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電気に依存している情報伝達網をどうやって確実にするか

3月11日の地震で失われた命はかけがえのないものではあるが、むしろ、現代日本はこれだけの地変に対してこれだけの人身被害ですませるところまで進歩したのであって(経済的被害額は昔よりもかえって大きいかもしれないという問題はあるが)、今後、世界、とくに環太平洋のどこで地震があってもこの程度ですませられる態勢をつくっていくことが大事だと思う。

わたしが直接かかわっている建物はこわれず、停電にもならなかったので、電車などの交通手段がしばらく止まった(同僚の多くが帰宅できなかった)のと電話が通じにくかったという不便はあったが、インターネットによる情報収集にはさしつかえなかった。ただし(13日昼現在、わたしが見ようとした限りの)東北地方にあるサイトにつながらない(うち東北大学のホームページは13日の晩には回復したことをあとで知った)。つくばにあるサイトにもつながらないところがある。(防災科研の地震関係のサイトが応答しないのは悲しい。[2011-03-17追記: 復活した。Hi-netの場合は15日19時からだそうだ。]) ウェブサーバー自体か中間経路の機械が止まっているにちがいない。機械自体に異常がなくても停電で止まっているのかもしれない。

地震原子力発電所の事故が起きた。大惨事にはならなくてすみそうだが、事故を起こした原子炉は利用不可能になりそうだし、こわれなかったものも再開までに年単位の時間がかかるだろう。また、原子力発電所(予定地)のまわり20 kmの範囲に住む人にとっては、結果として健康被害がなかったとしても、避難をしいられるという意味で、発電所は迷惑源施設だということがわかった。発電所立地箇所ごとにそれだけの広がりの人々を納得させなければならないのだから、1979年のスリーマイル島事故以後のアメリカと同様に、原子力発電所の立地はむずかしくなると思う。

関東でも、14日からの平日には電力供給が需要に及ばない可能性があるので計画停電を検討中だそうだ。これは情報発信機能に対して直接の停電時間よりもずっと大きな打撃になる。いわゆる無停電電源装置は、コンピュータシステムをこわさずに停止するのに必要な時間だけの電源を確保するものが多く、数時間の停電をもちこたえるものは少ない。大規模なサーバーマシンは起動・停止だけでも手間がかかり、そうたびたびできるものではない。大規模でなくても、サーバー管理を主の職務とする人がいない場合に、なん時間かの停電に合わせて停止・再起動する人間時間を(一度だけならばがんばれるが)毎日確保するのはたいへんだ。自動起動できるサーバーは停電日程が規則的になってくれれば自動化対応できるだろうが、起動の際に人が操作する必要のあるサイトは止めたままにしておく以外の対応ができなくなりそうだ。防災の参考にできそうな情報があるサイトさえ、ほしいときに必ずしもアクセスできないことが多くなるだろう。

今後、電力が必ずしも常に供給されているわけではないという状況を前提として、少なくとも災害対策に必要な情報の収集・交換がさしつかえなくできるような社会態勢を整えていくべきだと思う。これは、日本ほど電力供給の確実性の高くない国での策を考えることともほぼ同じだろう。常時得られるべき情報の提供機能を確保することと、それ以外の情報についてサーバーが計画的に止まっているあいだも次の運転予定が常時運転サイトでわかるようにしておくことに分けて考えるべきだろう。

端末側では、幸い、ほとんどのノートパソコンは電力供給がとぎれても充電式の電池によって引き続き使えるようになっている。しかし充電ずみの分だけで終わってしまう。使う電力は大きくないので、人力で充電できるようになっていたらよいと思う。実際、貧しい(したがって電力供給が確実でない)国の生徒に使ってもらおうとしてOLPCという団体が企画したいわゆる100ドルパソコン(実際には200ドルくらいするらしいが ... 阿部 2008参照)では、手まわしの発電機がついている。わたしは手まわしではつらいが足踏みならば使う気になると思う。(足踏みリードオルガンを思い出す。) もちろん、機械にエネルギーを供給するのに人間の食料を経由するのは非常に効率が悪いルートだ。しかし、いずれにしても人を生かす必要があり、しかもその肉体労働を全部有効に使う需要がとりあえずないならば、情報処理機械の機能維持にまわすのもよいことだと思う。

情報発信のサーバー(大規模なものはあきらめるとして非常用のもの)や通信の中継器・アンテナなどが停電に負けないようにするにはどうしたらよいだろうか。充電式の電池によるバックアップと、自然エネルギーによる供給との組み合わせになると思う。太陽光にせよ風力にせよ自然エネルギーを受ける部分が地震や暴風を受けたあとは正常に動作しない可能性もかなりある。しかし完全を求めるときりがないので、予想可能な災害には耐えられる可能性が高いように作り、さらに故障しても代わりがあるように配置しておくのがよいのだろうと思う。

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