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研究機関と研究資金提供機関との統合は(不可能ではないが)要注意

独立行政法人の統合の話はいろいろあるが、1月13日に、あるうわさを聞いて(正確には他人のtwitterを見ていて)驚いた。根拠として示されていた時事通信社の報道(文科省所管8法人を統合=理研、原研機構が対象−独法改革案(2012/01/12-21:07)http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012011200979 )を見ると、「24日召集の通常国会に提出する独法改革関連法案に盛り込みたい」として「奥村展三文科副大臣らが12日の民主党行政改革調査会に提示した」ものだそうだ。理化学研究所日本原子力研究開発機構科学技術振興機構防災科学技術研究所放射線医学総合研究所物質・材料研究機構宇宙航空研究開発機構海洋研究開発機構の8法人を統合する案だそうだ。

防災科学技術研究所海洋研究開発機構の2法人の統合については、自民党内閣時代に国会での決定まで行っていながら、凍結されていた。これが再び出てくるのならば当然のことだと思うが、8法人の統合というのは驚きだった。

いずれも科学技術の研究にかかわる機関だから、対象が違っても同じ組織でできると考えたのだろう。しかし、研究にかかわるうちでも機能による分業がある。科学技術振興機構(JST)の業務はいろいろあるが、予算上大きいのは、国の研究費を配分する業務だ。その多くは公募制をとる。国が推進したい事業の要件を示して、研究者から提案をつのる。JSTが提案を審査して選択された研究者の所属機関に、JSTから(事業によっては国からの場合もあるが)資金が提供される。そして、たとえば海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、研究経費の主要部分は国から直接運営交付金としてもらっているが、それを補うものとしてJSTの公募に応募することがある。JSTに対しては大学などと同じ立場なのだ。

もしJSTJAMSTECが統合されると、公募による研究費が同じ法人内の研究に提供されることになる。それを禁止すると一部の研究が止まってしまう。「公募の審査にあたっては内外無差別で、決定後の執行の際に法人間の契約となるか法人内の予算移しかえとなるかが違うだけだ」という扱いは可能だと思う。定型業務の請け負いであれば、資金受け渡しの費用を含めるか含めないかよって優劣が変わることがありうるが、幸か不幸か研究提案の評価でそれが有意な差をもたらすとは思えない。しかし、行政改革のねらいが多少とも利害衝突のおそれがあることを避けることだとすれば、これも避けるべきなのかもしれない。また、研究代表者が他法人の人で研究分担者に法人内の人がいる場合、資金受け渡しを二重にするのは明らかにむだだから、制度をうまく作っておく必要がある。

(次の記事に続く。)

[次の記事と別の方向への続き] 独立行政法人の統合のメリットとして役員の数が減らせることがあげられる。しかし研究機関の場合、これはよいことだとは限らない。研究課題の合計数が減らないで理事の数が減れば、ひとりの理事がさばくべき課題の数がふえ、ひとつひとつの課題に注意がゆきとどかなくなる。また、課題の内容への専門的理解が浅い理事が判断の責任を持たなければならない場合がふえる。

統合がよいことだとする議論の背景には、大企業のほうが中小企業よりもすぐれているという固定観念があるのではないか。仕事内容によっては、中小企業的感覚のほうがよいこともあるはずだ。研究所も、多くの場合、そういうものではないか?