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今年、日本政府がとるべき政策は、脱経済成長への適応の第一歩

日本の世論は、原子力事故のないことを望んでいる。そして、その全部ではないが大きな部分は、世界のうちで地震津波の確率の高い日本の海岸で原子力発電所を稼動させたり使用済み核燃料を保管したりすることによることによるリスクを許せない。

日本の世論は、いつでも電気を使える生活が続けられることを望んでいる。とくに、予告なしの停電は絶対あってほしくないと思っている。

日本の世論は、失業者がふえない(なるべくならば減る)ことを望んでいる。

エネルギー資源節約と(他の環境破壊を伴わない)再生可能エネルギーへのシフトを進めるべきであることは明らかだけれども、すぐに大きな効果があがるものではない。これまで原子力発電でまかなってきたぶんも含む電力を供給しようとすると、化石燃料の輸入をふやすしかない。ひとまず地球温暖化問題を話題にしないことにしても、日本社会の外国への依存は高まり、電力のコストは高くなる。

世論は、原子力発電を止め、化石燃料の消費をなるべくふやさず、しかし電気を使うことができ、失業者がふえないようにする政策を求めているのだと思う。

これは難題だ。20世紀以来の経験によれば、経済成長をせずに失業を減らすのはむずかしい。また、エネルギー消費をふやさずに経済成長をするのはむずかしい。

救いは、日本の世論のうち、経済用語で語る人々以外の多くは、経済成長をとくに求めてはいないことだ。各個人には物欲があるけれども、今に比べてずっと多くの消費財がある世の中を願う人はあまり多くないだろう。

世論に答える政策は、電力供給能力に需要を合わせる形で日本の経済活動を縮小することしかないと思う。

長期的には労働市場の需要と供給のつりあいもとれるようにする必要があるが、短期的には失業救済を兼ねて公共部門で人を雇って公共のために有益な仕事をしてもらうことが必要だろう。そのために、増税(税率上げ)はやむをえない。たとえ増税すれば企業倒産がふえる波及効果があるとしても、それで生じる失業まで救済できるようなしくみを考えるのだ。ただし、消費税、所得税法人税相続税その他いろいろな税のうちどの税の率をどれだけ上げるかについてはいろいろな案がありうる。すぐに、その社会的損得の評価を複数の専門家チームにしてもらい、政策論争をするべきだと思う。

その専門家チームには、マクロ経済や金融の専門知識のある人も必要ではあるが、従来のようにその人たちが主になるのではなく、労働政策や資源・環境政策を正面の課題とする人たちが主になるべきだと思う。

なお、電力の需要が低い状態に落ち着くまで、電気の値段が高くなることは当然だ。その状況のもとで所得の低い人に健康で文化的な生活を保証する政策も必要になる。

[「世論」と「よろん」の区別をする立場があることも承知しているが、ここでは暫定的に、「世論」は国民の意志を正当に代表した議論だと仮定して論じている。]