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日本の季節と天気パタン

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日本語を読み書きしない外国人の留学生と話をした。気象学の基礎知識はあるのだが、日本の事例をあつかうにあたって、日本の季節ごとにあらわれやすい天気パタンについての知識がとぼしいことに気がついた。(日本で育った人ならば中学・高校あたりで習っていたり、生活のなかでテレビ・新聞などから身につけていたりするのだが。)

ここで仮に「天気パタン」としたのは、晴れ、くもり などの「天気」の空間分布ととらえてもよいのだが、むしろ、「天気図」として海面気圧([2012-04-26の記事]参照)の分布地図を示すことを前提に、低気圧・高気圧([2012-04-09の記事]参照)がどのあたりにあるかなどの「気圧配置」のことをさしている。

日本の季節ごとの天気パタンについて、英語で書いたものは、Fukui (1977)があるものの、それより新しいものは、気候学関係の文献のうちでは見あたらない。(天気実務関係などでわたしの知らないものがあるかもしれないが。) 留学生や地域間比較研究をする人のために、英語による解説があるべきだと思う。対象となる空間の広がりを、日本とするか、東アジアとしてその中で日本をも記述するか、という選択の問題もあるが。

今回わたしは、日下(2013)、中村ほか(1986, 1996)などの日本語で書かれた本の図を見せながら、英語で説明をこころみた。その内容を、ひとまず日本語で書きとめておく。短時間で考えたものなので考えがあさいところもあると思う。とくに時間きざみについては、わざとおおまかに月単位の表現にしてある。

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日本の南北のひろがりはかなり大きく、その全体に適用できるように気候を記述するのは簡単でない。ここでは、日本のうちでも人口の多くが住んでいる、北緯31度から37度くらいまでの範囲に対象をかぎる。(その外の地域を軽視するつもりはないが、ひとまずたなあげにする。) これは、九州、中国四国、近畿、中部、関東地方をふくむ。わたしは[2012-11-10「梅雨、秋雨/秋霖」]では「日本東西軸地方」という表現を使ってみた。日本についてくわしくない人に説明する際の表現は central Japan でよいだろうと思っているが、「中部地方」だけではないことに注意する必要がある。

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日本東西軸地方は、年の大部分の期間、温帯の偏西風帯の中にあり、雲・降水をともなう温帯低気圧と、晴れることが多い移動性高気圧が、いずれも西から東に移動していく。低気圧がきてから次の低気圧がくるまでの時間は7日程度だ。この低気圧・高気圧は、上空(対流圏中層の500 hPa面で代表させる)の偏西風の波の谷・峰と一連の構造である。春(3, 4, 5月)と秋(10, 11月)は、この温帯低気圧型と移動性高気圧型の天気パタンがおもにあらわれる。

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冬(12, 1, 2月)には、冬の季節風型の天気パタンがあらわれる。冬には、日本の西のユーラシア大陸の陸面は、東の太平洋の海面よりも、温度が低くなる。そして、対流圏下層では、大陸上に高気圧、海洋上に低気圧ができ、大陸から海洋に風が吹き出すが、地球の自転の効果があるので、高気圧のまわりを上から見て時計まわりにまわりながら吹き出す形になり、日本付近では北西の風、その南の亜熱帯では北東の風となる。吹き出しを補うように、おそらく対流圏中層で、大陸上に向かう流れがあるはずだが、検出するのはむずかしいかもしれない。

この季節風が日本に やや複雑な降水分布をもたらす。大陸から吹き出す季節風は、はじめは乾燥しているが、日本海などの海上を吹く間に海から水蒸気を受け取る。その空気が日本列島の山脈の風上(北西側)で押し上げられ、雲をつくり、降水をもたらす(温度が低いので雪になることが多い)。風下(南東側)では水蒸気がとぼしくなった空気が押し下げられるので、晴れることが多い。(この風上・風下のコントラストは気候の全球モデルではまだ表現困難なメソスケールの特徴である。)

冬のあいだには、冬の季節風型のほかに、温帯低気圧型・移動性高気圧型が出現することもある。日本列島の山脈の南東側で雪がふるのは、温帯低気圧型で、しかも気温が低いときである。

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夏(8月ごろ)には、日本東西軸地方は亜熱帯高気圧に覆われることが多い。気温が高く、湿度もかなり高いが、晴れることが多い。ただし、亜熱帯高気圧のうちでも太平洋の西側なので、太平洋の東側にくらべれば積雲がたちやすい。陸上では、日変化にともなうメソスケールの降水 (たとえば午前中は晴れているが午後に雷雨) が、しばしば見られる。

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6月・7月には雨が多く、梅雨(Baiu)とよばれる。これは中国大陸(とくに華中)の梅雨(Meiyu)と一連の現象である。梅雨をもたらす大気の構造は梅雨前線とよばれる。ただし、温帯低気圧にともなう前線は温度コントラストが特徴だが、梅雨前線は水蒸気量のコントラストが特徴である。

梅雨前線と似たものとしては、南太平洋収束帯(SPCZ)、南大西洋収束帯(SACZ)があり、亜熱帯降水帯としてまとめることもできる(Kodama, 1992)。ただし梅雨前線はSPCZやSACZよりも位置が固定しやすい。

梅雨前線の中にメソスケールの積雲群が発達して激しい雨をもたらすことがある。熱帯の大部分の地域での降水が日変化がはっきりしていて雨季でも晴れる時間があることが多いのに対して、梅雨前線の降水は昼夜をとわず続くことがおきやすい。

「モンスーン」ということばの意味を広くとれば、梅雨はアジアモンスーンの重要な部分である。しかしその意味を狭くとれば、梅雨はモンスーンとは言えないだろう。

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秋のはじめ(9月ごろ)は雨の日が多い時期であり、いくらか梅雨と似ているが、梅雨ほど持続性がない。なお、降水量の気候値で9月の量が多いのは、おもに、次にのべる台風にともなう雨が多いことによる。

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台風は熱帯の海上で発生し、だいたい6月から11月のあいだに不規則なタイミングで日本にやってくる。台風は大雨と強風をもたらす。

文献

  • E. Fukui ed. 1977: The Climate of Japan. Kodansha & Elsevier Scientific Pub. Co.
  • Yasumasa Kodama, 1992: Large-scale common features of subtropical precipitation zones (the Baiu Frontal Zone, the SPCZ, and the SACZ). Part I: Characteristics of subtropical frontal zones. Journal of the Meteorological Society of Japan, 70: 813-836. https://doi.org/10.2151/jmsj1965.70.4_813
  • 日下[くさか] 博幸, 2013: 学んでみると気候学はおもしろい。ベレ出版。[読書メモ]
  • 中村 和郎[かずお], 木村 龍治, 内嶋 善兵衛, 1986, 新版 1996: 日本の気候 (日本の自然 5)。岩波書店[読書メモ]