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p座標

[前の記事]で、気象で使う鉛直座標は高さ(海抜高度) z だとした。実際 z を使うこともあるのだが、むしろ気圧(大気の圧力) p を鉛直座標として使うことが多い。

水平座標を固定して鉛直だけについて考えると、ほとんどの場合、気圧は高さの単調減少関数だ。つまり、高さが高くなるほど気圧が低い。そして、水平スケール数十km以上で平均すれば、大気の鉛直方向の運動方程式は静水圧のつりあいで近似できる[教材ページ参照]。大気の単位面積の柱のうちの2つの平面で区切られた層を考えたとき、その層の上と下にかかる圧力の差と、層に含まれる空気の質量にかかる重力とがつりあっている。したがって、気圧 p は、その位置から上にある空気の面積当たりの質量を重力加速度で割ったものと等しくなる。

pが座標としてよく使われる理由のひとつは観測のつごうだ。大気中の温度・湿度などの分布を知る代表的手段であるラジオゾンデは、温度計・湿度計とともに気圧計を気球にのせて大気中をほぼ鉛直に上昇させる。高さも間接的に知ることはできるけれども、温度・湿度と同時に観測される高さの指標は気圧なのだ。

もうひとつは理論のつごうだ。鉛直方向の p の差がその間にある空気の質量に比例するので、鉛直座標に p をとった「p空間」(現実の空間を鉛直方向にのびちぢみさせた仮想的な空間)では空気の「密度」は一定なのだ。そこで、密度一定の流体の方程式がほぼそのまま使えることになる。もちろんこの場合、鉛直速度にあたるものも「p空間」での「p速度」d p / d t = ω (オメガ)を使う。ωの符号は z座標の鉛直速度 w と逆で、下降流で正となる。高さ(「高度」ということが多い) z は変数となる。【実際の高さとジオポテンシャル高度との微妙な違いがあるが、ここでは深入りしない。】水平方向の気圧傾度力は、等圧面上での z の水平微分によって求めることができる。

ただし、p 座標は、理論やシミュレーションには都合が悪いところがある。大気の下端である地表面[3月28日の記事参照]の鉛直座標値が、水平位置によって違うばかりでなく、時間によっても変化してしまう。これでは、微分方程式境界条件を与えるうえでも、地上での観測値とつきあわせるうえでも不便だ。そこで、p を変形して地表面の座標値が一定となるような座標を使うことが多い。もちろんp座標の特徴の一部はがまんしなければならない。このたぐいの代表的なものは、p を地表面気圧 psで割った σ = p / ps で、「シグマ座標」と呼ばれる。「σ空間」での鉛直速度は d σ/d t である。ただし、σ一定の面は大気の上層まで地上と同様にでこぼこした面になってしまう。地表近くではσに近く、上層では p に近いような混成座標が使われることがふえてきた。その鉛直座標を表わす文字は標準化されていないが、ηを使う例がある。