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火山噴火が地域規模の天候・環境におよぼす影響という問題

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火山噴火が世界規模(「全球規模」も同じ)の天候におよぼす影響について、その表題の[2015-11-01の記事]では、重要なのは成層圏に達したエーロゾル(おもに硫酸液滴)だと書いた。

その記事では、「火山灰が太陽光をさえぎる」ことも、「地域規模(千kmくらいまで)、短期間(噴火継続中から数日後まで)の天候に対して起こる影響としては、... もっともだ」と書いた。このとき、世界規模の影響と地域規模の影響とは、規模のギャップがある別々の現象だと考えていた。

しかしその後、[2018-03-23の記事]でふれたテレビ番組で、1783年アイスランドのLaki火山の噴火のとき、フランスのパリなどで、霧が多く、そのうちには有毒なものもあった、という話を聞いた。これは、アイスランドの火山噴出物に由来するエーロゾルが、おそらく対流圏の空気の流れによって、4千kmほど離れたフランスまで運ばれたということにちがいない。その物質のうちには岩石片(火山灰)も少しはあっただろうが、おもに硫酸だったかと思う。この状態は数か月続いたそうだが、噴火自体が続いたので、影響が起こった期間は前に述べたのと同様「噴火継続中から数日後まで」でよいのだろうと思う。

1783年には日本の浅間山の噴火もあった。火山噴火の規模としてはLakiのほうが大きいので、このときの世界規模への天候への影響にとっては浅間山は重要ではなさそうだ。しかし浅間山の風下数千kmの地域の天候にとっては、浅間山の噴火の影響も無視できないだろう。

Wood (2014) "Tambora" の本[読書メモ]は、1815年4月10日に起きたインドネシアのTambora火山の噴火の影響であると考えられること(影響だと論証されたわけではない)をたくさんあげている。その多くは世界規模の影響だが、第4章の話題のうち、1815年4月下旬にインドのマドラス(今のチェンナイ)を含む地方で異常低温が出た、というのは、やはり、火山から対流圏の風によってはこばれたエーロゾルによって地上に達する日射量が減ったのだと思う。エーロゾルが直接太陽放射をさえぎったことなのか、雲を変化させることによる間接的なものだったのか、などは、まだわからない。

ともかく、火山噴火が水平数千kmの規模で天候におよぼす影響という問題があり、その中間項はおそらく対流圏に不均一にひろがるエーロゾルだろう、と思う。同時に、エーロゾルや、二酸化硫黄などの気体成分による、人体や生物への影響もあるだろう。

【この空間規模をなんと呼ぶかはむずかしい。気象学の用語としては、空間規模数千kmは、総観規模(synoptic scale)だが、この用語は温帯低気圧という現象に結びついているところがあり、エーロゾルの輸送とそれがおよぼす影響の議論には適しないかもしれない。他方、気象・気候の数値モデルについては、全世界を対象とする全球(global)モデルと対比して、それより少しでも小さな領域を対象とするものは領域(regional)モデルと言ってしまうことが多い。IPCCの報告書の気候がおよぼす影響(impact)に関する記述でも、アジアをひとつの地域(region)とみなすような用語づかいをしていることがある。しかし、そのほか多くの専門の人も、しろうとも、「地域」ということばから、(たとえば)日本の国よりも小さな空間の広がりをもつ地域を思いうかべることが多いだろう。ひとまず「地域規模」という用語をここまで広げることにするが、もっとよい表現があったら変えたい。】

このような現象の解明は研究課題になりうると思う。そして、将来ありうる噴火にそなえるのに役だつという効用もあると思う。ただし、過去のエーロゾルの分布や、生物や人間への影響の証拠が、残っているとはかぎらない。因果関係を解明できるとしたら、運よく証拠が残っていて、それを丹念に集めて、複数の専門の人が関心をもっていっしょに検討することができた場合だと思う。