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ディジタルデータによる(地球環境についての)博物館の構想 (1991年ごろ考えたこと)

25年ほど前の1991年ごろ、わたしは「ディジタル博物館の構想」のような文章を書いたはずだ、と思ったのだが、どこにも残っていない。書こうと思っただけで書きあげなかったのかもしれない。

当時からのわたしの関心は、気候を含む地球環境のデータを整備することだった。その話題について1990年に「情報学シンポジウム」で発表した。そのデータを多くの人に使ってもらうための提供の場について考えはじめた。翌年の同じシリーズのシンポジウムで、それを論じることも考えたのだが、結局、計算機センターの利用者の相談にのる仕事について論じた。1995年にふたたび地球環境のデータの整備を論じたが、そのときには、データの利用はたいてい利用者の自宅や職場でおこなわれると想定して、話題をデータの編集と配布に集中させてしまったようだ。

要点は次のようなことだった。わたしは今も同様に考えている。(その実現のために働くことができないまま能力を失いつつあることを申しわけなく思う。)

データの利用者は、問題関心や予備知識が多様であり、データを提供する場は、その多様さに対応する必要がある。しかし、データを提供する組織の人間や機械の労力には限りがある。また、データの質の保持のためには、共通の基礎データを維持するところに注意をはらったうえで、それを利用目的のタイプ別に提供するしかたをくふうするのが望ましい。

データマネジメントとデータの提供をあわせた機能を果たす場を、博物館という比喩でとらえることができるだろう。いわば、データマネジメント機能を博物館の地下にある収蔵庫、データ提供機能を地上にある展示室のように考えてみることができるだろう。

データ利用の形態を類型化することを試みた。考え落としがあるかもしれない。また、同じ人が違った形態で利用することもよくあるだろう。現物を展示する博物館の比喩で名まえをつけてみる。

  1. 順路モード。まずここには何があるのか見渡したい利用者が、案内書に従って、各種のデータのそれぞれ典型例を観察する。
  2. 検索モード。知りたいこと・研究したいことの主題はしぼられていてそれに関する具体的データには何があるかを知りたい利用者が、主題のキーワードで目録を検索し、見つかったものそれぞれがどんなものであるかを観察する。
  3. 相談モード。知りたいこと・研究したいことがあるが、それに役だつデータをキーワード検索だけでは見つけられない、あるいは見つかったものをどう使えるのかよくわからない利用者が、博物館学芸員に相当するデータ専門家に相談する。専門家が自分で答える場合、別の専門家を紹介する場合、共同研究に発展する場合などがありうる。
  4. サンプル持ち帰りモード。利用者がデータを持ち帰り、あとは利用者自身の管理下で使う。これは従来の「データセンター」で「データの配布を受ける」あるいは「データをダウンロードする」のと同じことである。ただし、上の1,2,3のいずれとも連動してできるようにしておきたい。

背景説明に関連する文献

  • 増田 耕一, 1990: 地球環境研究(気候研究)のためのデータの整備に向けて。 1990情報学シンポジウム講演論文集 (学術会議情報学研連ほか主催), 221 -- 230. http://macroscope.world.coocan.jp/ja/text/geoinfo/infsym90/text.html
  • 増田 耕一, 1991: 計算機利用者支援ソフトウェアに望むこと--ハイパーマニュアル構想。1991情報学シンポジウム講演論文集 (学術会議情報学研連ほか主催), 157 -- 160. http://macroscope.world.coocan.jp/ja/essay/hyperman.html
  • 増田 耕一, 1995a: ふたたび地球環境データの整備について。1995情報学シンポジウム講演論文集 (学術会議情報学研連ほか主催), 155 -- 160. (1995bとほぼ同じ内容の旧版。)
  • 増田 耕一, 1995b: 地球環境デ−タと地理情報科学。 GIS -- 理論と応用 (地理情報システム学会), 3, No. 2, 11 -- 18. http://macroscope.world.coocan.jp/ja/text/geoinfo/gissym95/text.html