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粒度、分解能/解像度/粗視化、aggregation

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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「サンプル数」という表現についての[2018-04-30の記事]に関連して思いあたったことをその記事に「1X」節として書きたしておいたのだけれど、もう少し話題をひろげたくなったので、別の記事をたてることにする。

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「サンプルサイズ」という表現から、わたしは、統計学者のいう「サンプルサイズ」とは別のものごとを連想してしまう。

複雑なものの集まりについて記述するときに、個物ひとつひとつは記述しきれないが、全部ひとまとめに記述したのでは単純化しすぎなので、グループごとにまとめて、グループ間のちがいはシグナルとしてあつかうが、グループ内の個物のちがいはノイズであるかのようにあつかうことがおおい。このとき、グループの大きさ(サイズ)をどのくらいにするか、という問題がある。

そのうちでも、わたしがよく出あうのは、空間分布をもつものごとの場合だ。連続の空間座標の関数である数量の場合ならば、有限個の数値では完全な記述はできない。現実には有限個の数値で近似的な記述をするが、その際によくやることは、空間を升目[ますめ]に分割して、升目ごとの代表値(たとえば平均値)を考えることだ(ほかの方法もあるが)。この場合、わたしがサンプルサイズと言いたくなるものは、「升目の大きさ(サイズ)」と言ったようがよいだろう。(よく聞かれる用語は「升目」ではなく「格子」や「グリッド」なのだが、その場合は「格子の大きさ」ではまずく、たとえば「格子間隔」などを持ち出した表現が必要になるだろう。)

人口分布のように、原理的には離散的なものごとであっても、個別のものごとの位置はこまかすぎて、なんらかの空間的なまとめをしないとあつかいきれない場合もある。たとえば日本の行政からくるデータならば、それぞれの都道府県についての集計をするか、それぞれの市町村についての集計をするか、などの選択がありうる。この場合、わたしがサンプルサイズと言いたくなるものは「集計単位の大きさ(サイズ)」と言ったほうがよいだろう。

また、ここでいう「グループの大きさ(サイズ)をどのくらいにするか」について、「粒度 [りゅうど] 」ということばを使った表現があることを、わたしはわりあい最近に知った。英語では granularity らしい。しかし、どの専門分野で使われていたかも、正しい使いかたの例も、わたしはよく認識していない。

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複雑なものをグループごとにまとめるという作業をあらわす用語として、わたしは、英語ならば、動詞で aggregate、対応する名詞で aggregation ということばに思いあたる。

しかし、これを日本語で表現しようとすると、動詞ならば「まとめる」「かためる」とはいえるが、名詞にしにくい。「まとめ」は、文章の結論をさすこともあるし、空間構造を考えずに全部いっしょにしてしまうような感じもする。「かため」は「かたい(固、堅、硬)」から派生する「比較的かたい」という意味の「かため{な、の}」という形容語(学校文法用語では形容動詞)があるので、動詞「かためる」から派生した その作業をあらわす名詞とは思われにくい。

ことばのなりたちはちがうのだが、次にのべる「粗視化」が、比較的近い感じがする。

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「粗視化」というのは、「見る」という作業をする場合に、たぶん空間的に、個物よりは大きなサイズでまとめることだ。

その文脈で、まとめる「サイズ」の大きい小さいをあらわす用語としては、英語ならば resolution 、日本語では「分解能」または「解像度」がある。(わたしは「分解能」のほうがさきに出てくるが、読むもので出あうのは「解像度」のほうがおおいようだ。) これの由来は、おそらく望遠鏡で、複数の星を区別して認識できるかどうかであり、その数量は天球上の角度で表現されていただろうと思う。

気象・海洋の数値モデルや、衛星などによるリモートセンシング(遠隔観測)では、空間を有限個の升目にわけてあつかう。升目が大きい(同じ対象空間をあつかうならば升目の個数はすくない)のが低分解能、升目が小さい(升目の個数はおおい)のが高分解能なのだ。

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「粒度」ということばを、わたしは地学用語として知っている。礫[れき]、砂、泥などの岩石の砕屑物[さいせつぶつ]を、粒子の大きさで分類するときに使う。地学のうちの地質学のうちの堆積学の用語だが、それ以外の分野の人も使うだろう。対応する英語は、grain size、particle size とされている。

砂ならば、ふるい[篩]によって粒度別にわけることができる。たとえば、間隔 4 mmの ふるい はとおるが 2 mm の ふるい はとおらない粒子群と、2 mmの ふるい はとおるが 1 mmの ふるい はとおらない粒子群とは、粒度がちがうのだ。粒子の大きい礫の場合や、粒子の小さい泥の場合には、ふるい とはちがう道具が必要になるけれど、粒度の考えかたは同様だ。

ただし、粒子の大きさ(サイズ)と何か別の量との関係を定量的に議論するときには、「粒度」よりもむしろ「粒径」という表現が使われる。粒径とは、粒子の形を球で近似したときの直径と言ってよいと思う。

他方、地学のうちでも気象学では、水滴、氷の結晶、エーロゾルなどの粒子の大きさ(サイズ)が問題になる。ただし、わたしの知るかぎりでは「粒度」ということばは使わない(英語の particle sizeは使うが)。大まかなあつかいのときも「粒径」を使った表現をすることがおおい。

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わたし個人の感覚として、使いたくなる表現は、対象を空間的にどのくらいくわしく見るかを考える場合は、「粗視化」と「分解能」だ。しかし、必ずしも空間でない複雑な対象をどのくらいくわしく見るかを考えるときは「粒度」のほうがよいと感じることがある。