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AGU GC12B: 持続可能な未来をめざす学際的環境科学

AGU Fall Meeting [12月10日の記事1参照]から。
GC12BSustainable Future: Climate, Resources, and Development

Hayhoe (Texas工大)は、温暖化対策の政策に役にたつ影響評価をするために、気温変化から、影響と、温室効果気体濃度を経て排出量とに向けて考えていくことにした。全球平均気温(の2001-2010年の平均からのずれ)を基本と考える。CMIP5の全球気候モデルによる予測型実験の結果の各地域の特徴を見る。気温、雪氷に関する変数と、水循環に関する変数のうち河川流出量などは全球平均気温と対応して変化する傾向がある。しかし乾燥度などは対応がよくない。

Monier (MIT)は、気候と経済を結合したモデル(Integrated Global System Model)による気候影響研究の中で、予測の不確かさを評価しようとする。結合された気候モデルは2次元の中程度の複雑さのものだが、IPCC AR4の全球気候モデルの結果をパタンスケーリングによって反映させている。3種類の排出シナリオ(政策)と4種類の気候感度の組み合わせについて実験した。空間パタンは、5種類以上の全球気候モデルで、各モデルごとに複数(例示されたものでは5つ)の初期条件について計算したものに基づいている。不確かさの効きかたの大小比較は、気温については、政策 > 気候感度 > 初期条件 〜 全球モデル。降水量については、政策 〜 全球モデル > 気候感度 〜 初期条件。

Vörösmarty (Univ. New Hampshire)は、アメリカ合衆国北東部を対象とする地域地球システムモデルをつくるプロジェクトの話。政策決定に知見を提供することをめざすが、仮説から出発する。生態系サービス生産能力は人間の意志決定によって制約されるという仮説である。生物地球化学プロセス、人工物システム、人間の意志決定(管理、規制、経済)を含めたモデルで、十年から百年の時間を扱う。排出シナリオ、全球モデルからダウンスケールされた気候シナリオ、管理の戦略などを外部条件として与える。政策決定者のパネルとのやりとりも入れられるようにする。学際的な研究者二十数人の共同作業であり、陸域生態系、淡水生態系(沿岸海洋はこれから)、メソスケール大気、メソスケール経済(統合評価)のモデルを、iRODSというデータベース管理システムを通じてデータをやりとりする形でゆるく結合する。たとえば、地域の炭素収支を化石燃料からの排出と生態系による吸収を含めて計算する。それは大気汚染(オゾン、窒素の沈着)に敏感である。

Newmark (NREL)の話は、エネルギー産業の気候変化に対する脆弱性・適応について。US CCSP Synthesis 4.5で扱われているが、その次の段階のものを2013年のNational Climate Assessmentに向けて進めている。気候変化のエネルギー産業への影響は多様である。例として、熱機関による発電(火力と原子力の両方を含めたらしい)に対する冷却水をとりあげる。これはアメリカ合衆国の淡水利用の約半分をしめている。淡水が利用できないと仮定して、空冷、都市排水の利用、塩分を含む地下水の利用をオプションとし、各発電所それぞれについて設備費用を見積もった。立地条件によってどれが安いかが違う。

Brantley (Penn State Univ.)は、シェールガス開発の環境影響が心配されている地域の水質のデータを整備した話。USGS NWIS (USGSが1960年以来観測したバリウム、ストロンチウム、臭素のデータを含む)、EPA STORET、それにPaDEPという市民団体の観測値をあわせて、CUHASI (www.cuhasi.org) が開発したHydroServerというソフトウェアを使ってShaleNetwork (www.shalenetwork.org) というデータベースをつくり、CUHASIのHydroDesktopという道具を使って検索できるようにした。

Brasseur (ドイツ気候サービス)は、気候サービスという新しい事業について、3年ほどの経験にもとづいて論じた。これのおもな役割は、地域社会(公共機関も産業も)が気候変化に適応するのを助けるために、科学的知見を統合して提供することである。全球規模の気候変化予測から考えるトップダウンの方法と、生態系や社会の気候変化に対する脆弱性から考えるボトムアップの方法を組みあわせる。川のまん中まで橋があるアヴィニョンの橋の絵を出して、科学と社会の間をつなぐものは、半分まではIPCCがあるが、残りの利用者界面のプラットフォーム、つまり社会のいろいろなセクターの人々の問いに答えて知識を提供する仕事があるのだと言っていた。ドイツ国内だけでなく、国際開発投資銀行の要請で、中央アメリカの国々に気候変化予測の知見を提供する仕事もしたそうだ。当面のまとめとして、次のようなことを列挙していた。

  • 気候サービスの概念はまだ成熟していない。
  • 機能が競合する機関があることもある。
  • 信頼されるためには中立・独立である必要がある。
  • 科学者たちの参加はまだ充分でない。
  • 想定された顧客の多くにもまだ知られていない。
  • 公共サービスと市場向けの活動との兼ね合いは複雑な問題。

Alberti (Univ. Washington)の主題は、都市計画に必要な知見として、持続性の科学と健康(human well being)の科学を結合していくことだ。世界の人口の多くが都市に集中する傾向がある。都市の生活を持続可能・健康なものにし、災害や事故のリスクを減らすために、洪水、水質、気候変化、混雑、資源消費などにかかわる問題をいっしょに扱う必要がある。人々(個人および集団)とその居住環境(自然環境と建築物)とが組み合わさって、気候変化、人口増加、都市化、経済発展などのプロセスの影響に応答するという枠組みを考える。例として、都市の中の水の機能(水質・健康、レクリエーション、洪水災害などを含む)や、生態系機能(食料、文化・レクリエーション)が気候変動と社会要因によって変化しうるときに、それを制御するような政策・計画をどう立てるかという問題がある。従来の学問分科を越えたモデルを作り、観察事実やシナリオを統合して扱う必要がある。

Matson (Stanford大学)の話は、持続可能でない社会を持続可能に変えていくために、知識を行動にどうつないでいくか。社会を持続可能にするためには、知識や道具が必要となる。まず知識の生産の段階で、意思決定者の需要に応じるような研究活動の方向転換が求められている。それから、知識を行動につなぐ段階がある。これがむずかしい。知識が生産者から利用者に一方的に流れるという「パイプラインモデル」が有効なことはまれだ。【ここでpipeline modelと言われたのは、社会科学系の文献でしばしばlinear modelと言われているものと同じだと思う。理工系の人にlinear modelと言ったら別のものになってしまうので、pipelineのほうがわかりやすいと思った。】National Research Councilがワークショップを開いたそうだ。

MatsonはメキシコのYaqui Valleyの事例について述べた。ここは「緑の革命」のもとになった品種をつくった国際トウモロコシ・小麦研究所のあるところだが、研究所ではなくてまわりの農村についてだ。持続可能性にかかわるいろいろな問題のうちに、農地への肥料のやりすぎがある。窒素肥料のやりすぎは、大気へのN2O放出や、水域への硝酸イオンやアンモニウムイオンの流出による環境問題を起こす。しかし肥料が安いので農民は大量に使ってしまう。適量にしたほうが農民にとっても支出が減ってよいはずなので、その知識を伝えるような会合を何度もしたのだが、2002年の時点では肥料使用はふえ続けていた。農民に助言を与える信用組合が、土壌の不均一性や気候の変動に関する不確かさによるリスクの低い策を選ぶ。そこで、農民および信用組合の助言者と協力して、場所ごとに不確かさを減らすことにした。リアルタイムに植物の窒素を測定することも試みた。【これは研究として費用を投じてやったのだと思う。普及するためには計測機器の費用を安くする必要があるだろう。】この経験から、知識を行動につなげるための障壁として次の3つがあげられる。

  • 科学者と意思決定者の間の相互誤解。これを減らすには、対話を促進すること、信頼できる知識を協力して作ること、知識生産をstakeholdersとともにやること、境界にまたがる活動を奨励すること。
  • 知識の断片化。知識体系の違った部分は違った組織が担当している。持続可能性は公共財でありそれを維持するインセンティブが弱い。これの対策には、知識システムをサプライチェーンのように考え、それを完成させることにインセンティブが働くしくみをつくる。
  • 驚きや不確かさの多い世界の中で、人々の行動の柔軟性が乏しいこと。これについては、「機敏な学習システム」が有効だ。【そのほかいくつか言っていたがよく聞き取れなかった。】

[2020-08-03 補足] Matson の話題については、本が出ている。

  • Pamela A. Matson ed., 2012: Seeds of Sustainability -- Lessons from the Birthplace of the Green Revolution in Agriculture. Washington DC: Island Press, 292 pp. ISBN 978-4-59726-525-6 (pbk.) [読書メモ (2014-11-09)]