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パラメタ、パラメーター (parameter) / (勧めたくない用語) 母数

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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わたしの専門で、(ひとまず英語表現で) parameter ということばは、かかせない。

自然現象の数理モデルの文脈と、具体的な計算機プログラムのソースコードを書く文脈とで、意味は同じではないのだが、同じ構造をもっている。なるべく両方にあてはまる説明をこころみてみる。

Parameterは、変数(variable)と定数(constant)との中間にくるものだ。基本的に同じ計算プログラムを、条件を少しだけ変えて、何度か実行することがある。それぞれの回の実行のうちでは定数だが、「条件を変える」ことにともなって値を変更されるものがある。このようなものを parameter とよびたくなるのだ。

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英語の parameter にあたることばが、日本語のうちでの外来語として かたかなでどう書かれるかには、ゆらぎがある。

「...ター」か「...タ」か、は、よくある、単語のおわりの長音符のあるなしの件だ。英語の単語のおわりの -er や -or は、ふつう、アクセントのない あいまい母音だ。これは日本語では「アー」または「ア」で受ける習慣があるのだが、どちらにするかは専門分野ごとの習慣のちがいがある。大まかにいえば、理学系の専門では長音、工学系の専門では短音で表記することが多い。【なお、単語末の あいまい母音でも、つづりが r をふくんでいないばあいは、長音にしないのがふつうだ。たとえば data は「データ」であり「データー」ではない。】

「メー」か「メ」か、というのは、この語に特有の事情だと思う。parameterは、あきらかに、ギリシャ語起源の要素 para- と meter からなっている。そこで、わたしはながらく、英語での発音は me の e にアクセントがあると思っていて、それならば発音からすなおに かたかな にすると「パラミーター」だろうと思っていた。しかし、辞書でたしかめると、わたしの想定はまちがいで、ram の a にアクセントがあるのだ。me の e は あいまい母音で、「マ」「ミ」「ム」「メ」「モ」のいずれでも同じ程度にもっともらしいのだが、つづりに対応する「メ」がまずまず妥当だろう。そしてここにはアクセントがないので、英語の発音にもとづくならば長音にする理由はないと思う。しかし、同じ要素をもち e にアクセントがある語が「...メーター」あるいは「...ミーター」となることが多いので、長音にしたくなることもあるのだと思う。

【英語以外の言語の影響があるのかもしれないが、わたしはしらべることができていない。】

わたしは、一時期は、文字数を節約する意味で、長音符なしの「パラメタ」で一貫させようとしていた。しかし、その後、他の人の書きかたにあわせたこともあり、表記が一定しなくなっている。

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ネット上で「母数」ということばについての議論をみかけた。

「母数」ということばを、多数の対象のうちから少数のサンプルをとって調査した話で、もとの多数の対象の個数をさしてつかう人がいる (便宜上「Aの人びと」と呼んでおく)。

しかし、統計学の専門家からみると、「母数」は parameter と同じ意味のことばなので、Aの人びとの用語はまちがいなのだ。

わたしも、このような文脈では「母数」ということばをさけて、別の表現をしたほうがよいと思う。

Aの人びとが「母数」ということばを使ってしまうのは、統計学用語の「母集団」と関係があるらしい。わたしは、Aの人びとのいう「母数」は、だいたい「母集団の要素の個数」であると思う。ただし、わたしの「母集団」ということばの使いかたは(推測統計ではなく記述統計のたちばで使っているつもりだが)正確でないかもしれない。もし「母集団」をこのように持ち出すのがうまくないならば、わたしにはまだ適切な言いかえを提案できない。

しかし、わたしは統計学者たちに向けて、「母数」ということばを使うのをやめて、(長音符についての不統一はあってもかまわないから)「パラメタ」のようなことばを使うようにお願いしたい。統計学用語の「母数」は(残念ながら)多くの人の常識になっていない。また、(matrix ということばの語源が「母」と関連しているのとはちがって) 西洋語の parameter には「母」と関連した意味の要素はふくまれていない。「母数」ということばが出てくる場面をへらしたほうが、まちがいがへると思う。

同じではないが関連する語について、[2018-04-30 「サンプル数」]の記事に書いた。その話題はここではくりかえさない。

【[2019-12-25補足] 学術用語としての意味ではないが、「母数」を、「分数の分母になる数」という意味で使う人もいるようだ。これもまぎらわしさの原因になっていると思う。】

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気象と気候の数理モデルでは、parameterization ということばがよく使われる。これについては、[2012-06-10 モデルとパラメタリゼーション]の記事でのべた。

ここでいう parameterization というのは、(おもに物理法則にもとづくモデルの部品として) 経験式にもとづくモデルをつくること、あるいはそれでつくられた(部品となる)モデルをさす。

経験式はたいてい、いくつかの係数をもっている。経験式をつくる作業には、その係数の値を(経験にもとづいて) きめる作業がふくまれる。経験式をつかう段階では、その係数は定数とみなされる。その係数は parameter であり、経験式をつくることが、経験によってparameterをきめることで代表されるのだ。

英語の parameterization は、parametrization と書かれることもある。(parametric などと同様に meter が metr- となる。)

日本語では「パラメタリゼーション」がふつうだろう。「パラメタ化」のように表現することもあるが、これはむしろ動詞の parameterize に対応するだろう。