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すべての国立大学と大学共同利用機関の法人を統合せよ

政府の意見募集(パブリックコメント)のうちに、「国立大学の一法人複数大学制度等について(案)」に関するものがあった。しめきりは2019年1月9日だ。http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001026&Mode=0

これに対して、1月8日、つぎのような意見を送った。(まえからこのブログに書いているわたしの持論であり、審議会での論点からずれていることは認識しているが、この機会に意見を知らせようと思った。) 意見を送ったeメールの表題は「国立大学の一法人複数大学制度等について(案)への意見」である。このブログ記事の表題はこのブログかぎりでつけたものだ。

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複数の国立大学をひとつの法人のもとで運営することを可能にすることは、ながらく待望していたことであり、ぜひ進めるべきことだと思います。しかし、わたしが期待するのは、大学を二つや三つごとにまとめることではありません。原則としてすべての国立大学と大学共同利用機関法人をひとつにまとめることです。

大学の法人化によって、役所よりは柔軟な運営ができるはずでした。しかし実際は、窮屈さは強まりました。それぞれの大学が、法人化の時点で国から受けついだ人と物を、なんとか維持するか、残念ながら削る以外に、進む道がなくなってしまったのです。失敗の原因の一部分は、事実上資本金のない法人をつくってしまったことだと思います。単年度予算主義から解放されても「エイプリルフール越しの銭」がないのです。(今回提案された制度変更がされても、この意味での法人の性格は変わりませんが。) もうひとつ重要な部分が、各大学をばらばらに法人化してしまったことだと思います。当時は国鉄、電電、高速道路と、「分割民営化」が正義とされた時代でした。その国鉄の場合でさえ、「JR青森、JR秋田、JR岩手...それぞれ独立採算でやれ」とはしなかったのです。国立大学はそれに相当する破壊的なしうちを受けたのでした。今からでも「国立大学特別会計を一括法人化した」状態をつくるべきです。

学者は大学に属していても、それぞれ小さな規模の研究室を経営しているという意識や、専門分野別の学者集団に所属しているという意識をもっています。所属している大学ごとで競争せよといわれても、意欲がわかず、効果があがりません。各大学で特徴を出そうとすると、少数派である専門分野はどの大学でも特徴になれず、削られ、次世代を養成できず、貴重な資料さえ失われてしまおうとしています。このままでは日本の学問がほそります。

大学は必ずしも高校新卒の若者だけのものではありませんし、外国人が学びにくる場でもあると思いますが、日本の人口減少にともなって、大学の規模の縮小が必要なこともあると思います。また、ある学問分野がのびれば、他の分野で規模を維持するのがむずかしくなります。専門分野ごとに、人数や予算規模の縮小がさけられないことが生じるでしょう。そのなかで、知識や資料を維持して次世代につないでいくための方策が必要です。

そのために、それぞれの専門分野別に、全国センターをつくるべきです。センターには、重要な資料を集めて長期保存し、共同利用に提供する機能があります。資料の共同利用の世話役を職務とする専門職員や職務に含む教員を配置するべきです。また、研究集会を開き、共同研究をする場ともなるでしょう。教育面では、全国センターのある大学の博士課程に他の大学の同じ分野の博士課程を統合していき、博士レベルの指導をする能力があるけれども博士課程をつくれない大学にいる教員に、センターの大学の博士課程を兼任してもらうのがよいと思います。学士か修士までもよりの大学で学び、博士はセンターで学ぶのが標準的になるでしょう。全国センターは、外国との学術協力にとっても要となるでしょう。専門分野によっては、日本語で運営されるセンターと英語で運営されるセンターを別々につくったほうがよいこともあるかもしれません。

すでに大学共同利用機関のある分野はそれを使うのがよいでしょう。その他の専門分野のセンターを、全国の国立大学に分散配置するべきだと思います。センターを形成するような大学間の人事異動と兼任を可能にするために、すべての国立大学法人と大学共同利用機関法人を、早く統合してほしいと思います。

なお、法人統合の際の注意点として、労働契約法の、任期つき雇用労働者の無期限化の条項とのかねあいがあります。労働行政の観点では、雇用の短期化に歯止めをかけることは、当然やるべきことです。ところが、独立行政法人のたぐいへの行政管理が運営交付金漸減と中期計画ごとのscrap and buildをさせるうえに、科学技術行政が時限プロジェクトばかりやるので、大学や国立研究開発法人では無期限雇用を約束できる人数が少なくなっています。「予防的雇い止め」で、雇用がかえって短期化していることもあります。これには労働政策・行政管理・学術政策にまたがった抜本的政策が必要だと思います。しかし過渡的問題として、今は類似の研究を続けるために一法人から他の法人に異動するという便法があるが、法人が統合されてそれが不可能とされると、多数の学者個人が適した職を失い、学問の発展もとどこおることになりますので、労働行政とのあいだで無理のない対策をとる必要があると思います。