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情報処理教育に関するわたしの経歴

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

【この記事は個人的覚え書きであり、知識を提供することも、意見を言うことも、直接には意図していない。ただし、今後、知識提供や意見の記事を書くときに背景説明として使う可能性を想定して書いている。】

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「情報教育」ということばはいろいろな意味に使われていると思うが、高校の教科として「情報」ができてからは、それに近い学問分野の教育をさすことが多いと思う。そのうちには、ディジタル計算機 [「電子...」である必要はないと思うのでこの表現を使う] によって計算をすることについての教育が、けっしてすべてではないが、重要な部分として含まれていると思う。ここでは、この部分を「情報処理教育」と呼ぶことにする。

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わたしは、情報処理教育を名目として雇われたことはないのだが、実質的な業務として情報処理教育にかかわってきた実績はある。その面でのわたしの経歴について書き出しておきたい。(広い意味の「情報教育」に関連しそうな経験はほかにもあるのだが、ここでは、教材(情報処理以外の内容も)をウェブサイトに置いている件だけふれて、ほかは省略している。)

この記事は、ブログ記事の形よりも、わたしのウェブサイトの自己紹介的な部分に置いたほうがよいのかもしれない。もしそうする場合はここにリンクを残すことにする。

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わたしが最初に(電卓を別とした)計算機にふれたのは、1978年、大学3年のときだった。 そのときは使いこなせなかったのだが、 翌年の大学4年の演習ではFortranで理論演習の数値計算や観測データの処理ができるようになった。 当時の東京大学の地球物理学コースには計算機利用のしかたを教える授業はなかったが、 工学部の『算法通論』などを参考にした独学や、先輩・同輩から学ぶことで技術を見につけた。 わたしの場合は、Kernighan & Plauger の Software Tools (日本語版『ソフトウェア作法』が出る前)や 『プログラム書法』の影響を強く受けている。

修士課程から、おもに大型計算機センターのHITAC VOS3を利用し、Fortran 77でプログラミングして、当時の大学院生としては大量の数値データを処理した。

大型計算機センターにはプログラム相談員という制度があり、 利用者がボランティアでつとめていた。 わたしは、たぶん1982年度(博士課程1年)から1986年度(助手の2年め)まで相談員をした。 さまざまな利用者の質問に応じた経験は、わたしが(現業公務員でなく)大学教員という職業を選ぶきっかけともなった。 センター職員の野本征子さんに協力して、 プログラム相談で出会ったエラーとその対策を整理し、 センターの『Fortranプログラムデバッグの手引き』の作成にかかわった。

研究の過程では、あちこちの気象現業機関や研究機関のデータの提供を受けた。 気象の分野は、WMOが各国の気象現業機関の間で主要な気象データを自由に交換する原則をつくったことや、 アメリカ合衆国が連邦政府作成のデータをパブリックドメインにし、かつ、 データの提供を業務とするデータセンターを早くから持っていたおかげで、 多くのデータを共同利用することができている。 ただし、違った機種で磁気テープに書きこまれたデータを読む際の技術的問題にはよく出会った。 その解決策の参考情報の源として重要だったのは、 アメリカの大学共同利用研究所であるNational Center for Atmospheric Research (NCAR)だった。

気象ではデータを図化して目で見ることも重要だ。 ただし、データは、空間3次元、時間を含めれば4次元に分布するのだが、 3次元グラフィックスや動画よりも、 まず、平面や南北鉛直断面などいろいろな2次元の数量の分布図をつくることが重要だった。 地球上の数量の分布を地図に重ねることも必要だった。 この点でもNCARが先進的であり、Fortranのサブルーチン集をソースプログラムで配布していた。 助手であった中村一さんが日本に持ち帰り、東大のHITACに移植を始めたので、わたしも参加した。 中村さんが気象庁に異動し、わたしが助手になってからは、東大での移植やドキュメント作成は わたしが主に担当した。

1985-1992年度の東大助手の本務としては、地球物理学コースの演習科目を担当した。 そのときどんな計算機システムを使ってどんな作業をしたかは、 1987年と1991年の2回、教育用計算機センターの『センター報告』に書いた。

また、大型計算機センターでは、プログラム相談員に関する小委員会委員、 『センターニュース』編集委員などをつとめ、センター運営に協力した。『センターニュース』には、NCARに由来するプログラムライブラリ(サブルーチン集)の紹介、他の計算機で作られたデータを読むノウハウなど、たびたび寄稿した (興味のあるかたは[わたしの著作リスト]の「計算機センター出版物記事」の部分をごらんいただきたい)。このような仕事は「教育」というよりも研究者間の「互助」だが、教育機関としての大学の機能の一部とも言えると思う。

教育用計算機センターのプログラム相談員をつとめたこともある。 直接相談を受けることは少なかったが、 大型センターの「デバッグの手引き」のHITAC VOS3向けの記述を FACOM MSP向けに読みかえたローカルドキュメントを作成した。

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1992-2000年度の東京都立大学助教授としては、 地理学コースの地理情報に関する実習やその教材整備、 それに関する雑務として、実習用パソコンやUnixワークステーションの保守を担当した。 (学科のメールサーバーを運用していた時期もあるが、 全学システムの更新を機会にそちらを利用するように切りかえた。)

地理の専門の教材のうち、地図上の数量データの表示については、 都立大学着任当初は、MS-DOS上でもUnix上でも GKS準拠のFortranサブルーチン集を使おうとつとめていたが、 1995年ごろから、Unix (Linuxを含む)上でGMT (Generic Mapping Tools)を使うことが多くなった。

なお、ワープロなどのオフィス作業は、MS-DOS上でおこなっていたが、 わたしは、1997年ごろ、Linux上に移行した。 しかし、まわりの教員・学生のほとんどは、MS WindowsかMacのいずれかに向かったので、 ノウハウの共有がむずかしくなってしまった。 (わたしは、その後2011年度からは、オフィス作業をMS Windowsでやる必要が強まったせいで、Linuxを使う習慣がなくなってしまった。)

全学の一般教育の情報処理科目も担当した。

理科系2年生向けの「情報応用」あるいは「情報基礎3」を複数年次担当した。 Unixワークステーションのウィンドウシステムを使った。 プログラム言語としては、Fortran, Pascal, Cをなるべく並列に示すように努力した。 教材の文書は、当初は学内限定のNetNewsシステム、ウェブブラウザが利用可能になってからは学内限定のウェブページに置いた。その内容の多くの部分は、のちに個人ウェブサイトで公開したが、プログラム例は必ずしも含まれていない。

1年生向けの「情報基礎1」も一度担当した。 計算機のしくみに関する講義と、 MS-DOS上のTurbo Pascalによるプログラミングの実習からなっていた。

東京都立大学の全学システムにはメインフレーム機があった。 しかし、1991年の移転以来、OSがIBM VM/CMSであり、わたしが慣れていたMVS系のものと使いがってが違ったため、 わたしはそれにかかわらず、教育用Unixワークステーションだけにかかわった。 1996年の機種更新の際には、検討メンバーになったので、 メインフレーム機に代わってUnixサーバー機を導入することを推進した。 その後は、そのUnixマシンを率先して使った。

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2001-2006年度、慶応大学湘南藤沢キャンパスで、 非常勤講師として授業を担当した。 2007年度からは、東京農工大学農学部で非常勤講師として授業を担当している。

教材は、なるべくウェブページの形で作成し、 講義の際にはそれをブラウザで見ながらプロジェクターに投影する形で使っている。 著作権そのほかのさしつかえがないかぎり、インターネットで広く公開している。 慶応大学のときは大学のサイトに置いていたが、現在は個人サイト http://macroscope.world.coocan.jp/ja/edu/ に置いている。

継続して教えている内容は、 エネルギーと水の循環に重点を置いた気候システム(大気・水圏)の自然科学である。 その教材は http://macroscope.world.coocan.jp/ja/edu/clim_sys/ で、講義の際に少しずつ改訂している。 (講義で再利用しない部分は古いままのこともあり、 科学知識を一般に提供するページと思われると残念なこともあるが。)

慶応大学では、そのほかに、 「地球環境観測」という科目で、大気・水圏の観測データに関するデータリテラシー [注]の教育をしてきた。 教材ウェブページ http://macroscope.world.coocan.jp/ja/edu/eobs2006/index_ja.htmlが残っている。 ただしプログラム例は含まれていない。 実習は、大学のワークステーション教室のUnixワークステーション上で、 例文のプログラムを少しだけ編集して動かしてもらう形でおこない、 作図にはおもにGMTを使った。

  • [注] ここでは「データリテラシー」という用語を(暫定的に) 柴田(2001)の本と同様な意味に使っている。
  • 柴田 里程, 2001: データリテラシー (データサイエンスシリーズ 1)。共立出版 , 171 pp. [読書ノート]

2007年度からの東京農工大学での担当は講義科目1つであり、ときどき計算の課題を出しているけれども、週1こまの訪問では計算機の使いかたの指導をすることはできず、また、大学が学生共用の計算機を提供しなくなってしまい、学生全員が知っていることを前提にできそうなのは 表計算ソフトウェアの単純な使いかた程度らしいので、思うような出題ができないでいる。R ならば、Windows, Mac, Linuxのいずれでも動くので、2017年度には R でプログラム例を用意しようと考えている。