5月30日の朝のNHKテレビのニュースで、(ほかの件でおせわになっている)東京大学農学部の溝口 勝(まさる)さんの顔を見た。福島県飯舘村の農家と研究者でつくるグループが、水田の土の放射性セシウムを取り除く除染の方法として、田車(たぐるま)という手動の農機具を使う方法をくふうした、という話だった。NHKのウェブサイトでは(今のところ)次のページにある。
NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120530/k10015469041000.html
小型農機具で効率よい除染可能に
その日に溝口さん自身もtwitterで発言していて、これは「ふくしま再生の会」という団体の活動で、詳しくはその団体の次のページを見てほしいということだった。
ふくしま再生の会
http://www.fukushima-saisei.jp/report201204.html
<活動報告>2012年4月
3月31日−4月1日 報告:小川唯史
また、新聞社のウェブサイトでもとりあげられていた。
河北新報
http://flat.kahoku.co.jp/u/blog-seibun/j4h8VDXJInCotqNf2MPW
余震の中で新聞を作る66〜除染に挑む・飯舘 その5
編集委員・寺島英弥
2012年05月03日
「ふくしま再生の会」のウェブサイトの会員名簿には溝口さんの名まえは見あたらないが、「東京大学福島復興農業工学会議」という団体の名まえがある。その団体のウェブサイトを見ると、溝口さんによる次の報告がある。
東京大学「福島復興農業工学会議」
http://blog.goo.ne.jp/frae/e/259eb797938d5bbb745fa66c0d136187
融解土掃出し法は使えない!−凍結は均一に融解は不均一に− 2012-03-21
さかのぼると、
- 春には解けた凍土を掃き出せ!−融解土掃出し法による土壌除染− 2012-02-09
- 冬の間に凍土を剥ぎ取れ!−自然凍土剥ぎ取り法による土壌除染− 2012-01-12
の記事がある。
また、溝口さんは大学の研究室ウェブサイトから資料を公開している。
溝口研究室
http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/fsoil/index.html
福島土壌除染技術
このうちいちばん新しい次のものは、東大農学部の報告会で発表した内容だ。
溝口研究室
http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/fsoil/120526mizo.html
自然凍結融解を利用した農地除染の試み
. . .
東京大学農学生命科学研究科
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/rpjt/event/20120526.html
第三回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会(2012.5.26)
ここまでで読んだことを整理すると次のようになる。
セシウムは土壌の表層約5cmまでのところに集中している。それを取り去ればその場の土壌は除染できる。
飯舘では冬は土壌水分が凍結する。表層5cmくらいまで凍結したときにそれを重機ではぎ取ると効率よく除染できる。シベリアの永久凍土の現地調査もした溝口さんらしい提案だ。
しかし凍結深が深くなるとこれはうまくいかない。単純にはぎとると表土をよけいに奪ってしまうことになる。そこで溝口さんは2月には、春になって部分的にとけた凍土の泥を掃き出すことを提案した。ところが3月に現地を見てこの方法はうまくいかないことがわかった。融解はとても不均一に進み、分布は掃き出せるような形になっていないのだ。
それを受けて、飯舘村の農家の菅野宗夫さんと「再生の会」の人たちが、「しろかき」による除染の方法を考えた。セシウムは土壌中の粘土成分に強く吸着している。水をはった状態で土壌を撹拌すると、大きな粒が先に沈殿する。水が濁っている間に水を流し出せばそれとともに粘土を流し出すことができる。(下流の水田区画をひとつ利用をあきらめてそこにためることになる。) ところが重機を使うと撹拌の深さが15--20cmになってしまう。
そこで宗夫さんが「田車」を使うことを思いついたそうだ。これは田の草取りに使う手押し車のような農機具で、今は使われていないが、運よく宗夫さんの物置には5台残っていた。これだとちょうど5cmくらいの深さを撹拌することができ、サンプル分析によって除染の効果が確かめられたそうだ。
原子力事故による汚染は、珍しい事件であり、その対策は創意くふうを必要とするが、将来も使われるとは限らない。他方、農耕そのものの技術は使われ続けていく。しかし、農耕に関する技術的知識、しかも最近使われなくなったがなんとか残っていたものが、突発的事態に対する創意くふうの材料として役だったことが興味深い。また、動力機械よりも手動の器具のほうが有効な場合の例としてもおもしろい。