macroscope

( はてなダイアリーから移動しました)

多分野党

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

- 1 -
ある人がこう書いた。

多分野党はこう言うだろう。

別の人が、「読みまちがえやすい書きかたをしないでほしい」という趣旨のもんくを言った。その人は、複数の分野にまたがるしごとをしていたので、「多分野」ということばを認識してしまい、それでは文の意味が通じないのでまごついたのだった。もとの書き手は、読みまちがえるのがわるい、という考えだったので、議論は行きちがったままだったようだ。

- 2 -
まぎらわしくなくするには、つぎの方法がある。

  • A. 「たぶん野党」 のように、「多分」を ひらがなで書く。
  • B. 「多分 野党」のように、あき (空白) をいれる。
  • C. 「多分、野党」のように、点 (読点) をいれる。

ここで、「たぶんやとう」のように全部ひらがなにするのは解決にならない。さらに、あき または 点 をいれる必要がある。

- 3 -
わたしは、漢字かなまじりの日本語を書くときに、「たぶん ... だろう」の「たぶん」は、いつも ひらがなで書いている。編集者が強制的に書きかえないかぎり、わたしの書いた文章では、この特定のまぎらわしさは生じない。

わたしがそのような文字づかいをするのは、子どものころ、「たぶん」を ひらがなで書く語としてならって、そのあと、それを修正する必要を感じなかったからだ。

修正する必要がないと思った理由のうちには、1960年代当時の、おとなむけの規範(何だったかはおぼえていないが、「公用文の書き方」だったかもしれない) に、「副詞はひらがなで書く」というものがあった、ということがある。ここで「副詞」は学校国語文法の品詞名で、「連用修飾語」としてだけつかわれ、「活用」をしない単語だ。(英文法用語の「副詞」を日本語にあてはめたものよりは、対象がかなりせまい。) 「たぶん」はこれにふくまれるのだ。(ただし、意味がちがう「多分に」は、ここでいう副詞ではなく、わたしはこれには漢字をあててよいと思っている。) 副詞のうちには、おおくの人が漢字をあてているものもあるけれども、わたしの感覚としては、いずれもひらがなのほうが読みやすいと感じる。

ただし、わたしは漢字づかいについて、別の規範ももっている。漢字は、音読みであり、漢字のもともとの意味にちかい意味でつかわれるばあいにかぎってつかうようにし、それ以外はなるべく ひらがなにしたい、というものだ。このたちばからは、「たぶん」は、およそ「半分以上の確率で」のような意味であり、「多」と「分」の漢字はそれぞれの本来の意味で、しかも音読みでつかわれているので、「多分」と書くのはわるくない。だから、わたしは、他人が「多分」と書いたばあい、それをひらがなになおそうとは思わない。(「ちょっと」を「一寸」と書くような あて字をやめさせたいと思うときとは、ちがう態度になる。)

- 4 -
日本語の漢字かなまじり文には、わかちがきの習慣がなく、あき を入れるのはふつうではない。

しかし、読点は、単語のくぎりをしめすだけの目的には、重すぎる。おなじ文に別の読点がつかわれていて、それとのあいだで、意味のうえでのくぎりの重さがちがうと、かえって読みにくくなることもある。

わたしは、文全体のわかちがきをしないにしても、くぎりが必要なところで あき をいれることが、ふつうになるとよいと思う。

- 5 -
「多分野党」ということばがつかわれる可能性はあるだろうか。

日本の政党のなまえとしては、いまはないし、想像できるかぎりの将来にも、たぶん(!) 出てこないだろうと思う。しかし、外国の政党のなまえの日本語訳としては、ありうると思う。政党のなまえのつけかたは、国によってだいぶちがい、日本の習慣からは想像しにくいものもあるから。

「党」ということばは、政党にかぎらず、意見の近い人がまとまって意見の大きくちがう人と対立する構造ができるときや、このみの近い人がまとまるとき(たとえば「甘党」のように)も つかう。そのような意味ならば、「多分野党」もありうるかもしれない。

もうすこし具体的には、大学や大きな学会の運営方針について、多数の分野の人がいっしょにかかわることを重視する人たちと、ひとつの分野の中で学問の質をたかめることを重視する人たちとの対立構造ができれば、前者が「多分野党」となるかもしれない。(後者はいわば「単一分野党」だが、むしろ、それぞれの分野の固有名をつけた「〇〇分野党」になりそうだ。) ただし、この状況でつかわれそうなことばは、まず「派」であって、「党」をもちだすのは、ちょっと冗談めいた表現としてうけとられそうだ。

- 6 -
いわゆる人工知能が「多分野党」をどうあつかうだろうか、と思った。

Google Translateで、日本語から英語への機械翻訳をためしてみた。Google Translateは機械学習をつかっているそうだから、プログラムがかわらなくても、文章を読む経験がふえることによって、訳文はかわっていくのかもしれない。ここに書くのは、2019年11月30日にためした結果だ。

  • 「多分野党」は「Multi-sector party」
  • 「たぶん野党」は「Maybe opposition party」
  • 「たぶんやとう」は「Maybe yato」
  • 「多分野党はこう言うだろう。」は「A multidisciplinary party would say:」
  • 「たぶん野党はこう言うだろう。」は「Maybe the opposition party would say:」
  • 「多分野党はあれをやるだろう」は「Multi-sector parties will do that」。ただし選択肢に「Perhaps the opposition'll do any」がでてくる。 (どうして any かはよくわからない。おそらく機械学習の材料のうちの特定の例文の表現がそのまま出てきたのだろう。)

「多分野」を認識するか「野党」を認識するかの両方の可能性があるが、漢字でつづけて書くと「多分野」を認識する可能性のほうが高い、という状況だと思う。

- 7 [2019-12-12 追加] -
ここまでの話題からはそれるが、「多分野」には「他分野」と同音異義語 (ただし、意味の関連はある語)だという問題もある。

なるべく「多分野」は「たくさんの分野」あるいは「いろいろな分野」、「他分野」は「ほかの分野」のように、長めになってもまぎれにくい表現をしたほうがよいと思う。

しかし、「多分野」や「他分野」が何か (かりに「〇」としておく) を修飾するような構造の複合語をつくりたいときには、ここでしめしたような長い表現に「〇」をつけたしたのでは、「分野〇」というまとまりがあるようにみえてしまい、意味がうまくつたわらない。「多分野〇」あるいは「他分野〇」という表現を、そのどちらかだけがあらわれるように注意しながら、つかうしかないのかもしれない。

- 8 [2019-12-12 追加] -
この記事の本題に関係のない余談なのだが、「野党」のほうで思いあたることとして、「や党」でも「よ党」でもない「ゆ党」というもの言いがある。

かりに与党が右、野党が左ならば、「ゆ党」は中道だとされることがある。これは五十音図(アイウエオ)のヤ行のうちの位置を意識しているのにちがいない。

母音の発音から考えると、a - o - u の順にならぶ構造があるから、「や党」が左、「よ党」が右ならば、「ゆ党」は極右ということになるかもしれない。