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再生可能エネルギー資源についての覚え書き (2) 太陽光 ... 直達日射と散乱日射

(1)の記事で「太陽光」としたものは、いわゆる太陽光利用と太陽熱利用の両方を含めたつもりだ。

エネルギー変換技術ごとの分類は、次のようにするのがよいと思う。

  • 太陽光発電」、つまり光電効果によって光を電気エネルギーに変えること。その装置が「太陽電池」。
  • 「太陽熱発電」、つまり太陽光によって得られる高温を利用して熱機関を動かし、電気エネルギーを得ること。
  • 太陽熱利用、たとえば太陽熱温水器

なお、発電の代わりに、化学反応を起こして燃料を生産することも考えられる。燃料として水素をつくる場合がよく研究されているようだが、水素よりも運ぶことや貯蔵することに適した物質を考える必要もあるのではないかと思う。

地上の太陽放射には、太陽から方向性をもった光として届く直達日射と、大気によって散乱されて方向がランダムになった散乱日射とがある。太陽と利用現場との間に雲があると、地表に達する太陽放射はほぼ全部散乱日射になってしまう。天気が「晴れ」か「くもり」かの判定は空のどれだけが雲に覆われているかによるので、「直達日射は晴れたときにだけ得られる」と言ってしまうと学術用語上は正しくないのだが、感覚的にはこう言ってよいと思う。

太陽光の利用では、エネルギー変換の前に、鏡やレンズを使った集光を行なうことがある。太陽熱発電で熱機関を動かすには温度差が大きいことが望ましいから、この場合には集光はほぼ必須と考えられている。太陽光発電でも、集光して利用する場合がある。太陽電池の素子の値段が高い場合は、このほうがそれをよく活用できるだろう。(ただし廃熱対策が必要になる。熱も利用できればなおよい。) しかし、集光が有効なのは、直達日射に限られる。

集光型の太陽光利用は、世界ではおもに砂漠地帯での実用化が考えられている。日本ではうまくいかないと考えられている。その理由は、日本では雲のせいで充分な直達日射が得られない時間の割合が大きい、ということなのだと思う。ただしわたしはまだこの論点をきちんと根拠づけて述べたものを見ていない。まだされていないのならば、この点を確認することには意義があると思う。

集光しないで太陽電池を使う場合は、直達日射と散乱日射の区別をする必要はなく、合計の全天日射量が資源量のめやすとなる。ただし詳しく言うと、全天日射量は水平面に到達する単位面積・単位時間あたりのエネルギーだ。太陽電池は傾いた面に設置することもできる(ただしその面の傾きや方向を季節や時刻に合わせて変えることは現実的でない)。そこで、たとえば、(別記事としてあらためて論じようと思っている)環境省(2011)の報告書の「概要版」では「S-2」ページに、地点ごとに固定された最適な傾きの斜面に到達する(直達・散乱合計の)日射量の分布地図(NEDO報告書から引用)が示されている。

ただし、そこに示されたのは年平均値だ。日本のようなところの太陽光利用では季節変化も重要だ。北海道・東北・北陸の日本海側(海岸に限らず広域)では年平均の日射量が少ないが、これは明らかに冬に(雪をもたらす)雲が多いことと関係があり、夏だけをとればむしろ太平洋側よりも日射量が多いのではないだろうか。(ただしこの点はまだ確認していない。) また、東北地方の太平洋岸(海岸近くの狭い地域)は、年平均の日射量は内陸よりも大きくなっており、実際に冬には日照可能な時間の大部分晴れていることが多いめぐまれた地域なのだが、夏には、いわゆる「やませ」の北東寄りの風に伴う下層雲が出ることが多く、太陽電池を直接使うのにはさしつかえないと思うが、集光型利用に適した条件ではない。雲の出かたは年々変動が大きいようなので、特定の年の観測値だけで資源量を判断しないほうがよさそうだ。年々変動の確定的予測は困難だが、過去の複数年の実績から確率的に評価することはできると思う。

日射量の観測が続けられている地点は少ないが、日照時間は、日本の場合アメダスの観測に含まれている。この日照時間の意味は、詳しくは観測機器によって違ってくるが、直達日射があるしきい値よりも多い時間を集計したものとみてよい。(日照時間と全天日射との間にもよい相関があるので、日照時間は全天日射の推定に使われることがある。しかし日照時間が0ならば直達日射はないが散乱日射はあるので全天日射は0ではない。)

ここまで、手持ちの一般的な気候・気象の知識に基づいて述べてきた。これ以上詳しいことを述べようとすると、詳しい観測データを扱い、また、観測地点と評価したい地点との類推がどの程度可能かをいろいろな情報によって評価しなければならない。わたしにたずねられても具体的なお答えをすることを約束はできない。しかし、ご自分で時間をかけて評価したいかたに、いくらかの助言をすることはできるかもしれない。

[2011-06-04補足: ところで、詳しくは別の機会に論じたいが、地球温暖化を軽減するための提案のうちに、大気中のエーロゾル(液体・固体の微粒子)をふやして太陽光の反射をふやすというものがある。地上に達する全天日射がはっきり減らなければ意味がないのだが、そうすると直達日射はとても少なくなり、集光型の太陽光利用は休業に追いこまれるはずだ。]

[2011-06-23補足: 現在の日本の日射が、集光型エネルギー利用に適するかどうかの判断は、発電(あるいは動力発生や化学合成)がどの程度間欠的でも許容できるかによって変わってくる。昼の時間のうち、日によっては全部使えるが日によってはゼロになり、平均するとおよそ半分くらい動いている、という条件でよいのならば(つまり、残りの期間は止まっていてもむだだと思わずにすむのならば)、日本の多くの地域で利用可能だと思う。ただし、エネルギー需要が毎日あるならば、くもりが数日続くことに備えてエネルギーをためる設備を併用することが必要だ。]

[2011-06-23補足: 産業技術総合研究所が昨年から岡山県太陽電池によるものだが集光型の太陽光利用の実験を始めていることを知った (産総研の広報ページ http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2010/pr20100629/pr20100629.html )。これで、日本の状況で集光型の利用がどのくらい可能かの認識が確立すると期待したい。]

文献