとなると、むしろ、地球を変化させる要因としての人間として、人間のどんな能力を重視するかという思想の問題になってしまう。これは自然科学内の議論では決着せず、文化圏間の摩擦になると思う。どこかの文化圏の思想でおしきられてしまい、他の文化圏に不満がのこる心配もある。[この段落 2019-09-11 追加]】

著者たちは西暦1610年をおしたいようだ。わたしは、この時代の変化は人間が陸上生態系に不可逆な変化をあたえたという意味で重大なのはわかるが、時代画期を微妙な二酸化炭素濃度の変化できめるのはくるしいと思う。わたしは、このシリーズ記事の(1)でも述べたように、【自分から Anthropoceneを時代区分としてきめたいわけではないのだが、もしきめることまでは合意されたとして、くわしい合意が可能かどうかで評価するのならば】 時代画期を1950-60年代におく案のほうが実現性があると思う。

文献

  • Simon L. Lewis & Mark A. Maslin, 2018: The Human Planet -- How We Created the Anthropocene. Pelican (an imprint of Penguin Books), 465 pp. ISBN 978-0-241-28088-1. [読書メモ]