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学術に関する学術について (科学研究費の審査の「分科・細目」に対する意見)

国の文部科学省から日本学術振興会(学振)が業務を引き受けている「科学研究費」について、学振が「科学研究費助成事業の審査に係る「系・分野・分科・細目表」等への意見の受付について」( http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/02_koubo/saimoku_uketsuke.html )という意見募集を出しているのを、2015年12月の途中に知った。

学問の発展に対して、研究費をつけるかどうかを審査する枠は、大きな影響を及ぼしうる。これには意見を言いたいと思った。言いたいことはいろいろ考えられるが、「学術についての学術」の件に限ることにした。ただしここで「学術」というのは、科学研究費という制度で使われている「科学」と同じ意味のつもりだ。自然科学・工学だけでなく人文学・社会科学も含む。

「提出期限」のところには次のように書かれている。年内の学振が業務をおこなう日のうちに出すべきだと思ったが間に合わず、申しわけないと思いながら、12月31日に送信した。

平成29年度科研費の公募において適用する細目表の見直しの検討に当たり、参考とする意見は平成27年12月末までに提出されたものとします。
なお、現在、平成30年度科研費の公募に向けて細目表の見直し等を行っていることから、平成28年1月以降は、現行の細目表等への意見の受付は行わないこととします。

なお、この意見募集には書式ファイルがあって、それはMicrosoft Excelのxls形式だった。公共機関が特定の会社のデータ形式を使うのは困ったものだ。また、数値や単語の羅列でなく文章を書かせるのに表計算ソフトウェアの形式で書かせるのは、入力の枠で文章を推敲することがむずかしいし、文章中の段落を分けることもむずかしい。

このあとに続いて、Excelで書きこんでeメールで送ったわたしの意見文をそのまま示すが、段落の切れめの改行だけは追加した。

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改訂が必要な細目名等

科学社会学・科学技術史

改訂が必要な背景・理由

この細目は、科学研究費の対象とする「科学」あるいは「学術」という人間活動(「学術」で代表させます)自体を課題とする学術です。学術振興にとっては特別な意義があります。


それは科学社会学と科学技術史でつくせるものではありません。それは一面ではすべての学術の関係者が参加可能な学際的な場であるべきです。しかし別の面では、その学術自体の質を高めるためにディシプリン化が起こっており、それを推進することも望ましいことです。この多面性を考慮すると、この分科は、仮称「学術学」のような大きな主題に広げたうえで、ディシプリン別および学際的課題が応募しやすいような複数の細目またはキーワードを指定するのが適切だと思います。


わたしの主観的観察による現状認識を述べます。


まず科学技術史は、ディシプリンの方法論的基礎は歴史学なので歴史学の下に置くことも考えられます。しかし対象分野の研究者の参入をも期待するならば複合領域に置くのがよいでしょう。


次に科学社会学ですが、狭い意味のそれは社会学の分科の細目でもよいと思います。しかし、より広い「科学技術社会論」という学際的分野があります。その中には科学技術政策・学術政策の研究も含まれます。これは公共政策論の一部とも考えられます。科学計量学もあります。これは方法論的には情報学かもしれません。研究者のふるまいを観察する研究室研究もあります。これは人類学に含まれる科学人類学として行なわれることが多いのですがそう銘打つと人類学出身者以外がやりにくいと思います。そして、科学計量学のようなマクロな面でも研究室研究のようなミクロな面でも、生物学の中で発達してきた生態学の方法論がもっと使われるべきだとわたしは考えております。


第3に、学術に関する学術だが現在の細目名に含まれないものとして科学哲学があります。これも狭い意味のそれは哲学の細目でよいと思いますが、科学基礎論や科学方法論といった語で表現される、もっと広範な課題があります。

どのような改訂が必要か(具体的な内容)

本格的な再編成をするならば、仮称「学術学」のような分科をたて、細目として「学術基礎論・学術方法論」「学術史」「学術動態研究」「学術社会連関研究」「学術政策研究」などを置くべきだと思います。


ここで「学術社会連関研究」は「学術と社会の連関を研究すること」のつもりです。「学術動態研究」という表現は「環境動態解析」をまねたものですが、科学計量学のようなマクロなものから研究室研究のようなミクロなものまで含めることを想定しています。


科学技術史や科学社会学ディシプリンの人の仕事と、対象となる科学分野をはじめとする広範な人の参入とを、同じ分科・細目に入れて、うまく課題の審査や成果の評価ができるかという疑問があります。「キーワード」という用語がなじまないのですが、細目をさらにA,Bのように分けて応募してもらって、一方に当該ディシプリンの人がまとまりやすくする策があるとよいのかもしれません。


最小限の改訂とし、聞きなれない用語の導入も避けたいならば、分科名は「科学論」のような大まかなものとして、細目あるいはキーワードで、「科学技術社会論」「科学技術史」「科学基礎論」「科学政策」くらいに分割するのがよいと思います。

当該分野に関連するキーワード

科学技術史、科学社会学科学技術社会論、科学計量学、科学人類学、学術・科学技術政策、科学哲学、科学基礎論、科学方法論

当該分野に関連する主たる系・分野・分科・細目表の細目名

(総合系 複合領域) 科学社会学・科学技術史

当該分野に関連する主たる学会等

この分科の内容を主題としている学会としては、科学技術社会論学会、科学社会学会、日本科学史学会、科学哲学会、科学基礎論学会、研究・イノベーション学会など。しかし対象分野の学会でも主題とされることがある。